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夢から紡ぐ未来への系譜  作者: 馬波良 匠狼
一夢 夢に招かれ
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2.聞き覚えのある声

 しばらく街を歩き続けてみた。ムクの身長が伸びたこともあり、多くの情報が目に飛び込んでくる。


 六年前に比べ街は高層ビルが多く建ち並んではいるものの、通常の民家も未だ点在しており日本の風景よりは大分遅れていることが分かる。また、人々の多くは人外の格好をしており、普通の人間はおよそ二割程度。服装はスーツ、着物、ジーンズ、ワンピースとこちらは色々な格好をしていた。しかし、ムクは別段興味もなさそうに周りを見渡していた。あの六年前の感動はとうの昔に捨ててしまい、とにかく早く目覚めないかとうんざりとした表情で歩き回る。


 ひとしきり歩き回った後、とりあえず落ち着けるベンチに腰を下ろした。

 六年前であればムクの内心は今日のように透きとおった青空が広がっていたが、それも今は曇ってばかりで正直なところ何を見て回っていたのか覚えていない。そしてそれを別段不思議に感じない時点で、ムクの心は壊れていた。六年分のムクに対する周りの態度は、それだけ酷いものだったということである。


(俺の体はいつになったら目覚めるのだろう? ……ん?)


 そんなことを考えながら目の前の景色を呆けたかのように眺めていると、ふいに目の前を知っている顔が通り過ぎた。夢の世界では姿を変えることは良くあることであり、本来であれば認識することは少ないのだが、しかし彼はその姿を見間違えることはなかった。


(黒田、この世界でも同じ姿をしているのか……)


 それはこの六年間ムクをいじめの標的とし、中学に上がってからも他の小学校から来た生徒に、ムクの状況を言い触らした張本人「黒田(くろだ)文和(ふみかず)」だ。しかもムクのいるいないに関わらず、これを触れ回っているためか、質の悪さでいったら恐らく学校で上位に入り、そしてそのことはムクの耳にも当然入っている。


 それを思いだした途端、ムクの心に怒りの炎が点火した。しかし、それもすぐにとろ火となってしまう。ここで過ごしている彼は別に問題があるわけではない。ムクはそれを分かっているためか、手出ししないことに決めたようだ。


 そう、この発言を聞くまでは。


「そう言えばよ、名守って奴がいてさ、そいつがすげぇ馬鹿なんだよなぁ。いい加減、学校に来られてもむかつくのに、懲りずに来るんだぜ」


 それは明らかにムクを嘲笑する発言。これはさすがに燻っていた心に新たな火種を付ける理由となった。たちまち憤怒の炎を宿らせたムクは黒田の元へと速足で向かっていく。


 ここで捕捉をすると、実はムクといじめっ子の間にはおよそ四百mの距離があった。つまり、本来であれば聞き取れないような場所で話していたことになる。それなのに何故ムクには聞き取れたのだろうか。それを話すにはもう少し話を進める必要があるため、ここでは控えさせてもらう。


 ムカつく腹が収まらないムクは、今にも爆発する勢いで彼の元へと突進を続ける。黒田も途中で近づく人影に気付いたのか、ムクの方を振り向いた。その途端……。


 ムクが両足で飛び蹴りをかます。


「!?」


 あまりに突然のことで驚くとともに、黒田は前へと簡単に転がった。蹴った相手の顔を視認したことを確認し、ムクは言い放つ。


「お前……。この夢の中でもクズみたいな奴だったとはな」


 黒田には青天の霹靂だったが、それでも顔を見た瞬間納得いったようで、不敵な笑みを浮かべながらゆらりと立ち上がり、ムクと対峙した。


「お前がなんでここにいるか知らねぇが、これだけのことをしてくれたんだ。覚悟はできているだろうな。学校でも言い触らしてやるよ!」


 当然だが、現実の黒田はこの発言を覚えていない。ただ、この世界にも学校という概念は存在しているため、それを引用したと考えてもらった方が正しいだろう。

 ムクは小さな頃の経験もあり、少しだけチンピラがトラウマとなっている。それでもあの頃と違うところは、見上げずに目線を合わせて相手を見据えることが可能であるということだろう。


「いつも俺のことをからかってくれてありがとう! そんな奴に足元はすくわれるものだと教えてやるよ!」


 だから今回は最初から怖気づかずに、啖呵を切ることができた。そしてそれを機に、不敵に笑った黒田は左拳を振りかざしムクの顔面に向けて放った。ムクはそれを咄嗟の反射で避ける。更に黒田は右拳で即座に二撃目を、今度はボディに向けて撃つ。これもムクは体をくの字に曲げ、後ろに下がることにより、間一髪避けた。


神代かみしろさん! そんな奴やっちまってくだせぇ!」


「いけいけぇっ!」


「おいチビ、てめぇが神代さんに勝てるわけないだろうが! さっさと負けを認めろよ!」


 周囲から野次が飛ぶ。その全てが黒田――神代を応援し、ムクをなじるものである。しかしムクはそんな声に一々反応せずにいた。ただ、


(こいつ、この世界で神代って呼ばれているのかよ……)


 名前だけには反応を示した。

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