6.思わぬ縁護射撃
勇気を振り絞ったムク。それに対するハースの反応は……?
「な、何だ貴様は!?」
ハースの反応は当然である。周囲の夢残も彼の行動にお互い目を合わせる。
「話を聞いていなかったのか!? ここに貴様の席はない!!」
「お願いします! 仲間に入れてください!!」
なお強い罵声を張られても、ムクは頭を下げ続ける。
後ろに庇われることになりその様子を見守ることとなったバードは、突然の状況に目を丸くしている。
「今までの行いは本当に悪かったと思っています! だからこそ、俺にチャンスをください!」
なおも頭を低くして強く願うムク。顔は上げないが、必死な表情をしているに違いない。
だがそれでも、ハースは突っぱねる。
「その言葉が信用に値するとでも思ったのか! 貴様はこの治安統括局どころか、夢人会も敵に回すほどに、クリム界を脅かしていたのだ! それを今更いけしゃあしゃあと……。どの口が申すのか!!」
「お願いします! バードを信じてください! 俺のこと以上に、バードのことを!!」
いつ手を出されてもおかしくない状況だ。それでも最後の望みにすがるかのように、ムクはハースに頭を下げ続ける。
しかし――
「お前の口から信じるという言葉は聞き飽きた! 今すぐこの場で、その口を塞いでやる!!」
遂に怒りの頂点が達してしまった。ハースは両手を結び、上からムクの背中を叩きつけようとする。
「ムク! 危ない!!」
一拍遅れてバードが反応したが、間に合わない。周囲も茫然としながら事の成り行きを見守るしかなかった。
と……。
「何なんだ、騒々しい!」
突如、腹の底に響く低い声がエントランスに響いた。思わずハースの腕が止まる。
声のする方向は階段の上、正面から見て右側のバルコニーの手すりからだ。みんなが一斉にその方向に目をやる。
「副局長ともあろうものが、声を荒らげるなど、恥ずかしいと思わんのか!」
狐の顔をした人物が階段にいる3人を怒りの表情で睨みつけている。特にその視線はハースへと向いているようであった。
「フォックスさん……」
ハースが静かに漏らした名前は、バードの父であり……。
「騒がしいから止めてくれと、局長が直々に私に申し付けてきたぞ」
クリム界では治安統括局局長「補佐」を務める、フォックスであった。
「皆落ち着いたか?」
また静かに、それでもそこにいる者たちに届くように、フォックスは問う。誰も頷きはしないが、エントランスは音の波ひとつ立つことのない静けさとなった。
それを確認したフォックスは、階段をゆったりと降り、ハースたちの元へと近づく。
「ハース、何があった?」
ロビー一体を見渡すようにしてからハースの方へ視線を向ける。
「はい……」
補佐と副局長。立場としては副局長の方が上ではあるが、局長の右腕は補佐であるため、実質のNo.2はフォックスの方である。
重々しい空気の中、ハースは事の経緯を話し始める。そしてフォックスはそれをじっと聞き、事を精査する。
周囲は二人の様子を静かに見つめるしかなかった。
「それで、ムク君は治安局に相応しくないとしているのか?」
「はい、その通りです。私は間違ったことを申していないと思っております」
迷いもなくハースは、そうフォックスに告げる。
「それに、フォックスさんも攻撃されたそうじゃないですか。そういった人物をこの治安局に置いておくのは、正直どうかと思いますがね」
嫌みたらしく、ムクに向けて発するように、ハースは付け加えた。その発言にムクは目を伏せるが、バードは眉間にしわを寄せ、握りこぶしを作っていた。
聴き終えたフォックスは眉をひそめて少し考え、考えがまとまったのか目線をハースに送る。
「なるほど。確かに、ハースの言うことは一理あるな」
「父さん!!」
肯定するような口ぶりに、バードは怒りをあらわにし、前に出ようとする。だが、フォックスは娘を右手で制し、言葉を続ける。
「だが、それだけではこの子を治安局に迎え入れない理由にはならない」
「なっ!?」
その場の全員が騒然とした。ロビーにいる者は隣と囁き合って困惑している。
「ど、どういうことですか? まさか、この少年のことを庇うおつもりですか?」
当然、一番の動揺を見せたのは、当然ながらハースである。表情もかなり強張っているが、それでも、毅然とした態度でフォックスに尋ねる。
「ふむ……。ハースよ、この子はどんなことをしてきた?」
逆にフォックスは平然と質問返しを行った。
「さっき言ったじゃないですか! この者は我々を陥れ、多くのけが人を出し、しかもこの世界を征服しようとしていたんですよ!! そのような者を引き入れるなどと……」
「それで、死人はでたのか?」
堰を切ったように文句を流していたハースの言葉を、フォックスは鉄の板を差し込むように止めた。
「えっ、えぇっと、それは……」
ハースの目が宙を彷徨う。
「バード、ムク君によってどれだけの被害が出たか分かるか?」
突然に話を振られ、驚きからか一瞬目が大きくなったが、バードは深呼吸ののち落ち着いて報告する。
「はい、傷害や建物の被害は多くあったものの、死者は0人です!」
この事件の当事者であるバードは、状況を把握しているためすらすらと答える。その言葉には力強さがあった。
「ありがとう。さて、確かに色々と被害はあるが、誰かを殺したという話はないみたいだな」
澄ました顔でハースを見やるフォックス。その目の奥には若干の非難が混じっている。睨まれているからか、ハースの顔から色が失われていく。
「なっ、そんな……」
実は、ハースは状況を把握しておらず、捕まらない、邪魔されるという報告だけしか受け取っていなかった。そのため、どれだけの被害が出ているのかは知らなかったようだ。
「まさか、副局長とあろうものがこの事件の被害状況を把握していなかったのか? それは、大きな失敗ではないだろうか……」
図星を突かれ更に色をなくしていくハース。
「うっ、申し訳ありません……。それは確かに私のミスでございます……」
もう言い返す力は既にない。ハースは顔を俯き静かに目を閉じ、唇を噛み締めていた。




