3.見過ごせない必然
様々なものを乗り越え互いの気持ちが分かった3人。しかし、ヒバリは不意に嫌な予感がよぎってしまう……。
(これで本当に一件落着かな……)
ヒバリは心でそっと安堵する。
この1週間は怒涛であった。ムクを見つけた時からヒバリは、どうやって捕まえるか、どう改心させるかをずっと考えていた。寝る間など無いに等しく、授業は聞くだけで手にはつかななければ、部活などを考える余裕がなかった。
そして一時は光が閉ざされる可能性もあったなか、それでも自分を信じて進んで良かったとヒバリは思う。
だが――
「あっ!!」
「どうしたヒバリ?」
ここで、ヒバリは重大なことに気が付いた。そして見る見るうちに顔が青ざめていくため、ムクと黒田は心配になってしまう。
「お、おい、大丈夫かヒバリさん?」
「すっかり忘れていた……」
「何をだ?」
「ムクのこの後の処遇……」
「しょぐう?」
ムクにはまだこの言葉が分からないらしい。
「えっ、一体何の処遇が待ってるんだ?」
が、黒田は理解したようだ。
「黒田くんが分かれば話は進めやすいね」
「なんだそりゃ……」
無視されてムクは少し落ち込むが、ヒバリは気にせずそのまま話を進める。
「ムクはこれまで、クリム界で散々好き放題やってきた」
「そんなにやってきてたのか夢久……」
「あ、あぁ、まぁ……ね」
「この点はムク、絶対に反省してね」
「そこは分かっているよ」
二人から責められて少しふてくされるムクを見て、ヒバリはちょっと可愛いと思ったりする。
「ヒバリさん、にやついてないで話の続きは?」
「えっ!? べ、別ににやついてないよ!!」
黒田に見破られるぐらいには、にやついていたようだ。
「で、でね。1週間とはいえ、流石にことを急に荒立てすぎたから、このままだとここでの記憶をなくす可能性があるのよ」
「「?」」
流石に今回ばかりは伝わらなかったようで、二人の頭上に疑問符が浮かぶのが見えた。
「要するに、夢残じゃなくなるってことよ!」
何故この言い方で分からないのか理解ができず若干苛立ってしまったため、言葉が強くなってしまった(ムク達からするといささか理不尽ではあるが)。二人がその形相と声に驚く。
はぁ、と溜息をつき、少し落ち着いた声で再び話し出す。
「前にムクには話したと思うけど、この世界は確実に現実世界と結びついていて、片っぽが死んでしまうと同じようにもう片っぽも死んでしまうのは分かるよね?」
「あぁ、それは病室で聞いた通りだ」
ムクの頷きにヒバリは少しホッとする。
「で、ここからが本題なんだけど、クリム界からムクの存在を消すと、現実世界のムクの命も消えてしまう」
「んっ!?」
そこで黒田は気付く。
「ヒバリさん、それってまさか、夢久はし、し……」
「つまり、このままだと死んじゃうっていうことね」
あまりにもあっけらかんとした表情で答えるヒバリ。しかし黒田は、事の重大さに心底恐怖を覚える。
「ヒバリさん! こんな悠長にしている場合じゃないんじゃないの!? 早く夢久をどこかへ匿わないと……」
「落ち着いて黒田くん。大丈夫だから」
「全然大丈夫じゃないだろ! だって、このままだと夢久は殺されてしまうんだろうよ!!」
「ちーがーうー!! ムクは殺されないよ!!!」
「さっきの言い方だと、夢久は完全に殺されるんだろ!!!!」
「だーかーらー、ちーがーうってー!!!!!!」
ヒバリと黒田の互いに息を大きく吐き出すかのような反論合戦。
を、眺めつつムクは少し考え、
「あっ」
さっきのヒバリの言葉に行き着く。
「ちょっとヒバリ、聞きたいことがあるんだけど……」
「何!? 今取り込み中なんだけど!!」
何故か怒られた。
「えぇ……。いや、さっきのヒバリの言葉が気になってさ。だから一旦二人とも落ち着いて」
その言葉に二人はお互いを見合い、言い合いを中断する。
「で! 何!?」
「あのさ、さっきヒバリが言ったじゃん、”記憶を消される”って。それってどういうことなのかなって思って」
たじたじになりながらも、何とか尋ねるムク。それをきょとんとして見つめていたヒバリは――
「おぉムク! そこに気づくとは流石だね!!」
一気に満面の笑みになり、両手を思いっきり上げる。一方の黒田は少々考える仕草をし、ピンときたのか少し眉を上げる。
「あぁ、そういえば……」
「そう! “殺される”とは言ってない!」
ドヤ顔で二人を指差すヒバリを見て、差された二人は呆れる。
「だけど、このままだと”記憶を消される”可能性があるんだ」
そしてヒバリはまた唐突に、神妙な顔になった。
「さっきも話した通り、この体は1つで2つの運命を持っているの。だから、うかつにクリム界の身体を死なせてしまうと、現実世界にも良くないってこと」
「ということは、殺す以外の選択肢が必要になるな」
「黒田くんも気づき始めているみたいだね!」
また若干のドヤ顔をされるが、今度は無言で見つめる二人であった。
コホンと一つ咳払いして、また話し始める。
「そう。だから殺すんじゃなくて『夢残じゃなくする』の。クリム界での人格や体格を変換させて、全くの別人にしてしまうんだ」
その言葉を耳にした二人は、唖然としてしまった。
「えっ……。それってつまり」
「ただの……、り、『現生人』になってしまうっていうことか……?」
ムクの言葉を繋いだ黒田は、その言葉の持つ意味を理解し、口にまずいものが広がる感じがした。




