【喧嘩の話】ルール編
【喧嘩の話】ルール編
「はい、入国ありがとうございます。これで貴女は当コロシアムに参加する栄誉を得ました。おめでとう」
「……ころしあむ?」
「そうだよ――はっは、何も知らずノコノコやってきたようだね、お嬢ちゃん。
教えてやるよ。
この国はだな、そう言う国なんだよ。
ここは豊かで資源もあって、何より平和――それにゃちゃんとした理由があんに決まってんだろ?
闘技場だよ! コロシアム、殺し合い! ノコノコやってくる馬鹿な旅人たちは、入国審査と同時に入国のためのテストを受けるのさ!
その成績によって、この国での待遇が決まるって算段よ!
まぁ、女の子だから命までは取られやしねぇだろう――存分に可愛がられるだろうけどな! ヘッヘッヘ――」
「……だってさ」
黒いエプロンドレスの娘が、寝ぼけ眼のまま入国審査員を指差すと、
「静止。何をしたいかは理解したが、落ち着け」
「……」
黒い巫女服衣装の、凛とした娘がなだめ、その手に繋がれた黒衣の法衣をまとった少女が首を傾げます。
「即答。戦えば良いではないか。すなわち、この国では強者が法律なのだろう? なぁ、そこの毛むくじゃら」
「け、毛むくじゃらぁ?」
巫女装束の娘に、入国審査員のおじさんが血管を浮き上がらせます。
「おいおい、お嬢ちゃんたちよ? 腕に覚えありって感じはするがよぉ――この状況わかってんのか?」
「当然。理解している――ようは私たちが強ければ問題ない、という事ではないのか?」
「はっ――」
まるで小馬鹿にするように笑う入国審査官に――
「結論。では三人で登録しよう。私はエッジ・オブ・アズリエル」
「ノワール・アズリエル」
「歌うアズリエル」
場は、沈黙した――
1 私こと、エッジ・オブ・アズリエルの場合
まず、私について語っておくことがあるなら、一言。
私は、普通の人間だ。
自分の両親やら血縁に関してはわからないが――血を流せば流れるし、心臓は動いているし、別段、一つ下の妹のように翼を生やしたり、物を生み出せたり、魔法を使うといったことは出来ない。
不可能だ。無理。と言うか、魔法って何? な私だ。
どこぞの国の制度にある、学校と呼ばれる養育施設ですら学ぶ事柄すら、私は知らない。
ようは……私は、一般的にたとえるなら、バカなのだ。
この黒い巫女服とて、私たち三人を最初に匿ってくれた神殿のお下がりでしかない。
ただ、私は気に入っている。それだけだ。
それと、私は喋ることも苦手だ。
いや、妹たち相手ならそれも大丈夫なのだが、……ようは、内気なのだ。
私は、シャイなのだよ。他人が駄目なのだ。
だからその、しゃべる際には結論だけさっさと纏めて、とっとと内容を告げて……終わらせる。
と言うか、このバカ騒ぎもさっさと終わらせるつもりだった。
その、人気の中に晒されるのは……
存外、気持ちの悪いものだな。
そんな緊張した面持ちで、私は闘技場へ現れる。
……人というケダモノたちの歓声――
私はふと思う、妹……ルルダは何故に、こうもあんな人間に憧れるのだろうか?
妹が普通ではないのは、よくわかっている。
人間なのか、あるいは魔物なのか……果ては、未知の生命体なのか。無学な私には悟れない。
……ただ、あの子はよく泣く。
無言のまま、泣く。無力だと叫ぶ自分に泣く。
あれだけの力を持ちながら、望むものを手に入れられず、守れず――救いきれず。
ただ、無言のまま泣く。
意識が飛んでいた。
対戦相手は……ふむ、銃使いか。アナウンスが誇張の入った紹介を始めている。
銃器、飛び道具系で最強、当たると死ぬ。死ぬほど痛い。相手にしない。――が妹の助言。
まだ年若い、……女の子じゃないか?
