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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
世界を駆ける狼
16/98

船出

# another side


朝日が登り幾らかの時間が経った朝方


ミザリーとベイカーは港に停泊している船に乗り込む所だった


船乗りたちが大小様々な貨物を運びこんでいる


ミザリー達以外にも貨物船にて王都方面へ向かう人も多数おり各々が船に乗り込みはじめていた


中には老人や女の子もおり

客船となんら変わりはなさそう雰囲気ではあった


なんでも船賃が安いからと客室がなくとも貨物船を選ぶ人が多いのだという



港から船にかけられた分厚い鉄板を渡り

ミザリー達も船に乗り込む



船乗りたちがあらかた荷物を運び終えると、出航の準備の最終確認のようなものが船乗りの間で始まった



客である二人はそれを特に注視するでもなく、あてがわれた部屋へと向かい荷物を置くことにした


甲板から階段をおり、幾つも部屋が立ち並ぶ通路に降りるとチケットに書かれたNo.11という部屋を探す


難なく部屋を見つけると古びたドアノブを捻り中に入った


四m四方ほどの狭い部屋、中には何も設備などはなく


天井にランプ、床には二枚の毛布が置かれているだけだった


「ほんとになにもないね」


『ランプがあるだけ貨物にしちゃ上等じゃない?』


「そうだね、灯りがあればとりあえずはいいや」


部屋の隅に荷物を下ろすと

ベイカーは鞄から地図を取り出した


「ここが港町ベイ・ズール、王都へと直通ではないけど王都の南に位置するサウス・リームって港町に停泊するからとりあえずそこまではずっと船の上ってことになる、OK?」


『OK、王都へはどのくらい?』


「いくつかの港町で補給しながらサウス・リームに向かうけど、よっぽど天候が荒れて船が出せないなんてことにならない限り三週間ぐらいで着けるらしいよ」


『…案外早いのね?陸路より楽じゃない』


「公国の周りの海域は潮流の流れが早く航路に沿ってるから船足が早いんだ、単純に距離で見るよりよほどね。でも列車が遅いって訳じゃないよ」


『潮流…潮の流れね…でもそれだと逆の航路だと大変ってこと?』


「それが地脈の影響とやらがあるらしくてね、面白いことに行きの潮流から数十km沖に出れば全く逆の潮流があるんだ。沖に出る時間の差はあるけど行きでも帰りでも船足はあんまり変わらないんだよ」


『なんか、随分都合がいいわね』


「なんでも何十年も前に突然その二通りの潮流が現れたんだって。不思議だけど楽でいいじゃないか、それよりもう出航みたいだね」


ベイカーが言った通り

港町に出航の鐘が鳴り響き始めている


船も少しずつ揺れ始めた



「ミザ!せっかくだから甲板に出ようよ」


わくついているのか

ベイカーが足早に扉から甲板へと向かう


そんな軽快なベイカーの足音を追いかけながらミザリーはふと気づいた


(そういえば…船に乗るのなんて初めてだった)


足元の揺れを感じながら

ミザリーは船の動きに僅かばかりかもしれないが感動を覚えていた



ミザリーが甲板に出ると

船は本格的に動き出し

港から離れようとしている所だった


甲板では船乗りたちがいまだ忙しなく荷物を抱えては、貨物室に運び込んでいる

忙しそうな船乗り達とは裏腹に他の乗客たちは船のへりから港町やこれから向かう大海原に向かってそれぞれの思いを馳せているようだった


進路方向となる船の頭のへりにベイカーはいた

大海原を前になにか思わしげな表情をしていた


『なに?黄昏てるの?』


ベイカーのすぐ横の手すりに背中を預け落ち着くと花香パイプを咥え、スイッチを押した


「いやー、僕ら海なんて滅多に見れなかったじゃんか。それが今目の前にこんな広がっているんだよ!ミザだってなにか感じるものがあるんじゃない?」


興奮しているベイカーに熱く問い詰められると


ミザリーは体勢を変え

ベイカーと同じように大海原に向かう


『ん~…』


「どう?」


海面に目をやり

進路方向に視線を移す


太陽の光が反射して海面を輝かせているように見える


『確かにね、良いものだってことはわかるけど…』


「けど…なにさ?」


訝しげに見つめてくるベイカーに視線を向けたミザリーは目を細め言い放った


『私、泳げるのかしら』


思いがけない疑問を言い放つミザリーに虚を突かれたが


ベイカーも首を捻り始めた


「多分……沈んで……沈みっぱなしかな?いや、そもそも漏電…ショート?」


そう


ミザリーの身体は機械で出来ている


軽量かつ最硬の金属と言われるウルベイル鋼と言えど流石に重量は普通の肉体と同じようにとはいかない


スレンダーに見えるミザリーの体型とは裏腹にその重量は100kgを越す


おまけにその動力は悪魔の魂を源とする電気で賄われている



『試すまでもなく泳げないってことね』


「ミザの天敵は海だったのか、チートが過ぎると思ったら思わぬ弱点だね」


『せいぜい転覆しないように祈ってるわ…ねぇ、あれ』


ふと、ミザリーが視界の隅に何かを見つけた


ベイカーも倣って目を向けるとそちらには港町の端に

小さな小屋のようなもの


そしてその小屋から果てなく西へと

長くうねりながら続く線路が見えた


「ああ、列車の線路だね。そういやこの港町に一番東の駅があるんだったっけ」


ということはあの小屋のようなものは駅か。と

思うと同時に


『列車より船の方が早いの?』


「そういう訳でもないよ、単純に速度だけで考えたら列車のが全然早い。波とか天候の影響もさほど受けないしね」


『じゃぁ、なんで船?』


問うミザリーにベイカーは渋い顔をして答えた


「陸路だと悪魔がいるってんで、運行が不定期なんだ…固定であるのは月に一本、あとは国が都合で動かすって時に国民も便乗できるって感じでね」


『陸路には悪魔、海には海賊?随分物騒ね』


「まぁね…もしかしたら列車の運行を待つ方が早いかも知れないけど。ジッとしてんのは性にあわないって言うだろ?ミザは」


『ヤー、言うわね』


納得した、と言う素振りを見せてミザリーは空を見上げた


平和な村で暮らしていた自分はあまりにも世界を

その現状を知らなすぎた


ため息の代わりに目を閉じると

船の揺れに身を任せる



かくして二人の船旅は始まった


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