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2.互いが架橋

 思考が戻った二人を見て、ヒバリは話し出す。


「もう! 顔を合わせた途端にこれって……。どんだけ根深いのよ!」


 両手を腰に当て、ふんすと大きな息を吐き、呆れた表情でムクと黒田を見下ろすヒバリ。


「黒田君、カッとなるのも分かるけど、まずは私との約束をしっかり完遂させて頂戴」


「なっ、あ、謝ったじゃん……」


「表面上でしかないから言っているの!! はい、もう一度!」


 鬼の形相で睨まれると、流石の黒田も言い返せはしなかった。仕方なく咳払いをし、もう一度しっかりムクへと向き直り、そして頭を下げる。


「夢久、本当にごめん。6年もお前のことをいじめてしまって……。本当は心配で、昔のお前に戻って欲しくて、それでやっていたことなんだ……」


 一つ一つの言葉をゆっくりはっきり紡ぎ出す黒田。それを厳しい表情で見つつも、どこか気まずそうに……、いや、どちらかというと気恥ずかしそうに辺りに視線を彷徨わせるムクであった。


「さ、さっきも言った通り、俺はお前の今までの行動を許すことをできない。だけど……」


 一旦言葉を切ったムクは、言葉を言うことに苦慮しているようで、中々二の句が継げずにいた。だが、目を命一杯瞑り、再び開いてから話を続ける。


「だけど、あの時の俺を助けようとしてくれたっていうところ、凄く、嬉しかった……。俺の方こそ本当にごめん。文和のやさしさを捨ててしまってさ……」


 そうしてムクもまた黒田に対してしっかりと腰を折り、頭を下げた。


「はぁ、全く。何でここまでこじれたんだろうな……」


 先に頭を上げた黒田が溜息混じりに、呆れたように話し出した。


「互いに変な方向に人を思いやったせいで、まさか、こんなにも大きな問題になるとは思わなかった」


 黒田は長い時を使ってしまった。自分の行いを自重してしまう程に長く、黒田はムクをいじめていたのだ。


「分かっていたはずなのにな。夢久をいじめても何も変わらない。最後には報いを受けることも知っていた。なのにお前への攻撃をやめなかったのは、たぶん……」


 ここにきて少し言い澱んだ。


「こっちのことを見てもらいたかったから?」


 横からヒバリが水を差す。


「ヒバリ……、お前余計なちょっかいかけるなよぉ」


「えっ? でも、そういうことじゃないの?」


 悪気のない顔で自分の意見を貫くヒバリに、ムクは少し呆れた。


「あのなぁ、そんな訳ないだろ。それじゃまるでかまってくれって言ってるようなもんじゃないか。なぁ、黒田違う……」


 そこでムクは気付く。黒田がしゃがみ込んで唸っていたからだ。


「ま、まさか黒田。ヒバリの言った事は当たり……だったのか?」


 やや不審な顔をして尋ねる。しかし黒田は顔を上げようとはしない。寧ろしゃがんだ膝の中に顔を埋める始末である。

 そしてよく見ると、耳は真っ赤であった。


「……ヒバリさぁ、もうちょっと言葉に気を付けてしゃべったらいいと思うぞ」


「えっ、何で? 正解だったんでしょ??」


「要するに、君がしゃべるべき時じゃなかったんだよ……」


「だってしょうがないじゃん。言えなかったら私が言ってあげるしかないんだから!」


 そして堂々と胸を張る。まるで自分のお手柄のようにしゃべるヒバリを見て、ムクはまぁそうだなぁ……、と心で思いつつ、それを口にはしなかった。


「そんなことより、互いの気持ちは分かったでしょ!」


 自分の行いは棚に上げ、ヒバリは二人の間に立ち大きな声で呼びかける。


「じゃあ最後は……」


 何故か少し溜める。


「握手で仲直りしてください!!」


「「…………」」


 唐突に突き付けられた二人へのミッション。一瞬ムクと黒田は沈黙してしまった。

 が、それもほんの1秒ぐらいだ。


「ごめんな黒田。お前の気持ちを知らずに、勝手に突き放してしまって」


 そう言ってムクは右手を差し出す。蹲っていた黒田も、少し顔を上げてからゆっくりと立ち上がる。


「俺の方こそ本当にごめん。流石にあれはやり過ぎていた。これからは改心する。それから……」


 一旦間を置いて黒田は恥ずかしそうに、だがしっかりとその言葉を紡ぐ。


「また、お前と友達になりたいんだ。良い……かな?」


 そう言って黒田も右手を差し出す。


「も、もちろんだ! また、よろしくな!!」


 その言葉にムクは少し照れつつも解答し、黒田の右手を強く握った。


 様子を見ていたヒバリは、二人の素早い行動に驚く。


「あっ、あれ? こんなにあっさりいくものなの……?」


「いやヒバリ、今もう俺らの間にそういった壁はないんだから当たり前だろ」


 思わず漏れた発言に、ムクがさも当然のように返答する。

 3人の間を、昼の温かさを残した生ぬるい風が吹き抜けた。

 そんな中恐る恐る黒田が訪ねる。


「……まさかヒバリさん、俺たちが躊躇っているところを、自分が無理やり握手させるところを想像していたとか……?」


 その言葉にヒバリの顔が引きつり、拳を握りしめ、顔をゆっくりと……。


「…………………(コクンッ)」


 となった。

 ヒバリの頷きに二人は顔を見合わせフフッと苦笑する。


「まぁ、巻き込むの好きなヒバリらしいな」


「そうだな、ヒバリさんらしい」


「もう何よ! 二人して馬鹿にして!!」


 ヒバリは顔を真っ赤にし、両手を上げて二人に怒る。プンプンという擬音が良く似合いそうだ。


「まぁまぁ、ヒバリさん落ち着いて。それにもう一つやらなきゃいけないことがあるだろ?」


「「?」」


 黒田はそういうとヒバリとムクの右腕を掴んで……。


「敵同士だったんだろ? だからこっちも、仲直りの握手な」


 突然の発言と行動に二人は戸惑った。


「えっ、やっ、その……」


「何だよ、人にはさせといて自分はできない、ってのは無しだぜ」


 黒田が止めの一言を放つ。ヒバリとムクは渋々応じ、そして握手を交わした。


「ムク、ごめんね。今までひどいことして」


「ううん、こっちこそごめんな。我儘してしまって」


 見つめ合い微笑む顔は両方とも柔らかかった。

 6年で変わってしまったものもある。だが、6年では変わらなかったものもある。それを互いに力強く手で結び、その手のぬくもりから変わらなかった友情ものを確認していた。


「これで、正真正銘一件落着だな」


「そうね。ムクも黒田くんも、本当に長い間いがみ合っていたね」


「ヒバリはいらんことを言うんじゃない……」


 3人がそれぞれ思うことを言い合う。

 しかしそこに互いの嫌悪はない。

 それは、3人がクリム界で築くことができた関係だからこそ織りなせることだった。

 長かったわだかまりも、これにてすべて流れていきましたとさ……。

 しかし、ヒバリさんは空気が読めませんね……。

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