ショートカットに、短パン。帽子にガンベルト――この地方には見られない、おそらく東方、幻想卿と呼ばれる地方からの来訪者だろう。私も以前、似たような風体の男に出会って……妹が殺した。
その娘っ子は、私の名前――アズリエルの紹介に眉一つ動かさず、それどころか妹に匹敵する無表情で、私をただただ見据えていた。
好感。妹だけが、特別無感動というわけでもないものなのだな。
少女は一度相対してから、「負けを告げるなら、認めます」と抑揚無く告げてきた。
「このゲームに棄権は無いと聞いたが?」「はい、ですから――開始と同時に得物を捨てていただければ」
私の武器――それは背に背負った、大型の剣。
超大型剣、剣身は実に、私の身長を上回る。ゆえに、背中に斜めに背負うしかない。
「拒否。その提案は素敵だが、興味が無い」
「そうですか……」と少女――
瞳が小さく緩み、「……これが、ゲームですか」と囁く。
「……ゲーム、でないと不味い」と、私。
――妹が本気になったら、誰も生き残らないぞ?
開始のドラだか何だかわからない、デッカイ音。
フィールドは砂場で、私と少女は正面から……
……駄目ジャン。
「……降参しませんか? 認めます」
少女はすでに、銃を正面から構えていて、私は所在なさげに腕を下ろしていた……
剣を抜く……いや無理。でっかいんだもん。
障害物や何かあったら、その影に逃げ込むとかあったんだろうが、こう広範囲にだだ広く、ルールなしの武器あり、何でもあり……
うん、ルールが酷い。
少女は両手で、左手は添えるだけ? ……綺麗な構えで、私を狙っている。
綺麗な構えということは、私がどこへ動こうと、その動きを見越して、銃身を動かし、私を撃てるということ。
小手先の動きなど、無意味。回避する方法は皆無、逃げる方法など絶無。
「銃は剣より強し……」えと、誰が言っていたんだっけ。教わったのは妹からだが。
「降参してくれると嬉しいんですが。弾を無駄に使わなくて済みます」
何か、本音っぽいことを言っている。
「拒否。」
あっさり返す私。あっさりだが、実際は焦っている。どうやって切り抜けよう、と。
悪いが、私は妹のような超人でも、一番下の妹みたいな異能の持ち主ではない。
弾の軌道が見えるとか、剣身で弾を弾き返すとか、やってみたいけど無理。
妹曰く、「衝撃が強くて、骨が折れたわ」……絶対に嫌だ。
私も、これでも女だ。怪我したくないし、痛い思いなど嫌だ嫌だ嫌だ。
「……えぇっと、じゃあ――死なない程度に痛めつけます」
「質問。殺しはしないのか?」
「殺意、貴女から感じませんから。それに、貴女――本当は勝っても負けても、どっちでもいいんでしょう?」
……「……図星。」
驚嘆。この少女、洞察力も鋭い。
確かに、別に私が勝たなくても、妹二人が……きっと綺麗ではないだろうけど、壮絶に勝ち進んで、この国はろくでもない最後を遂げるのが、目に浮かぶ。
正直、私などオプションに過ぎない。あれだ、料理に出てくる、前菜の隅っこにある、味の調節のための調味料程度だ。
私の中に、このまま降参するのもありかな? と、小さな思いが生じるが……生じただけだ。
「だが、断る」
私は――断じた。
「どうしてです?」
「このキャスティナ――姉である上に、剣士である。銃が剣より強いという幻想を、切り捨てることに興味がわいた」
嘘、沸いてない。
ただ、むかついただけだ。
妹に似た小娘に、姉が負けてどうする?
