2
目が覚めるとそこは見知らぬ部屋で、オレはソファにもたれかかっていた。
頭を高速回転で状況を整理する。記憶をたぐり寄せる。……そうだ、ピザ・バーだ! オレは先輩の須藤さんとランチ中に意識を失ったのだ。
見るとおなじソファですぐとなりに須藤さんの姿があった。オレとおなじようにソファにもたれ、まだ眠っているらしい。
まさか死んでいるんじゃないよね? そう思ったと同時にオレは彼の肩を揺さぶっていた。
「……ん、」
須藤さんはいつもみたいに目を覚ました。この先輩は職場でもよく居眠りをする。いつもどおりの光景だった、この異常な状況を除けば。
「あれ……ここ、どこ?」
「わかりません。オレたち眠ってしまったみたいです。眠らされたのかも、しれません」
「マジか」言って須藤さんはふらふらと立ち上がった。「とりあえず帰るか……」
まあまあまあ、それがふつうの選択でしょうよ。でも現在地がわからないと帰りようがないからね?
それでも動かないことには、はじまらない。オレも先輩にならって腰を上げた。
ここから出るにはまず部屋のなかをしらべる必要がある。それには部屋をもっと明るくしないとだ。
照明は最小限に抑えられていて、とにかく暗い。窓から光が差しているということもない。夜だからか、あるいは雨戸がされているのか。おそらく後者だろう、いや両方かもしれない。
さきに壁際に照明のスイッチを見つけたのは須藤さんだった。彼の調整により部屋は全体が見渡せるほどには明るくなった。だがその光は絶望のはじまりでもあった。
窓が、この部屋には窓がなかった。ひとつだけ、ソファから見て右手に、たぶんこれ窓なんだろうなーという跡がある。だがそこは頑丈そうな板材によって封鎖されていた。
つぎはドアだ。ここには計三つのドアがある。
ソファ正面のそれはあきらかに玄関ぽい。だがそれは鉄扉でドアノブすら付いていない。監禁する気、満々だろ!
ソファ左手にあるのはふつうのドアで、ちゃんと開いた。そこはユニットバスだった。バス内に窓はなく換気口しかない。
ソファ後方にあるドアもふつうのタイプだったが、施錠されているらしく開かなかった。構造的に考えるとこの向こうにもうひとつ部屋があるっぽい。推測に過ぎないが。
「閉じ込められたみたいですね……」
オレは須藤さんに言いながら胸ポケットを確認した。財布もスマホも無事だった。
スマホは電波が入らずほとんど役に立たなかった。財布も、はたして意味があるだろうか?
すべては生還しないことにははじまらない。そう思った42歳の夜でした。