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Asriel Monolog  作者: ALFRED
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【花売りの話】

【花売りの話】

 

お花一本、10です。お花いかがですかぁ?

 

 

大きな町、綺麗な家々と、賑わう市場の最中――

小さな少女が、小さな花を売っている。

一本一本、それは綺麗で可愛らしい花々が、色とりどりに咲き誇っている。

 

 

「お花一本、いかがですか?」

通りすがりの、漆黒のエプロンドレスの女性に、女の子は訊ねます。

「……一本、貰おう」

眠そうな顔で、エプロンドレスの女性はお金を出しました。

 

 

「お花一本、いかがですか?」

通りすがりの、凛とした巫女服の女性に、女の子は訊ねます。

「……いらない」

そう言って、巫女服の女性は去っていきました。

 

「お花一本、いかがですか?」

通りすがりの、黒衣に身を包んだ少女に、女の子は訊ねます。

「……」

少女は何も言わずに、女の子の元を去りました。


 

「お花一本、いかがですか?」

通りすがりの、とある娘に、女の子は訊ねます。

「お前、何者だ?」

娘は、愉しそうに、笑みを零しました。

 

花売りも、楽しそうに笑います。

「私は、花売りです」

「幾ら貧しい身分や、少女と言う居姿であれ、花売りなどどの世代でも流行らんよ。

精々、小説で涙を頂戴する演出か、もしくは別の花を暗喩するか、だがその容姿なら後者でもあるまい」

まるで、気取った物言いのように、娘は女の子に問い詰めます。


「そう言う貴女も、こんな街中で、こんな少女に問答を広げるなんて、どうかしていましてよ?」

「何、私は主人公だからな。主人公は素朴で平凡か、どこか破天荒なものなのだよ。そして私は、後者だ」

少女はあどけない笑顔のまま、

娘は無垢な笑みのまま、


「それでも私は、やっぱり単なる花売りです」

「そうか。ならば私は売れない小説家だな」

「でしょうね? 小説家と言うよりは、皮肉屋ではないでしょうか」

「ふっふ、然り。その花、自分で育てたわけではあるまい」

「はい、そこら辺の草むらから、せっせと集めて、売っています」

「この街は広いし裕福だからな」

「はい、そこらじゅうの花壇から、簡単に集められます」

「君は、単なる不幸な少女ではない――」

「はい、とっても不幸な少女だと思います。聞きますか?」

「いや、いいさ――話を聞いたら、同情して何かしてしまいそうだ」

「そうですか」


少女はあどけない笑顔のまま――

娘は無垢な笑みのまま――


「何を売っている?」

「花を売っています」

「いや、君としては、何を売っている?」

「……命、かも知れませんね。知っています? 花を買う人って、皆、暗い人ばかりなんですよね」

 

何かを恐れているんでしょうか? 不安なんでしょうか? それとも怯えているんでしょうか?

私が、笑顔で花を差し出すと、まず驚くんです。

それから、少しだけ緩んだ笑顔で、花を買ってくれるんです。

さっき、お姉さんが買ってくれましたけど、あの人くらいですね。

暗い顔ではなくて、何と言うか――世界を諦めたような、それともどうでもよくなってしまったのか――

 

「もしかしたら、夜の花売りさんと同じく、ある種の癒しを売っているのかもしれません」

「ほぉ、で――命とは?」

「夜の花売りさんは、自分の命を売っています。私は、花の命を摘んで売っていますから――たった10ぽっちで」

「そうか、良い話を聞かせてもらった。君も悪い小説家になれるよ」

「あは、ありがとうございます。お花、いりませんか?」

「ふむ、では全部貰おう」

娘さんは、重そうな札束をポンと出しました。



「お花一本、いかがですか?」

通りすがりの、巨漢の少年? に、女の子は訊ねます。

「我は王である。そこな娘、我を知っていて、花を売るというのか?」

「我が王よ、っつかちっちゃい娘に絡むの止めやがれってんだ!

わかってんのかタダでさえロリコン王と愉快な仲間たちって揶揄され始めてんだからそこんとこわきまえて行動しやがれってんだ――って国王陛下、口が過ぎました! その構えはお止めください、ってマジメに止めやがれ、街中で何かまそうとしてやがんだ! 自重しやがRGYUWAAAAAAA!!」

「こらこら、我が君――臣下の雑言にはその位で十分でしょう? あまり暴れては困ります」

「ふん、我が妃がそう言うなら、この程度で勘弁してやろうではないか。して娘、王にかようなちっぽけな花を売りつけようと言うのか?」

「はい、お花いかがですか?」

「ぬっはっはっはっは! 気に入ったぞ小娘」「だから自重しやがぬGyaba!?」

「では、可愛らしいお嬢さん、お花私たち全員分、売ってくださらないかしら?」 

その一団全員分の花を、少女は持っていませんでした。

でも、王は笑いながらお花を買って去っていきました。

 

……

 

「お花一本、いかがですか?」

通りすがりの、片腕の老剣士に、女の子は訊ねます。

「そうだな。娘さん、強く生きなさい」

老剣士は鋭い瞳のまま、大きなお札を一枚差し出して、一本の花を買って去っていきました。。


……

 

 

「お花一本、いかがですか?」

通りすがりの、白い鎧を纏った神殿騎士たちに、女の子は訊ねます。

「えっと――僕?」

「あは、隊長は食べちゃいたいくらい可愛いから〜〜〜性的な意味で」

「おい、幼女の前で何を言う」

「マテ、なんでこの娘が幼女なんだ」

「シャットじゃねえよ」

「お前ら黙れ。すまんな、そこの少女よ。我々は急いで――」

「待ってよ、ローラント。そう焦る用事でもないじゃないか。そうだね……僕は一本、貰うよ」

「じゃあ、ワタシは百本頂戴〜。セラとワタシでペアルックすんの〜♪」

「じゃあ、幼女ちゃんにちなんで千本」

「おい、犯罪者がいるぞ」「引き裂け」「切り裂き魔が居るぞ」「官憲呼べ、官憲」「お前ら、自分たちの身分わかってんのか」

「お前ら、全員黙って死ね」

ワイワイ騒がれながら、お花は全部売れてしまいました。

 

……

 

「お花一本、いかがですか?」

通りすがりの、自称小説家の女性に、女の子は訊ねます。

「花は売れているか?」

嬉しそうな顔で、自称小説家の女性はお金を出しました。

「変な人たちに、たくさん売れました」

笑って花売りの女の子は答えます。

「私も大金を払った筈なのだが? ……なぜまだ花を売る? そのお金で、何を買ったのだ?」

 

花売りの女の子は答えました。


「お花を売るために、お花を買いました」


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