「背は、向けない」
「では……痛い思いをしてください」
引き金と同時に、【私は背を向けた】。
金属音――
そう、私の背中には【身長を上回る巨大な剣】が背負われている。
ダンスの要領で、軸足を敷いてターン。同時に、背中からベルトをはずし、大型剣を盾に――真後ろに立つ。
巨大剣……いくつ物板を何枚を貼り付けたような、重さと大きさに重点を置いただけの、……剣ともいえない代物。
だから、今は盾だ。
少女は何を思ったか、拳銃の弾を全て捨て、別の弾丸に……アレか、鉄も貫くタイプの弾。
もしくは、延焼系の弾丸……燃えるの嫌だ。
そう思った私は……剣を思いっきり、握り締め――一身に投げ捨てた――
「……え?」
少女は、驚いて目を見開き――前に倒れこむように伏せた。
一度に【無数の剣】が、自分に向かって飛んできたら――どうしようもなくなるだろう。
頭を抱えて震えなかっただけ、正解だろう。
別に、大型剣が「無数の板を貼り付けて作ってある」といったわけではない。
その板の正体とは――単に、【剣】である。
十三本の剣――を、一本に、まるでパズルのように合わせて組み立てた、技巧気剣。それが私の得物である。
それを投げつけたさいに、分解させたのである。
……理屈は知らないが、その剣のいくつかが魔剣であって、途中稲妻とか焔を上げて、会場のどっかにぶっ飛んだのは無視する。
妹たちの余波に比べたら、軽い軽い。
剣の柄、大型剣時の、柄の部分に当たる――始まりの一本【α】を手に、伏せた少女の首に添える。
「問答。降参しないか? 認める」
「……詰め、甘いと思いません?」
「無理。握り締めた拳銃で撃つ前に、お前を刎ねる技能はある。私には、それをする覚悟がある」
肩口が動く前に、言葉で制する。
「追加、添える前に腕を踏みつけても良かったのだが、先に降伏勧告をしてくれたのはお前だ。それを鑑みて、こう処置をとった。
私は、痛みなど与えない。私は単なる人間なのでね。痛みを与えるなんて余裕は、もってはいない」
「……降参」
拳銃を手放したところで、少女を襟首から吊るし上げ……他の火気、武器類を確認したら、そのまま退場した。
会場が、なんだか煩かったが――剣を振るったら、おとなしくなった。
……便利な剣でな? 十三本、すぐに揃って元の大型剣に戻ってくるんだ。
無論、雷とか焔とか撒き散らしてな――
【Asrielワンポイントターン♪】
「ねぇ、ルル姉ぇ」「何よ、レミィ?」
「キャス姉ぇのあの剣、一体何なのよ」
「あれ? ……私が何人か、魔剣使いを倒したのは知ってるわよね」
「……それ、全部溶かしてつくったの?」
「違うわよ。でも、参考にはしたわね――でも、私も詳しくは記憶に無いの」
「へ?」
「造ったのは私。あのギミック……嵌め込み、変形、合体分離機能は私の案じゃないわね」
「姉さんが作ったのに、案は姉さんじゃない……どういうこと?」
「ようするに、私の記憶の中に、そう言う武器があったのよ。そう言えば、可変系刃物があったわね、暗器系の。あれの変化版かしら」
「……で、変形分離ギミックは別案として、あの剣自体は何なのよ」
「伝説の武器、魔剣、聖剣を使って、あの変形奇剣を造ってみました。錬金術参照で」
「……姉さんの設定って、相変わらず無茶苦茶ね」
「無茶も無茶よ……自分だって性能の限界を知らないから、どうしたらいいか、わかってないんだもん。結構これ、不安なのよ?」
「……あっそう」
「あの、雷や焔は魔法剣のオードソックスね。でも、離れて舞い戻ってくるシステムは、カンショウ・バクヤの夫婦刀の性能もあるのかも」
「色んな聖剣、魔剣の能力を折り合わせた、むちゃくちゃな剣なのね」
「でも、欠点があってね……そんな美点ばっかそう都合よく積み合わさってくれるわけないじゃない」
「何があるの? 弱点――」
「すごく重いの」
「……姉さん、背負ってるわよね、いつも。それに十三本も、でしょう?」
「その辺は……小刀とか短剣でも、重いものは重いし――それだけじゃなくってね、あのさ――十三本もの剣のさ、性能ってそうそう理解できると思う?」
「へ? ……嗚呼、一挙に十三本、もですからねぇ」
「それだけじゃなしに、組み立て方――一種のパズル要素もあって、嵌め方や外し方で間違ったり、別属性同士の剣を合わせたら、暴発しちゃうのよ。あの、剣の投擲のさい、無数の剣がってあったけど、実際、娘っ子の腕力で、剣が飛ぶわけ無いでしょう?」
「……じゃあ、アレ――」
「実は、エクスカリバーとグラムが反作用起こして、吹っ飛んでたの――まぁ、爆発の原理だから、投手への爆風は防げる仕組みになってるっぽいけど」
「っぽいって何!」
「姉さん、怪我してるかも」
「ちょ! 姉さん、ねぇ〜〜〜さぁぁぁぁぁ!!」
「あ、 待ってよ〜〜〜!」
2 歌うアズリエルのステージ
どうしよ……
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……
私、喧嘩なんかしたことないんだよ?
デビュー戦だよ? デビュー戦――心臓バックバクゥ〜!
