4(未完)
オレたちがこの部屋に閉じ込められていることには裏の意味がある。須藤さんが言いたいのはたぶん、そういうことだろう。
だが、まだ表の意味さえあきらかになっていない。オレたちをこんな目に遭わせた犯人はかならずいる。そいつ(ら)の意図がまずわからない。オレたちは何もわかっていないのだ。
「須藤さん、何か思いあたるフシでもあるんですか」
「え?」
「……まさかいまのバベルの話、言いたかっただけっすか」
「そうだよ?」
先輩は悪びれもせずに言った。若干反語調なのがイラッとした。
そのとき、ソファ正面の鉄扉がいきなり開いた。それは横開きの自動ドアだったらしい。どうりでドアノブが付いていないわけだ。
もちろん部屋のこちら側から自由に開けることなど、できやしない。あちら側から開けられたのだ。そしてオレたちの眼前には来訪者のすがたがあった。
それは、ひとりの少女だった。……少女? 背丈の低さからはじめそう思ったが、見方によっては20代前半にも見える。
その女性(と呼ぶ、念のため)はオレと須藤さんをまじまじと見つめた。たっぷり五秒間はあったろう。それから手に持っていたカゴを入口近くの床に置いた。
彼女が後退すると鉄扉がまた自動で閉まった。
「あっ、ちょっと……」
咄嗟にオレは呼び止めたが後の祭りだった。彼女はカゴを持ってきただけで部屋のなかには入らなかった。
「大原くん、飯だ」
須藤さんはさっさとソファから立ち上がってカゴの中身を確認していた。ぐいぐい行きますね、先輩……。
カゴの中身はコンビニ弁当二つと500ミリリットルの水が二本だった。あきらかに一食分である。もちろん須藤さんとオレとで分配するのだ。
さっきの女性は食糧の運搬係っぽいが、問題はどれくらいの頻度で彼女がやってくるかだ。
一日一食ならかなりキツイだろう。まあ誘拐されている立場で贅沢も言えないのだが……。
それにしても、あんな小柄な少女みたいな女性に運搬係をやらせて大丈夫なのだろうか。
たしかに彼女は部屋のなかには入ってこなかったが、オレらおっさんたちに反撃される可能性を考えなかったのか。それとも彼女、ああ見えてめっちゃ強いとか?
いや彼女がふたたびあらわれるという保証はどこにもない。だが、その可能性にかけるしかないとオレは思った。
今度自動ドアが開いて彼女がすがたを見せたら、とっ捕まえて逆に人質にしてやる。
この名案を須藤さんに伝えようと思って彼のほうを見ると、先輩は差し入れられた弁当をレンジでチンしていた。
レンジ、あったんかい! ……にしてもすごいな先輩のサバイバル能力。