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初恋探偵  作者: 秋月 忍
6/7

 浩平は、借りてきた本をそっとカバンにしまう。いつになく、心がふわふわした。

「どこ行ってた?」

「ん? 図書室」

 不思議そうに声をかけてきた保に、浩平は答える。

「なんか、えらいご機嫌にみえるけど」

「……そうか?」

「珍しく、口角が上がっているぞ」

「気のせいじゃないか?」

 浩平は言いながらも、ドキリとした。

 実際、いつもより、心が浮き立っている。

 真奈美が、浩平の『笑顔』に気が付き、『微笑み返して』くれた。

 ほんの少し、はにかんだ表情が、なんとも可愛らしく、その顔が自分にだけ向けられたことが、嬉しい。

 始業のベルが鳴る直前に、真奈美が息を切らして帰ってきた。

 ちらりと視線を向けると、目が合った。

 一瞬で、彼女の頬が紅潮したのに気が付いて、浩平の胸が躍る。

 始業のベルが鳴り、授業が始まっても、浩平は得体のしれない高揚感に包まれたままだった。



「浩平!」

 放課後。

 荷物を持って、廊下に出ると、雪奈が扉の前で、待っていた。

 下校時間だから、皆、自分のことで忙しそうで気に留めてはいないとはいえ、そこそこ目立つ。

 そもそも、最上雪奈は自分が目立つことをある程度知っているけど、気にしていない。

 大きな紙袋を持っている。

 雪奈の意図を瞬時に悟った、浩平は頭痛を覚えた。

 これで、また、浩平は周囲の男子からいらぬ嫉妬の目を向けられる。

「これ、翔太兄さんに」

 小声ですっと紙袋を浩平に差し出した。

 そこは、小声でない方がありがたいのに、と浩平は思う。

「直接、渡せばいいじゃん」

「だって、今日、委員会があるし。道場だと人目があって恥ずかしいもん」

 雪奈は、ひそひそと話す。だから、ふつうに話してほしい、と浩平は思う。

「こんなところで、渡されたら、俺の方が迷惑なんだけど」

 周囲から見たら、どう見ても浩平にプレゼントしているようにしか見えない。

「え? そんなこと、気にするようになったの?」

 びっくりしたように、雪奈は浩平の顔を覗き込む。顔がにやついている。

「別に、突然気にするようになったわけじゃねえ。前から面倒だとは思っていた」

「おおっ、つまり、浩平にも、やっと春が来たんだ?」

 どうして、そういう結論になるのか、浩平にはわからない。

 幼い時から、雪奈は、思考がぶっ飛んでいて、ついていけないところがあった。

「兄貴に、渡してほしいんだろ?」

「うん! お願い! 頼りにしてる!」

 雪奈は、紙袋を受け取った浩平の手をぎゅっと握りしめる。

 きらきらとした恋する女の瞳。その瞳は、浩平に向けられたものではないけれど、誤解を受けるのには十分だ。

 周囲の視線が痛い。

「……わかったから、手を放せ」

「ありがとう!」

 雪奈はスキップしながら、去っていった。

 浩平は、手渡された紙袋を見る。

 今日は兄の翔太の誕生日だ。毎年、プレゼントを雪奈は、浩平経由で、翔太に渡す。

 緊張しすぎて、渡せないとか言って。

 バカじゃないかと思う。浩平を介することで、翔太に気持ちが伝わりにくくなっていることに、気が付いていない。

 もうめんどくさいから、全部、ぶちまけてやろうかとも思う。

 浩平はため息をつきながら、顔を上げた。

 泣きそうな顔をした真奈美と視線がぶつかる。

──え?

 真奈美は、ぎこちなく微笑むと、くるりと背を向けて、走るように去っていった。






たぶん、次回がラストです。

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