……馬鹿言ってる場合じゃないわよレメラ。
これ非常に重大に危険に波乱万丈にシリアスにミステリィーだわ。
えっと、手の平に文字を書いて――
人、魔、神、化、天、姉――よしっ!
「レミィ、何一人でぶつぶつそわそわごわごわしているの」
「鈍感。緊張しているのだよ」
「それはわかるけど、姉さん……」
「嗚呼。レム――おまじないを教えてやろう」
今しました。
「何、簡単なひとことだ」
あ、キャス姉の枕文字が消えた。……どんなまじないだろう?
「やられるまえに、やれ」
闘技場へ、ぽいっ――と放り出される妹な私。
……
……
……
三点リーダー三連続……
対戦相手、ならずものっぽいおじさん達、数人。
……あり?
「忘言。これ、別に1対1とはルールにないからな」
『ちょ! こら、そこ糞姉貴どもまたんかい!』
「失望。まぁ、はしたない。そんな汚らしい娘に育てた覚えはありませんことよ」
『このままじゃ本当に私穢されちゃうわよ!』
「ちょ! 姉さん、駄目よ! まだレミィは子供なんだから! 私、場合によっちゃ、マジで出るわよ!」
『ルル姉ぇ、大好き! 愛してるから今この場に来い!』
「必然。だいたい、最近レムとてストレスを発散させていないではないか」
『へ』「ぇ」 ?
「思う存分歌うと良い」
変なデッカイ鐘? の音と共に、おじさんたちが散開して、私を回り囲む。
……ど〜しよぉ?(涙目
「不気味な小娘だな」
「身包みはいじまいな」
「キャス姉、私出る!」
「虚脱。なんで山賊紛いはいつも、下ネタばかりなのだ。なぁ、下ネタの女王よ、教えておくれ」
「誰が下ネタクイーンですか! 男は皆、狼なのよ、気をつけなさい!」
……年頃になったなら、慎みなさい〜♪
……は、ふぅ――
「こ、この小娘、あくびなんか掻きやがって」
「ほ、本当に、このガキ、アズリエルなのかよ?」
そう言えば、私――【黒衣】だったんだ。
生まれたときから、自我が芽生えたときから着込んでいるこの衣装――
この衣服の下には、
この、黒帯の奥にある瞳を――
晒すのは、久しぶりだなぁ。
身を翻して、私は衣装を剥いだ。
実は、取り方は練習していた。
黒衣の下にある衣装――
真っ白なプリンセスドレス、だだ広いフレアスカートがふわりとひろがり、
黒衣の下に封じられた瞳は、蒼く、蒼穹と深海を混ぜ合わせたような、深く済んだ――
その、私の容姿を細かく描写してたら、限が無いので――
要するに、私は――
絶世の美少女、って言う存在らしい。
まわりや、会場、客席まで――一斉に「ほぉ」とか賞賛のため息があちこちで、響く。
響く――聞こえる、知覚できる。
【音】……に特化した異能。が、私らしい。
まぁ、この喧騒騒ぎで、だから何だって話なんだけど……
えぇ〜っとぉ……
「……レメラ=アイオンス。1番……えっと、【土管の上でリサイタル広げるガキ大将!】 歌います!」
自棄になった。
世界も、自棄になった。
【剣と黒のターン】
「……ねぇ、姉さん」
「微笑。なんだい、可愛い妹?」
「……レミィって、あんなに化物だった?」
「叱責。」
「いたぁっ!」
「違う、レミィは私たちの愛らしい妹だ」
「うぅ、そうでした。――ごめんなさい」
「回想。以前から、よく死者に出会うお前だったが、逆にレムは死者の音から、世界の音まで、……いや【全ての音】が聞こえる存在だったのだよ」
「知っているわ。その【音】を言の葉に乗せて操る、瞬間催眠、洗脳――いや、【喋る言葉】が完全な洗脳になってしまう、難儀な能力」
「不思議。救いがあるなら、私たち姉妹には通じない、と言うルールね」
「で、姉さん――」
と、ルルダがもはや砂場ではなく、巨大な混沌の坩堝となった、闘技場を見渡した。
「二番! 【父さんにもぶたれたこと無いのに! 根暗少年がロボットに乗って戦う歌!】」
