5.思いを懸けて説く
「バード! 今の今までどこに居た!!」
突然の登場に驚くことはせず、ハースはバードをしっかりと目に捉えるや否や、彼女の声より響く叱責を浴びせた。
その形相に少年2人はたじたじとなるが、バードは毅然とした態度でハースを見据える。
「二人とも、私に着いてきて」
目線を両隣に立っている2人に振り、小声で指示を出す。その合図に2人は頷き、バードが歩き出すと同時に歩調を合わせて動き出した。
ぐんぐんとエントランスの中央を進んでくるバードたち。集まっていた夢残たちは眼の据わっているバードに戦き、モーセが海を割ったように人垣が崩れ、ハースまで続く一直線の道を他の夢残たちを気にせず進む。
そして目の前まで来てから、バードは気をつけの姿勢を取った。ただ目線はハースから逸らさない。そして一つ大きく胸の奥まで息を吸い、吐き出すと……。
「ハース副局長。今まで音信不通にしていたこと、誠に申し訳ありませんでした」
そう言って頭を腰の高さまで下げる。バードのその姿に周囲は騒めいた。ハース自身もバードのこの行動は予想外であった。
何故ならここにいる者は、これまでバードが頭を下げたところを見たことがなかったからだ。
「バ、バード……。一体どういう風の吹き回しだ? 謝ったところで、そう簡単に許されると思うな」
ハースの声が弱くなる。言葉もまとまっていない。虚を突かれたとはこのことだろう。
「それは重々承知しております。並びに……」
そう前置きをし、顔は上げずに左側に立っていた少年を両手で指し示す。
「こちらにいるムクを連れ去ってしまった件も、深くお詫び申し上げます」
はっきりと自分の行った行為についても謝罪を行った。
「……して、何故連れ去ったのだ?」
声に抑揚がない。深く、ゆっくり、重たく、胃の中心をえぐるような低い声でハースはそう問いかける。
少年二人とエントランスにいる夢残たちはハースの静かな怒りに恐怖を覚え逃げ腰でいつでもその場から離れられるようにしているが、バードだけは気にせず、恐怖をおくびにも出さずに直立不動で向き合っている。
「彼を連れていった理由は単純です」
バードは一言一句をゆっくりと吐き出す。
「彼を説得してきました」
その言葉にエントランスにいた夢残たちが動揺する。
「……具体的には?」
静かに、冷ややかに、バードを睨みつけるハース。その視線、いや視戦は、その場にいる者たちを凍りつかせた。
「まずは彼の行いを正し、これまでしてきたことを反省させました」
淡々とバードは説明していく。その声は何を言われようと、絶対返すことを強く示しているようであった。
「それと連れ去った理由にはもう一つ。彼にある提案をして、今回の件を不問にしたいと思い……」
「治安統括局に迎え入れる、と?」
「……!」
そのハースの言葉により、初めてバードに苦い表情が浮かんだ。明らかに動揺している。
「そ、その通りでございます」
顔色は少し悪いが何とか気持ちを落ち着け、バードはまた話を続ける。
「ムクは私に負け、これ以上の抵抗はできないと思います。それに治安統括局は人手不足です。人手は多い方が得だと思い、今回仲間に迎え入れられないかと……」
「甘い!!」
轟く怒号に一番近くにいたバードは目を瞑る。
「バード、お前はその者を信じるのか! あれだけ散々逃げ回られ、私達を出し抜き、多くの夢残や現生人を傷付けてきたのだ! それを不問にして私達の局に入れるというのか!? 馬鹿も休み休み言え!!」
ハースが疑うのも無理はない。ムクの行いは治安統括局内のみならず、夢人総括会でも上位案件として挙がっているほどの危険人物だからだ。
それでもバードは目を見開き、二人の距離を詰めて主張する。
「えぇ信じます! 彼は私に負けて抵抗しないと言ってくれました。このままだと消されると話したら、私の仲間になって償いたいと言ってくれました。真剣な眼差しで、真剣な表情で、真剣な言葉で、そう言ってくれました!!」
バードも気迫に負けていない。
「それがどうした! いくらでも言葉なんぞ作れる! そいつの言葉を簡単に鵜呑みにしたのか!? だとしたらお前は大馬鹿者だ!!」
しかし、どれだけクリム界で結果を残してきたバードでも、所詮は子供の主張と一蹴できる。経験が違うのだ、とハースは思っている。
それに副局長として、まとめるものとして、それをしてはならぬと思っているために、バードの主張を跳ね返しているのである。
互いの主張が激しくぶつかり、もはや議論の余地も無くなってきた。
ここまでくると読者の皆さまも予想がつきやすいだろう。
議論の埒が開かない場合の最終手段。
((もう、戦うしかない!!))
二人がそう心の中で思った瞬間……。
「あっあの!!!」
二人の熱に割って入るような声がした。その直後、バードとハースの間に入り、腰を90度に折り曲げ、頭を低くする少年がいた。
「お願いします! 俺を、仲間に入れてください!!」
勇気を振り絞って頼み込むのは、他ならぬ話の当事者、ムクであった。




