7.手に感じた温もりを
フォックスの登場により形勢は逆転する。しかし、まだどうなるか分からない状況の中、フォックスはどう判断を下すのか……。
一方のフォックスは、既に別のところに目をやっていた。
「ということだ、ムク君。君のやってきたことは、確かに良くないことではある」
向けられたその目が恐かったのか、怯えた表情でフォックスを見るムク。
しかしフォックスは、6年前に初めてムクと出会った時と同じような優しい表情で見つめる。
「しかし、今君は私達の部局に所属してくれると言ってくれた。それは本心として受け取っていいかい?」
その問いかけにムクは迷わず首を縦に振る。
(ようやく決意してくれたか……)
その動作に思わずフォックスはにやりとした。それを確認し、フォックス右手のひらをムクに向けて伸ばす。ムクはやって来る手のひらに体を縮こまらせ、目を固く瞑る。
「恐がらないでくれ……」
フォックスは少し寂しそうな声を出して、それから……。
ムクの頭の上に手を置いた。そのままくしくしと頭を撫でる。
「6年前、君はあんなに小さかったのにな……」
ムクは少し恥ずかしそうに視線を彷徨わせる。隣のバードは嬉しそうにムクを見つめる。その空間はいつの日にか見た光景にそっくりであった。
フォックスがゆっくりと膝を屈め、ムクと同じ目線になる。
「随分と長い間、君は色々なつらい目にあってきた。だから、この世界を乗っ取ろうとしたのだろう?」
その問いにムクは口を噤む。フォックスはその表情に彼の答えを見た。
「良いんだ、それで」
そして、精一杯ムクに向かってほほ笑む。
「君はまだ若い。君はまだ迷える年齢だ。だから、どんな判断をしても良いんだよ」
その言葉にムクはハッと顔を上げた。それと同時に、何故か隣の少年も顔を上げる。
「もし間違っていることだとしても、私は責めることはしない。その判断を行っていくのは、これからでいいからだ」
そして一拍置いて、ムクへ、そしてその場にいる若者へ声をかけるように、フォックスは言葉を発する。
「私達はその時の道を示すためにいるのだよ」
力強くムクの肩を叩き、その手にしっかりと思いを込める。
「大人とはそういうものだ」
力強い声音と言葉が、そこにいた3人の表情を明るくする。それを見てフォックスはにこりと笑い言葉を足す。
「だから、君の起こした事件は確かに間違いではあったかもしれないが、私はそれを咎めない。だから、安心して治安局へと入りなさい」
受け入れてくれる優しい表情を見て、ムクの顔から恐怖心が消えていく。自分の行いがどれほどの物か分かっていたからこそ、ここで治安局へと入局できる事に、大いに安堵を示したようだ。
「あ、あの、フォックスさん……。お、俺……、その……」
震えている言葉に戸惑いと期待が入っている。それを見て静かにフォックスは頷く。
「い、良いんですか……? こんなことをした俺が入っても……?」
「いいさ。何かあれば止めるし、良い行動を起こせば支援もする。ここにはそれだけできる人たちも多い。だから、安心して入りなさい」
なるべく怖がらせないよう優しい声音でそう紡ぐ。
その言葉が耳に届いたのか、ムクの目に潤みが見える。
「じゃ、じゃぁ、よろしく……お願いじます……」
最後は気持ちが抑えきれなかったのか、言葉が消え入りそうになりながら頭を下げる。フォックスはただ、その様子を静かに見つめ、最後は彼の肩を軽く抱いて、その思いに応えた。
エントランスにいた夢残たちもその様子をじっと静かに見守って、小さく拍手を送った。
ただ一人だけ、その様子を面白くない表情で見ていた者がいた。
(何故あの狐野郎はあいつを引き入れるんだ?)
遠巻きにその様子を見ていたハースである。
(狐野郎の判断になぜみんな従うのだ?)
自分の方が絶対的に正しい。ハースにはその思いが根底にある。だがしかし、何故か現実(ここは夢の中だが)はそう自分の思った通りにいかない。
今度は事を起こした主、ムクの方に目線を送り、睨みつけて非難の目を向ける。
(そいつを引き入れるのは絶対に間違っている。何故その間違いに気づかないんだ……?)
自分が局長の右腕であればあいつをこの世界から永久追放に処せたはず。ついでにこの判断を下したフォックスも落とせる。
だが、現実は地位としては上でも、指示の権限が強いのは間違いなくフォックスの方だ。
(局長は何故あの男をそばに置くんだ? あんな人当たりしか良くない、正直仕事できないような、気持ちの悪い獣を……)
更にハースは局長にも不満を持っているようで……。
(能力としては自分の方が上なのに、何故なんだ……?)
自分の地位がフォックスより下なのが、ハースには面白くないようである。
(まぁいいさ。その内証明して見せる。狐が間違いで、俺があっている。それを証明するその時をな……)
ハースは心の内にそう決意を固め、居心地の悪くなったエントランスから離れていくのであった。