さきほどまで謎の青猫生命体が跋扈していたり、「ノヴィタの癖にぃ〜」と暴れまわる巨大トロルが駆け回ったり、
次の曲では「立ち上がれ〜」と歌詞改編された曲に合わせて、地面から巨大ゴーレム、ご丁寧に白いアイツとか、巨大な木馬が暴れまわったり……
「……あれ、ゴーレム・サーヴァントね。オリジナリティ溢れてるわ」
「関心。魔法か?」
「多分。創造系の魔術だと思うけど、手順とかそんなの問答無用? アレ、弱点ないじゃない」
「……瞬閃!」
「へ?」
「ひらめき」
「姉さん、枕文字のネタ無くなって来たんだったら、普通に喋ったら? 変なキャラ作りはいらないわ」
「お前だって、普通の娘を装っているではないか」
「……、素の姉さんを真似ているつもりよ」
「……頬赤。
で、だ――私の考察だが、レメラは多分、精霊や妖精、幽霊や神霊といった類にも、効果を及ぼせるのではないか?」
「あっ――」
「視認。見えるか?」
「……解らないけど、全部魔術から精霊術までまぜっこぜで……こんなの私でもできないわよ。でも、多分そうね」
「回想。死者の声を以前、レムに感知してもらったのだが――十中八九、間違いない。あの子は魔法の歌姫なのだよ」
「可愛らしい歌姫ね」
「同感。最凶の歌姫だ」
「三番【地獄からやってきた某皇帝三世さんのSA★TSU★GA★Iの歌】!」
『そのデスメタルロックは、歌詞が駄目ぇぇぇぇぇ!』
※その某三世さんの曲目には、「殺す」とか「父ちゃん掘る」とか、卑猥な歌詞が多いのです。
ここで、ご一考。
レメラちゃんの歌詞は「洗脳」の効果を持っているので――聞いた人は皆、そのとおりに行動しちゃうわけです……
「……マジヤヴェ」
ライブ終了後――会場が、崩壊していました。
残念ながら、一部歌詞を聴いた対戦相手さんご一行は、命こそあれど、奇声を上げるトロルや、蒼いケットシーとか、連峰の巨大なゴーレムたちにフルボッコ。
さらには、会場を見ていた皆様のほとんどが、耳から血を流して卒倒。
「はっふぅ、スッキリ♪」
「……嘆息。久々にレムの声を聞いたと思ったら……」
「ええ、なんて――」
『なんて綺麗な歌声なのかしら』
姉馬鹿が闘技場に残された。
3アズリエルのターン
……さて、私の出番なのだが。
闘技場……ゴーレムの素材のため、会場ボコボコ。
客、美声のため全員卒倒。
闘技戦士――やはり歌声の余波で全滅……
その、レメラの戦闘後、なんだが……
「絶句。だが次善。レメラのお陰でルルが暴れずに済んだ」
「えへへ」
「喋った途端にキャラ変わるわね。レミィ」
「だって、自分の声で喋れるなんて、素敵じゃない」
「終焉。では、さっさと次の街へ行くか」
「そうね――ってか、私何もしてないんだって。私の鬱屈はどうしたらいいのよ!」
「馬鹿。一々あの程度で怒っていては限が無いだろうが」
「馬鹿ね、姉さん。姉さん自身がよく言っているじゃない、ホラ♪ 男は狼なのよ、気をつけなさい〜 って。
殿方の下ネタなんて、軽いスキンシップみたいなものでしょう?」
「何その大人の女のような台詞は! アンタ、本当に一番下の妹なの!」
「驚愕! そんな妹に手を出す連中は――消す」
「無論よ、姉さん! と言うか、レミィ、そんな台詞言っちゃいけません!」
「嫌よ、普段喋れないんだから。それに冗談(にしとかないと、姉さんたちが危ないわ)よ」
「……」「……」
「うふふ、姉さんたち、大好き」
「……うぅ、この笑顔、卑怯だ」
「同感。この妹、悪女になれる」
「……で、出番が無いのはさすがにしゃくだから、【後始末】だけしていくわ」
〜〜〜〜〜
「すんげぇなぁヲイ」
俺はそれを何と言うか、絶句して眺めていた。
クレーターが広がっていた。
