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夢から紡ぐ未来への系譜  作者: 馬波良 匠狼
一夢 夢に招かれ
6/66

1.6年の間

(アレ……。ココッテ……)


 目を開けるといつか見た風景が見えていた。現代日本と同じ風景だが歩いている人々は異種族が多く、人間は少ない。こんなところはムクの知っている所で一つしかない。


(久々に来てしまった……。夢の異世界、クリム界に……)


 何故今まで来ることのなかったクリム界に来ることになったのか、理由はその日の状況にある。




 中学生になって早二か月半が過ぎ、本来であれば中学生活に慣れる頃なのだが、ムクは馴染めずにいた。

 小学校からの悪い噂が付き纏い、それが他の小学校から来た同学年の生徒にも広がってしまったのが孤立する要因だった。しかも、扱いは過酷を極め、最近ではカツアゲや暴力も振るわれている。部活に入るものの、そこで上級生からも遠ざけられ、好きなことをしているはずなのに気持ちは深く沈んだままだった。

 更に性格と表情が暗くなったためか、誰も近寄らず、ムクからも近づかないスタンスを貫いてしまっている。一日中、ほとんど脱け殻の状態で生活していた。


 そしてこの日は様々なものが重なっていた。


 登校中に同級生から野次を飛ばされ、教室に入ればクラス内に緊張感が走り、授業中はあまりの孤独さに内容が頭を滑る。昼食中も一人教室を飛び出し、屋上の片隅で自殺を考えながら中身を口に運んだ。授業が終わると部活に行くのだが、その前に同級生のチンピラ組からカツアゲされ、遅れると先輩達と先生が怒鳴りつけ、練習量を他の生徒の倍以上に強制した。その為、くたくたな状態で帰途につくことになる。そして、夕食も口にせず風呂にも入らず、何も考えることなく布団に飛び込み寝付いてしまった。


 そう、いつものムクであれば意識して行かない様にしていたはずがこの日、心身の疲労をこれまでの分ごとその身に溜めたままその意識を手放したことが、クリム界へと来てしまった要因である。




 話を章の冒頭に戻そう。


 六年前と同じ場所ではないものの、やはりどこかの交差点の真っ只中に放り出されていた。身長はあの頃から伸びたためか雑踏を見上げることはなく、驚くことはしなかった。ただ気掛かりなのは、その街並みの変化の仕方がどう見ても現代の日本の成長に似ている点である。


(この世界も、一緒に成長するのかな)


 ムクが思ったのはたったこれだけであった。というよりもそれ以外ない。彼からすればこの事態は想定外のことではあったが、だからと言って何をするわけでもないため、正直なところ早く覚めればいいのにと考えていた。

 しかし、この世界は都合よく目覚められる場所ではないことをムクは重々承知していた。六年も前に言われたことだったが、時間が経たなければ現実世界に戻れないという言葉を彼はしっかり覚えていたのである。


 そんな訳でムクはその場に立ち尽くすのも面倒と考え、とりあえず歩くことに。部活などで疲れていて歩けないのかと考えもしたが、さほど身体に変化はないことから、現実と夢での体力は切り離して考えても大丈夫だと確信した。

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