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アイデア・ノート  作者: 大原英一
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 日勤のときは須藤さんと昼食を一緒にすることが多い。オフィス街ということもあり、ランチには事欠かない。

 須藤さんは職場の先輩で年齢は46歳らしい。オレより四つ年上になる。ふたりとも、まあ、おっさんである。

 彼は付き合いの長い先輩ではない。というのも、オレがこの職場へきてまだ二ヶ月ちょっとしか経っていない。そのわりに彼はちょくちょくオレをランチに誘ってくれる。いい先輩だと思う。

「大原くん、やっぱ爆弾オチって萎えるよね」

 テーブルに着くなり彼は言った。今日はおしゃれなピザ・バーだった。おっさんふたりでピザ・ランチである。

「……爆弾オチ?」

「ドラマやアニメでよくあるじゃん。追い詰められた犯人がいきなり爆弾取り出すやつ」

「あー、はいはい。腹にダイナマイトとか巻いているやつですね」

「そう、それ」

 須藤さんは満足そうにグラスの水を飲んだ。異様にでかいグラスで水差しのほうもデキャンタみたいなのが使われている。さすがおしゃれなピザ・バーだ。


「おまえらのせいでオレは一文無しになった! この会社に復讐してやる! ……って、その爆弾どうやって手に入れたの? 一文無しなのに?」

 高いテンションのまま彼はノリツッコミをした。

「まあまあ、たぶん犯人はどこからか爆弾をゲットしたってゆう設定なんだろうけど。でもダイナマイトなんてどこに置いてあるよ」

「採石場……とか?」

「サイセキジョウて。大原くん、行ったことある?」

「ないです」

「だろー。採石場なんて戦隊ヒーローが最後に戦う場所、くらいのイメージしかないよ」

 そこでピザが運ばれてきた。「今週のピザ」はハニーレモンとチキンのピザだった。店は一週間これで通すらしい。


「だからって、あからさまに爆弾の伏線が張られるのも萎えるんだよな。それ絶対、後で出てくるだろ! って、わかっちゃうからさ」

「そうですねー」

「つまり……」

 須藤さんがピザを飲み込むまで次の言葉を待たなくてはならなかった。

「爆弾オチは無しってことで」

 それだけかいっ、とツッコミそうになるのをオレは堪えた。この先輩はこんな感じにシンプルな結論にたどり着くことが多い。まあ発想自体は面白いので退屈することはないのだが。

 ピザは正直、微妙だった。刻んであるチキンはいいとして、輪切りのレモンがふんだんに乗っかっているのだ。食べ進めるに連れて口が酸っぱくなってきた。

 先輩は「斬新な味だなー」を連発した。同感である。


 ふと違和感をおぼえた。周りを見るとほかのお客さんが誰もいなくなっていた。ウソでしょ、ランチタイムなのに?

 ここは雑誌で取材されるようなおしゃれなピザ・バーだ。今日はすんなり入れたが、日によっては人が並んでいることもあるらしい。

 須藤さんは何度もここへ来ているがオレははじめてだ。微妙な味のピザが1400円もするのだ。今日たまたまいていたのは、みんな酸っぱいピザをしっていて敬遠したのだろうか。まだ月曜日なのに?

 先輩が急に大人しくなった。見ると……彼は寝ていた。手からこぼれたであろうピザが床に落ちていた。眠かったの? そんなに?


 つぎの瞬間、世界がグニャリと歪んだ。眠い。強烈に眠い。酸っぱいピザでもこの眠気には勝てそうもない。

 目のまえが真っ暗になり、そこから先は憶えていない。

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