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初恋探偵  作者: 秋月 忍
2/7

浩平視点です

──視線を感じる。

 山本浩平は、弁当を食べながら、自分の背に視線を感じた。

 左斜め後ろに座っている、沢田真奈美である。

 今週に入ってから、ずっと『見られて』いるように感じるのだ。

 真奈美は、セミロングの、おとなしい文学少女という印象の子で、今まで接点と呼べるものは何もなかった、ただのクラスメイトである。身長は高くも低くもなく、運動神経はやや鈍い方。成績は真ん中よりは上、という感じで、何をやっても目立たないタイプだ。スタイルは痩せ型。バストは標準サイズというところか。

 その真奈美が、ずっと浩平を見ている。

 しかし、いわゆる『熱』を感じるような視線ではない。浩平自身に向けられることはないが、女子の恋の熱をはらんだ熱い視線というのが、どんなものかは知っている。真奈美の視線はもっと冷静だ。

──探偵の目だ。

 もちろん、浩平は探偵という人種に会ったことはない。ないが、真奈美の目は探偵だと感じられた。

 彼女の目は、冷静に浩平を観察し続ける。

 気が付かなければ、どうということはなかったのだろう。しかし、気が付いてしまった以上、その意図が気になり始めた。

「何か用?」と、聞けば済むことなのかもしれない。だが、探偵は、そう簡単に理由を話してくれるとは思えない。

──彼女は俺の何を探っているのか? 

 いくら、他の男子より強面とはいえ、浩平に誰かに探られるような私生活はない。しかし、探られているとしか思えない。

──彼女は、何なんだ?

 浩平は、自分をこっそり観察し続ける真奈美を、逆に観察を始めた。

 沢田真奈美は、クラスの中でも目立たないタイプの女子のグループに属している。

 顔立ちは地味だが、目は大きくて澄んでいて、よく見るとけっこう可愛い顔をしている。男が苦手、というほどではなさそうだが、男友達がいる、というタイプでもなさそうである。

 真奈美は、浩平と視線が合うと、ビクリとしたように慌てて視線をそらし、何事もない、という顔を作りながら、卵焼きをパクリと口にした。何を考えているのか本当にわからない。

「どうかしたのか?」

 一緒に弁当を食べていた、片桐保が浩平の顔を覗き込む。

「いや、大したことはないんだが……」

 浩平は、唐揚げをほおばった。

 保は、サッカー部所属の優男だ。見た目が、柔らかいため、浩平と違って女子に人気がある。真奈美が見ているのが、浩平でなく、保、というなら、なんとなく納得できる。

 叩けば埃の出る男だ。泣かされた女子もいるようだし、男子のやっかみも買っていたりもする。

 保のほうが、調査の需要はあるだろう。

「なあ、保、お前、探偵に見張られた経験ってある?」

「は? そんな経験、あるかよ」

「だよなー」

 浩平は、首を振る。

 どう考えても、理由がわからない。

 横目で確認すると、真奈美は、他の女子と談笑しながら弁当を食べている。その目は柔らかく、浩平に向けられていたモノとは違う。

──彼女は、スパイか?

 いや。仮にスパイだったとして、浩平をさぐってどうなるというのだ。

「そーいや、浩平、雪ちゃん、今日、来ないな」

 保が廊下の方に目をやる。

「雪は、別に俺に用があって来ているわけじゃねえし」

 食べ終わった弁当箱をしまいながら、浩平は肩をすくめる。

 最上雪奈は、浩平の幼馴染で、剣道部の主将である浩平の兄に気があるらしい。

 兄の気を引きたくて、浩平はよくダシにされている。

「さっさと、コクればいいのによ」

 兄は朴念仁で、全く気が付いていないのが、もどかしい。

 雪奈はモテるから、幼馴染というだけでヤッカミを買いやすいのに、当て馬にされて、余計に周囲の男に恨まれがちだ。

ひょっとしたら、真奈美は、雪奈がらみで浩平を調査しているのだろうか?

だとすれば、お門違いだ。

「まったく、何考えているんだろう」

浩平は横目で真奈美を見る。気にとめたコトがなかったが、意外に好みの顔だな、と思った。




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