後編
エクボちゃんというのはオレの代表作で、その主人公であり、一連の作品群のメインキャラクターでもある。アマチュア漫画家にも代表作はあるのだ。
オレはこれまで彼女を中心に作品をこさえてきた。彼女はその辺の萌えキャラなんかじゃなく、丸っこくて、お母さんのようなドラえもんのような愛すべき存在だ。
現実の彼女とともにオレはエクボちゃんを描いてきた。ややこしいので現実の彼女はかず子(仮)と仮名で呼ぶことにする。なんかホラーっぽいでしょう?
オレのアシスタントをしてくれたかず子(仮)は、このエクボちゃんというキャラをいたく気に入っていた。
そのことをオレは嬉しく思っていたし、マンガ描きとして誇らしかった。ひとつ残念なのは、オレの力不足でまだこの魅力的なキャラを世に出せていないことだ。
エクボちゃんを愛していたが、それはオレにとって限界(挫折)の象徴でもあった。
このキャラに拘っているかぎり永遠にプロになることはできない。それはちょっと言いすぎかもしれないが、たぶん本当のことだろう。
さてさて、別れ話を持ち出してきたかず子(仮)だが、あろうことかエクボちゃんを土産にほしいと言い出した。漫画家としてのオレの暖簾を分けてくれというのだ。
あの……オレまだプロじゃないんですけど。ってゆうか、たとえアマチュアでも自分のメインキャラをほいほい差し出すとか、あり得ないんですけど。
どうしたものか。断るのは容易いが彼女があっさり退くとも思えない。もし本気でパクるつもりなら隠れてだってやるだろう。
アマチュア作品の著作権なんて、あってないようなものだ。先に投稿サイトなどにアップするという手もあるが、どれだけの証拠能力がそれにあるかは疑わしい。
そもそも、かず子(仮)がオレのエクボちゃんを使ってメジャーデビューするなんてこと自体、荒唐無稽なのだ。
当たり前だがオレの描くエクボちゃんと彼女の描くそれはちがう。だったら……むしろオレより彼女のほうが(メジャーの)望みアリかもしれない。
ここまで頭の中でごちゃごちゃ考えること約4秒。オレは彼女に返事をした。いいよ、と。
かくして彼女は風のようにオレから去って行った。カルメンマキか。つい最近までカルメンマキとカルーセル麻紀を混同していたオレです。
悲しくはなかったが、やはり少し寂しかった。だがいずれこうなることは覚悟していた。アラフォーの漫画家志望が恋愛とか結婚とか、おこがましいのだ。
逆を言えばオレには漫画しかないし、これを選んだのだ。
さあ涙を拭いて原稿用紙に向かおう。泣いてたんかい……それにしても失恋明けの作品がホラーて、ないわ。