4.模索と捜索
突きつけられる現実に、3人は何を思うのか。
ムクがこのままでは夢残でなくなってしまう。
その現実を突きつけられ、3人の間には深い沈黙が落ちてしまう。
「それだと……、今までの俺たちの苦労は……」
黒田が拳をぐっと握る。
ムクは空を儚く仰ぎ見る。
ヒバリは目を静かに伏せる。
折角治せた互いの絆を、新たに出来た友情の絆を、こんなにも早く手放さなければいけないのが、皆悔しくてたまらないのだ。
このままではまた時が止まってしまう。それだけは3人とも避けたい。
「一つ……」
そんな沈黙を恐る恐る打ち破るのは、この世界をこの中の誰よりも知るヒバリであった。
「一つだけ、ある。ムクの記憶を失わないで済む方法」
「本当か!?」
その言葉に反応を示したのは、他ならぬムクに迷惑をかけたと感じている黒田だ。
「でもそれは結構危険な賭けかも」
しかしヒバリは難色を示す。それもそのはず、ヒバリの考えていることは条件から行って厳しいところだ。通るかどうかも分からない、まさに「賭け」である。
「失敗したら私も危うくなるんだけど、かといってこれ以外の方法も無くて……」
「それを教えて」
声を上げたのは、それまで上を向いていた空を仰いでいたムクであった。
「ヒバリの考えている方法しかないんだろ? だったら、それをやるしかないよ」
「……でもムク。ダメだったら、あなたはまた元に――」
「この状況で失敗を考えている暇はない!!」
顔を真正面に向け、腹からしっかりヒバリを叱責する。
その目と声に迷いはない。どんなことでもやりかねない、1週間見てきたムクがそこにはいた。
それに思わずまたときめくのは、いかんせん惚れた弱みか。
「ヒバリさん、また顔が……」
「えっ!? いや、な、何でもないよぉ!!」
もう黒田にはばれてしまっているが、何とかして誤魔化す。
「ゲフンッ! えぇっと、じゃあムク、それでいいのね?」
「何で咳払いしたのかは分からないけど」
どうやらヒバリの表情に注視していなかったのか、顔のゆるみには気づかなかったようである。だが、
「ここまで来たら今さらだね」
ムクの決心は固い。揺らぐことはない様だ。
(そうだね。これぐらいの覚悟を持って、今までムクは戦っていたんだもんね)
ヒバリは表情を引き締めて、その決意を受け取る。
「じゃあ、作戦を言うね」
そして2人に自分の考えた構想を伝えた。
その構想に黒田は驚き、ムクは厳しい表情をしたが、互いにこれを同意する。
山の端に太陽が沈みつつある。時間が押し迫っているなか、3人は急いで目的地へと向かうのであった。
その頃……。
「おい、どういうことだ!!」
憤りに満ちた声が白を基調とした、この世界でも大きい部類に入る建物の中から聞こえてくる。それこそが、治安統括局の建物だ。
その治安統括局建物内のエントランスには、先ほどまでヒバリの作戦に参加させられていた夢残が集合させられていた。
更にその奥、入り口とは真反対にある階段の3段目ぐらいに、仁王立ちで立っている男の夢残がいる。
見た目は30代ぐらいだが、髪は肩まである少し癖のある白髪を持つ。細面の少し痩せた顔には丸渕眼鏡をかけ、その眼鏡の向こうから目の前にいる夢残たちを睨みつける。
風貌は165cmとそれほど高くないが、身に着けている衣服と纏う雰囲気は、明らかにそこにいる夢残の中で1番高いくらいを示していた。
それが治安統括局副局長のNo.2、ハースだ。
「連絡は取れたのか!?」
顔は遠目から分かるほど真っ赤になり、怒号は局内の隅々にまで轟くほどだ。
しかしそうなるのも無理もない。
「何故倒したという報告が20分前にはあったのに捕らえていない! しかも全員が眠っていたとはどういうことだ!?」
彼らが何故、慌てているのか?
「ですがみんな、あの時間に何があったのか覚えていませんし、バードがどこに行ったのかも分からないんですよ。気づいた時にはバードとあの少年はどこかに行ってしまっていたので……」
「誰の仕業だ? 誰がこいつらの記憶を奪ったんだ……?」
彼らも全ての夢残の能力を知っている訳ではない。大体、全員の力を把握するのは無理だ。そして、治安局にいるメンバーのほとんどは、鱗の力とは知らない。
知っている夢残は鱗の味方しかいないため、誰にも伝えられることもない。
副局長が怒りに震え焦るのは必然だ。
「とにかく、二人を探せ! バードは問い詰めろ! 少年の方はこの世界の記憶を抹消! 現生人にしてしまえ!!」
怒りのハースに周囲は戦々恐々。誰も逆らえない雰囲気に、皆の足が声の届かなくなるドアへと向かい、命令されたことを遂行しようとした。
瞬間……。
「副局長! 3人の若者がこちらへやって来ます!!」
その一言にエントランスにいた一同が騒然となる。
「何!?」
ハースが人垣の一番向こう、治安局の入口に目をやる。
ドアの隙間が徐々に広がっていき、外の赤らんだ光がエントランス内に深く入り込んでくる。
その光を遮り、人影を作る3人。
その中央にいる人物が建物中に響く声を発する。
「遅くなりすみません! コードナンバー二〇八八九、『バード』です! ただいま帰還いたしました!!」
その中央にいる人物こそ、行方知れずとなり捜索対象となりかけた張本人、バードであった。