話には聞いていたが、さすがは【俺の妹】と言うか、何と言うか……
「すごいですね、兄さん」
「嗚呼、大自然の猛威の過ぎ去った後の、何ともいえない遺憾のよ〜な」
「人間の文明なんて、結局一瞬で滅びてしまうほど、矮小なんでしょうね」
「違うわよ。上り行く階段は険しく、一段一段だけど、降りる際には蹴り落とされれば一瞬って話よ」
と、ウチの妹+幼女。
「誰が幼女か」
黒髪黒瞳、幼い体躯と漆黒のワンピース。
まだ小等学校を出るか間際と言う年齢層に見えて、その実、大人び過ぎているから実年齢不詳。
っつか、俺も知らない。
そして我が護衛対象にして依頼人にして愛すべき友人にして――
【物語】――
「妹、ですか……」
とは、黒髪碧眼の白い衣装を纏った、可愛らしい女の子。
こちらは16を回ったのか――ますます美人になっちゃって、親友にして彼女の実の兄の心配性も、しみじみ理解できてきた。
もっとも、その妹を連れ出した俺が何を言っているんだか、って話だが。
【主人公】――
「で、兄さん? コレは一体何をどうしたんですか?」
「ん? 単に破壊しただけだろう? 面倒くさいからって、一発で」
「い、一発ぅ?」
「あのな、専門家でもなんでもない俺でもわかるぜ。
こういう波紋状のクレーターってのは、隕石が落ちたか大爆発が起こったか――前者がありえないなら、後者だな」
「そう、隕石が落ちたのね」
「リナッち――人為的に隕石を……」
「禁断魔法、メテオスォーム」
「何人くらい術者が必要ですか?」
「一般魔術師なら百人かな」
「某究極幻想ってゲームだったら四人全員メテオ放ってたわ」
「いまどきスーファミで遊んでる小学生ってのも末恐ろしい話だな」
「誰が小学生か! あとスーファミじゃなくて、パソコンで遊べるソフトです」
「どっちにしろ、幻想世界にはあるまじき会話だよな」
そう言っているのに、小型のパソコン……俺が買ってきてあげた――でそのゲームを立ち上げようとする。
妹はクレーターの淵を踊るようにふらふらと、蝶と言うか水鳥と言うか何と言うか――優雅にふらついている。なんか表現おかしいな。
まぁ、顔の造りといい立ち居姿が可愛いからな、妹は。←兄馬鹿です=事実。
「で、兄さん――これは誰が、何を、どうやって――兄さんが言うなら、爆破させたんですか?
魔法ですか? 爆弾ですか? それとも何か別の方法で?」
「ん? ……さぁな――目的は知らねぇ。
使ったのは、【魔法】だろうな――使った技は【錬金術】」
「……これだけの質量を、錬金術で?」
「嗚呼、【無機物】だけを一気に空気――無に換えちまったんだ。ちょっと仕組み知ってれば、実は簡単だったり」
「それでも魔力とか膨大でしょう?」
「と思うでしょ〜? ……ここの魔術式の連鎖を知ってたら、結構少なく使えたり」
「人生幾つ分?」
「三人生分」
「……」
しらっとした目で見つめてくる二人……
「三人ぶっ殺したら」
「いや、ぶっ殺したってできないから」
「この世界のルールでは、死者の魂から魔力を吸収できると言う病があるそうじゃないですか。
この殺伐とした世界なら、人間三人分なんて――簡単でしょうね」
自分で言いながらへこみはじめる妹、こと姫っち――可愛いなぁ。
「シスコン」
「呼んだかい?」
「はい? 兄さんにリナ、何か言いました?」
「別に」「じぇ〜んじぇん――」
白きるリナ&Me。
クレーター……いや、実際は【陥没】した大地の淵をまたふらふらしている。
「どっちにしても、切ない、ですね」
「再生させましょうか? 多分、人間一人も再生できないけど」
「へ?」
「術者は実に可愛い性格してるよ――なんで【無機物だけ】空気に変えちまったかって話」
「ああ、その錬金術師――」
ヒトを殺したくなかったんですね?
