2 ところがどっこい、それが現実
ところでここは夢の中なのだけど、神さまはどうやって僕の小説を読んでくれるのだろうか。
なんて思っていると、神さまはお腹あたりに付いているポケットに手をつっこみ、ごそごそと中を漁った。
まさか、金髪幼女神のポケットは青狸さんと同じタイプなのだろうか。
「てれれってれー、パぁーソぉーコぉーン―」
そのまさかであった。
神さまは独特のだみ声と共に、ポケットからパソコンを取り出した。
それは、明らかにポケットの大きさ以上のパソコンであった。
「あっ、小説のタイトルは『異世界チーレム生活』です」
「なんとも直球な名前じゃのう」
「分かりやすい方が良いかと思って」
「ワシ、ハーレム系はあんまり好かんのじゃが…」
「そう言わずに、お願いしますよ」
「うーむ、たまには良いかのぅ」
渋い顔をしながらも、神さまはパソコンを操作して僕の小説のページを開いてくれた。
「では読むぞ。お主はテレビでも見ておれ」
言いつつ、神さまはテレビの電源を点けてくれた。優しい。
しかも、僕の分のお茶まで用意してくれた。とても優しい。
それからしばらく、神さまと僕は別々の画面とにらめっこをすることとなった。
◇◆◇
「…読み終わったぞ」
「早いですね。四十万文字くらいあったはずですけど」
「ワシは速読ができるのじゃ」
無い胸を張る神さまは、とても微笑ましかった。小さい頃の上の妹を思い出した。
「今見ているのがもうすぐ終わるので、ちょっと待ってください」
「いいぞ、ワシもこれ好きじゃから」
やがて、主人公は自分の息子が魔法学校へ行くのを見送った。そして、良い笑顔と共に映画が終わった。
「やはり『ハリーノ・ポルタ―』シリーズは面白いのぅ」
「えぇ、本当に」
少しだけ雑談を交わしてから、神さまと僕は本題に入った。
「それで感想じゃがのぅ…」
「はい」
思わずごくりと咽喉が鳴る。面と向かって感想をもらえるのは初めてだ。
「話のテンポは少しもたつきがあったが、中々良かったぞ。じゃが…」
じゃが、何ですか? 早く言ってください。心臓がもちません。
「感情の書き方に現実感が感じられなかった」
「現実感、ですか…」
僕は噛み締めるように言葉にした。
「うむ、リアリティとも言う」
「でも、お話はお話だから良いんですよ? あまり深刻に書きすぎても駄目じゃないですか?」
「そこは好みの問題かもしれぬのぅ。ワシはほら、普段ハーレム系とか読まぬし。主人公好き好きのヒロインばかりじゃと拒否反応を起こすのじゃ」
まるでアレルギー反応みたいに言う神さま。
「お主の小説には、そういう好き好き系ヒロインはおらなんだが、なんというか…葛藤が薄いのよな」
「葛藤ですか…」
「そうじゃ。人間、生きていて葛藤を覚えない者はおらぬ。小説の登場人物にしても、その話の中で各々の人生を生きておるのじゃから、葛藤するのが普通じゃと思わぬか?」
「そうですね」
「結婚制度じゃったり恋愛の駆け引きじゃったり、色々書き込むべき部分があるじゃろう? そこをもっとつぶさに書くと良いのではないか?」
なんて説得力のあるお言葉。これが金髪幼女神の力か。
思わず手を合わせて拝んでしまった。ありがたや、ありがたや。
「止せ止せ、ワシができるのは助言くらいじゃて」
照れる神さまは可愛らしかった。小さい頃の下の妹みたいだった。
「神さま、もう一つお願いをしても良いですか?」
「なんじゃ、言うてみよ」
「より良い作品作りに関しては分かったのですが、それよりもさらに深刻な問題があるのです」
「深刻な問題とな?」
「はい。それは、僕の作品を読んでくれる人がいないということです」
「あちゃー」
額に手を当てる神さま。参った表現だろうか?
「この問題、いったいぜんたい、どうすれば良いのでしょうか?」
「うーむ」
腕を組んで唸る金髪幼女。可愛い。
しばらくの間、僕は唸る神さまを愛でた。
と、ようやく考えがまとまったのか、神さまが組んだ腕をほどいて言った。
「目立つのじゃ」
「目立つ」
僕はオウム返しに繰り返した。『のじゃ』は、属性を獲得してなかったので付けることができなかった。これは世界の絶対法則だ。
…ボケはその辺に置いておき、僕は詳しいところを神さまに尋ねる。
「具体的にはどうすればいいのでしょう。作品のタイトルを変えたり、ですか?」
「それも良いかもしれぬな。あとは、投稿の時間帯を工夫するのは言うに及ばず、他のユーザーと積極的に関わり合いを持つことじゃな」
「関わり合いを持つのが重要なのですか?」
ネット越しで顔を見なくて済むといっても、いささか恥ずかしいのですけど。
「何を言っておるか、まずは自分の存在を知ってもらうことが必要なのじゃ。見知らぬ人間を評価することはできぬじゃろう? お主の小説にも同じことが言えるとは思わぬか?」
確かに。確かにそうだ。読んだことのない小説を批判することはできない。
これほど的確な助言をくれるなんて、この金髪幼女は神さまなのだろうか?
…あぁ、神さまだったわ。
「それでは、他のユーザーと関わり合いを持つことで、僕の小説にばんばんポイントが付くのですね」
「それは分からん」
「えぇ…」
嘘だどんどこどーん。
いちじょうさん「夢じゃありません!」