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ひととおり部屋をしらべ終えると、オレと須藤さんはふたたびソファに腰を下ろした。
正直、途方に暮れていた。オレたちが監禁されているのは間違いない。そのまえに誘拐されている。薬物によって眠らされた挙句、ここへ移送されたのだ。
やはりあのピザ・バーがあやしい。店ぐるみの犯行と思われる。じゃなければ白昼堂々おっさんふたりを拉致れるわけがない。
とりあえず、この部屋にはきれいなユニットバスがある。囚人より扱いは増しなようだ。空調もばっちりでオレのアパートより快適なくらいだ。
食料や水の類いは残念ながら見当たらない。オレたちを生かしておくつもりなら、やさしい誘拐犯がそれらも提供してくれるだろう。
それにしても、おっさんふたりを監禁して犯人はどんな交渉をするつもりだろう。オレはとなりのおっさ……もとい須藤さんを見た。
寝てるよ。この状況で、よく居眠りができるな……。
「大原くん」
目を逸らしたと同時に声をかけられたので、オレはビクッとした。起きとったんかい!
オレが向き直ると彼は突拍子もないことを言い出した。
「バベルの塔って、しってるかい」
「……バビル2世が住んでいる?」
「じゃなくて。創世記のほうの」
「あー、はいはい。あまりにも高い建物を造った人間に対して神がキレたってゆう、あれですね」
「そう、それ」
先輩は満足そうに頷いた。なんかピザ・バーでも、こんなやり取りがあったぞ?
「いくら高いって言ってもさあ、むかしの人が建てたものだからタカがしれていると思うんだよね。ぶっちゃけサンシャインやスカイツリーのほうが全然高いって」
「そりゃ、まあまあまあ」
「神はなぜキレたんだと思う?」
須藤さんの意図がまったく読めない。なにか教訓めいた話だろうか。
「やっぱり、文明に酔い痴れる人間への警告とか……」
「教訓的な話じゃない気がする、オレ的には」
「どういうことですか」
少しの間をおいて先輩はドヤ顔で言った。
「やっぱ高いところでヤると気持ちいいんじゃないかな」
下ネタかいっ……この状況で? やめろ、これR15付けてないんだから。
「下ネタっすか」
「そうじゃなくてさあ」先輩はなぜかめっちゃ嬉しそうだ。「どんな話にも裏の意味があるんじゃないかなって。高い建物がダメだよってのは、つまり気持ちいいことが隠されているってことに、ならないかな?」
ならねーよ……いや、どうなんだろう。正直その発想はなかったわ。