「でも、物は壊したかったと――まるで、【靜兄さん】みたいな性格ですね」
「……嗚呼」
俺は、感慨深く頷いた。きょとんとした妹が可愛かった――
〜〜オマケ 脱出編〜〜
「このお馬鹿! 国を丸ごと錬金変換してんのよ!」
「だぁって! こんな物騒な国いらないじゃない! 銃器撲滅、刀剣武器破壊! 銃刀法違反!」
現在、三姉妹全力疾走中――
瓦礫の山が次々落ちてきて、アズリエル姉妹に降り注ぐ――と思ったら、小さく光って消失。
【錬金術】――しかも手順とか方法といったものを一切無視した、異能。
「さりげにキャス姉、キャラクター剥がれてる!」
「叱責! 今はそれどころではない!」
地盤が緩んで、ものすごい地鳴りが響いています。すでにコロシアムは原形をとどめるどころか、その大半が光に転じて消滅。
そう、ただ【消える】――頑強な鉄壁や柱が、次々に塵芥を撒き散らして消え去り――
床が、沈んでいる。
「もぉ、人間って嫌い! 土地が無くなったら地下まで侵食しやがって! ちゃんとお日様浴びて生きなさいよ!」
「日陰者人生の私たちが言うのもなんだがな!」
「姉さんたち、少しうるさい」
『だまらっしゃい!』
「乗りますか?」
と、廊下を駆け抜けた、外で――
「君は……」
「降参させてもらったお礼、ですかね」
一台のバイクにのった、あの銃使いの女の子が、ただ訝しげに、しかしそう伝えた。
「この、なんか魔法――ですか。妹さんを中心に発生しているように伺えますが」
「あぅ! 今解除するする! バイク解体はこっちもごめんよ!」
「よかった――」
……食えない子、と思ったのは戦ったキャスティナ。
別にルルダを中心に、崩壊が広がっているのではない。
術場――すなわちコロシアムから中心に、拡大している。
ついでに発信源のルルダも、落ちてくる瓦礫相手だけではなく、ほぼ障害物に対して、無差別に【分解】していた。
変に凝った名前を付けずに言うなら、【バニッシュ】とでも言うべきか。
その拡大速度が、自分のバイクで適わないと踏んで、おそらく三姉妹を待っていたのだろう。
「……」
「……」
「……」
「……どうしましょう?」
バイクは、二人乗りだった。ぶっちゃけ、レメラをキャスティナかルルダが抱えれば問題ないのだが。
「問題ない、私が飛ぶ――」
と、ルルダは言うと――背中に翼を生やした。
脱出道中。
「確かに、噂どおりのアズリエル。いえ、アズリエル三姉妹、ですか」
と、銃使いの少女。
「肯定。主に噂の伝承になっているのは、あの目立ちまくりなんだが」
『……ルル姉ぇ、天然だから』
「でも、噂では――彼女は、蝶の翅のはずでしたよね?」
――なんで、鳥の翼なんですか?
〜〜〜〜
靜
「そりゃそうさ、
蝶の翅は、惑わす幻惑の――蠱惑の象徴。
だが、姉妹の真実にゃ、単なる夢見がちな逃避少女ってことさ」
へぇ、――とぼく。
ぼくは旅人、こちらは先ほど出会って野営を共にしている男性。
傍らには少女が男性の膝を枕に眠っており、その背にもまた別の少女がしなだれかかる様に眠っている。
どうも三兄妹らしい。真実かはわからない。
「だが、その幻想少女、面白いな――軽い分析で簡単にわかる」
何が? とぼく。
「翼ってのはさ、一枚じゃ飛べないだろう? 【一対】になって、初めて空を飛べるというわけさ」
「空を飛ぶ? ……飛んでどうするの?」
「空を飛ぶ、と言うのは暗喩さ。一つは逃避、もう一つ綺麗な意味では夢、だろうな。まぁ、どっちも表裏一体なんだけどさ」
そういうと、男は焚き火に翳していたカップを手に、軽く飲み息を整える。
「その少女には目的がある。そのために翼を広げて、アピールしているのさ。
『ワタシはここだよ、早く迎えにきてよ』って――それが幻惑の翼となり、人々の噂になっているのさ。
別の噂では、生き別れた兄を探しているとか言ってたな」
それは初耳です、とぼく。
「……内緒情報も一つ。その兄貴は、喧嘩が滅法強い」
「まるで、知っているような素振りですね」
「嗚呼、だって君の目の前にいるじゃないか」
そう言って、眠そうな顔をしたこの男は、お先にとだけ残して、眠りについてしまった。
物騒な人間に関わってしまったな、とぼく。
さっさとおさらばしたいところだけど、ぼくも眠いし――
彼らより先に、早起きできることを願おう。
――叩き起こされた。
妹さんのほうに。
そこで、僕らは別れた。
僕は彼らが来たほうへ、彼らは僕が来たほうへ――
物語は流れていく……