2.変化を感じて
「鱗さん、やりましたね!」
外套を外し、そう明るい笑顔で隣の女性に話しかけるのは、最後に回し蹴りを食らわせた「バード」ことヒバリである。
「バード、もう少しうまく連携を取れないと、取り逃がすでしょ!」
しかし女性――鱗は少し厳しい口調でヒバリを叱責した。
「今のでは良くて53点。先に盗品を取りに行ったのは良かったけど、その後左右を竜巻で防げばもっと良かったんじゃない? そうすれば、相手は正面にしか来ないからあとは……」
「あぁ、もう! 分かりました!! もっと精進します!!」
鱗のダメ出しへの聞く耳を途中で失ったヒバリは、耳を両手で塞ぐ。
「はぁ、全く。バードはもっとしっかり人の話を聞かないと……。折角のアドバイスが台無しじゃない」
呆れ口調で呟く鱗。
ただ、元から結構この調子でヒバリと仕事をしているので、それ程呆れてはいない。
(バードの調子が良くなっている。ちょっとホッとしたかな?)
寧ろ、ようやく本調子が出てきて、一安心といったところである。
「さて、最後までしっかりと片付けようか。とりあえず、こいつを縛っておかないとね」
鱗はてきぱきと縄を出し、馬中の両腕を背中側でギュッと縛った。また、脚力で逃げられても困るため、両脚も同じように縛る。
「お~い、バード! 鱗さん!」
ちょうど縛り終えたとき、馬中の来た方向から声が飛んできた。
「大丈夫……、ってまぁ、倒してあるから大丈夫なんだろうけど」
狼のような顔をしているが、体は人間のもの。
「神代くん、ありがとう。こっちまで誘導してくれて」
鱗が顔を上げてやってきた神代へ、にこやかに対応する。
「何とか上手くいって良かった。違う方向に行ったかと冷や冷やしたぜ……」
「まぁ確かに、もし反対方向に行かれてたら、流石にこちらも何ともできなかったしね」
うんうんと頷いて相槌を打つ鱗だが。
「大丈夫だよ! だって……」
そういってヒバリが神代の来た方向を見やる。すると……。
「3人とも~」
遠くの方にポツンと人影が見えた。その人影が大きな声で呼びかけている。
「けがはないですか~」
少し呑気なその声が届いてから、ヒバリは……。
「ムクがいるんだもん」
二人に向き直り、ふふんっと腕組みをして胸を偉そうに張る。
「何でバードが自慢気なの?」
奇妙なヒバリの行動に呆れる鱗。
「だって、ムクだし」
しかし、ヒバリはそんなことを気にする素振りすら見せず、よどみなくそのようなことを口にした。
「ねぇ、あんたムクに心酔してない? 大丈夫??」
「えっ? そんなことないと思いますけど……」
「…………」
(自覚なしか……)
とりあえず、暖簾に腕押しなのは分かったので、鱗はそれ以上何も言わないことにした。
「鱗さん……」
若干同情染みた目線が神代から送られてくる。その目線が痛すぎて若干頭が痛くなり、鱗は顔を険しくさせ、溜息をつくしかなかった。
「? どうしたの鱗さん、神代?」
そして、到着したムクは成功したはずの作戦で、何故か二人が暗い顔をしていることに疑問を持った。
「「いや、なんでもない……」」
色んなことに諦めた二人の答えは、それで精一杯だった。
「ムク、ありがとう!! おかげで窃盗犯を捕まえることができたよ!!」
その雰囲気をどこ吹く風で飛ばし、ヒバリはムクに感謝の言葉を伝える。
「いやいや、どこに向かうか連絡したのは俺だけど、それを止めたのはバードと鱗さんのおかげだし、ここまで誘導してくれた神代のおかげだから……」
そんなことを何とはなしに、さりげなく、特別な事でもないようにムクは言った。
「そんなことないよ~! ムクの咄嗟の炎の壁のおかげで、あいつの逃げ場はなくなったんだからね!」
褒める声の弾みがスーパーボール並になっていることに、この少女は気付いている……訳もない。
今までをよく知っている鱗は目を疑い、ムクのこととなると人が変わることを知っている神代はいつも通りだと呆れている。
「そんなに褒めても何も出ないけど……、ありがとうバード」
少し困ったような、でも満更でもない笑顔をヒバリに向けるムク。
「え、えへへへへ……」
その顔と言われた一言に、ヒバリは赤面し頬を両手で覆う。
((この状況になれるのにいつまでかかるんだろうか……))
まだしばらく続きそうな色ボケちゃんと鈍感くんのやり取りに、少しうんざりとした、しかし、平和を噛み締める数少ない時間を、鱗と神代はその身で感じることにした。
素早い連携を魅せ、見事に犯人を捕らえた一行。
しかし、バードの変化は良い方向に進むのか否か、と懸念する鱗と神代。
前途多難となりそうです……。




