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アイデア・ノート  作者: 大原英一
ホラーな彼女
6/16

中編

 考えてみたらべつに不思議じゃない。ほかのジャンル、例えばエロマンガの依頼があってもおかしくない。これまで、たまたまそういうエグいのに当たらなかっただけだ。依頼の本数自体が少なかったともいえる。

 今後こういった案件は増えていくだろう。プロになるというのは、そういうことだ。

 ホラー漫画の依頼を断ることはできなかった。もちろんそんなジャンルにはこれまで手を出さなかったし、好きでもない。だが好き嫌いを言える立場ではない。

 オレは今回の件を正直に彼女に話した。美人の彼女にだ。

 そんな美人の彼女は顔色ひとつ変えず、淡々と諭すように言った。そんな依頼は断りなさい、と。

 オレがそれはできないと答えると、あなたはマンガ描きの魂を売る気かと彼女はオレに詰め寄った。

 いやいやいや……おかしいでしょ。だったら世のエロやホラー漫画描きは魂を売ったのかって話になる。ジャンルに貴賤はないのだ。


 ってゆうか、端から彼女にホラー漫画を手伝わせる気は毛頭ない。そのつもりで説明しているのだが、彼女は頑として譲らなかった。

 まるで漫画原作者かプロデューサー気取りだ。あるいは初かもしれない、彼女に対して腹が立った。

 とにかくきみは今回のホラー漫画に関わらなくていい、オレがそう言うと、彼女はついに伝家の宝刀を持ち出した。別れ話である。

 それを聞いてオレは一瞬、目が点になった。そんな理由で? こんなタイミングで? ……だが、同時に妙に腑に落ちる気もした。

 あらゆる物事には潮時がある。それは些細な理由で、またはとてもスカしたタイミングで訪れたりする。

 オレは彼女が下した審判を甘受することにした。べつにホラー漫画の依頼にこだわったわけじゃない。何度も言うが今回のような依頼は今後もあり得ることだ。

 それにしても、彼女がオレのマンガ描きとしての姿勢(アティチュード)にこれほどのこだわりがあったとは、正直驚きだった。


 そんな美人の彼女が去り際に、ひとつお願いがあると言い出した。なになに慰謝料とかそんな話? わしゃミック・ジャガーか。

 ちがうわよアナタにそんな甲斐性があるわけないでしょう、と軽く嫌みを言ってから彼女は本題に入った。

 暖簾(のれん)分けしてほしい、というのが彼女の願いだった。暖簾分けとは例えばオレがフニャコフニャオという作家だった場合、彼女もまたその名前を使うということだ。さしずめフニャコフニャオBってところか……だったら、わしゃAか。

 それって著作物とか著作権を共有したいっていう、つまりお金目的の話? だが彼女が釘を刺したように、オレにそんな甲斐性はない。だってまだプロの漫画家じゃないからね!

 なにが目的なのとオレが聞くと、エクボちゃんをアタシにも描かせて(使わせて)ほしい、と彼女ははっきり言った。

 あービックリした……またビックリしてもうた。

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