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1.連れ去る先の希望

 大胆に連れ去るヒバリの行き先は……?

 一方というか、その時の二人はというと……。


「おいヒバリ! 一体どこへ連れて行くんだよ!!」


 ヒバリの右肩に抱えられたムクは、道中とにかく文句ばかり言っていた。それと同時に女の子に担がれていることが恥ずかしくて、下ろして欲しさから叫んでもいる。

 あまりにも騒ぐため、いい加減ヒバリも言い返す。


「ああもう、静かにしてムク! あと、ヒバリ呼びは禁止!! バードって呼んで!!!」


「そっちこそうるせぇ! 何だよバードって!! 気に入ってんのか!?」


「違うわよ!! 本名ばれになっちゃうから、こっちでの名で呼んでって言っているだけ!!!」


「じゃあバード! 俺を降ろしてくれ!!」


「それは断る!!!!」


「何だよそりゃ!!」


 そんな言い合いをしながらも、ヒバリは目的地へとひた走った。


(急がないと時間がない……)


 ヒバリが焦るのも当然だ。


(もう4時を回っている……。私も正直、いつまで意識が持つか分からない)


 地球の時間で既に6時。正直、いつ自分の体とムクの体が起き出してもおかしくない。


 それに今日はLDMを限界まで使っている。これがヒバリにとって最も懸念している要因だった。


(それに、もしかしたら彼は既に……)


 一瞬よぎる不安を、かぶりを振って頭から追い出し、ヒバリはしっかり前を見据えて一足一足に力を込めて蹴る。


(迷っていたら、それこそ着くものも着かない! 大丈夫、自分の体力とLDMはまだ残っているんだから!)


 必死に自分を鼓舞し、信じて、何とか時間内に間に合わせる。ヒバリはそれだけを頼りに日の傾きだした道を駆けていった。




(い、いない……?)


 到着した場所は戦った場所とは違う広場。その場所にヒバリは担いでいたムクを降ろし、自分も背筋を真っ直ぐにして見渡す。


「ヒバ……、バード。ここはもしかして……?」


 しかし、見渡してムクはこの場所がどこか分かった。

 いやそもそも、分からないはずがない。

 何せここは……。


「何で、黒田と会った場所なんかに……」


 1週間前に神代こと黒田文和と出会った場所だ。だが、何故ここに連れてこられたのか、ムクには疑問だった。


「会って欲しい人物がいたんだけど……。どこ行ったのかなぁ?」


 ヒバリは不安そうに辺りを見渡す。


(もしかして、時間切れだった……?)


「ん? あそこにいるのは誰だ?」


「えっ?」


 と思っていると、ムクが木の陰に誰かを見つけた。ムクの方向へとヒバリも目を向けると……。


「あっ! いた!!」


「うっ……!」


 その裏からこそこそと出てきたのは……。

 ムクの天敵である神代――黒田であった。


「なんで、神代が……?」


 思わぬ人物に頭が追い付かない。そもそも、この世界での黒田は神代であり、黒田の意識はないのだから、戸惑うのも無理はないだろう。


「また神代かよ。お前の口からもその名前が出るとか、マジかよ……」


「はっ?」


「改めて名乗ろうか」


 そう言って親指を自分に差し向ける。


「俺は黒田文和。お前をいじめていた最低な野郎だよ」


「……はっ? どういうことだ?」


 ムクは困惑しながらも、確認のためにちらりとヒバリを見やる。目が合うとヒバリはゆっくりと話し始めた。


「端的に言ってしまうと、夢残レフターになったの。何でか分からないけど、もしかしたら、ムクが倒してしまったのが原因の一つかもね」


「なっ!? そんな馬鹿な話が……」


「現にこうなっているんだけど?」


「そ、それは……」


 ヒバリの一言はムクを黙らせるのに効果てきめんであった。

 三人の間に沈黙が落ち、互いにかける言葉を見つけられなくなる。

 それを見かねたのは……。


「夢久、本当にごめん!!」


 勢いよく五体投地を果たした黒田だった。


「あの時、お前の言ったこと信じてやれないで、お前に対してひどい事ばかりして……」


 最後は少し涙声になる。表情は良く見えないが、歯を食いしばっているのだろう。


「い、今更なんだよ……。お前のやってきたことは、許されるようなことじゃねぇぞ……」


 しかしそれで過去が清算される訳ではない。寧ろ、その行為はムクの神経を逆なでしてしまった。


「お前のせいで俺はクラスどころか学校中でもひどい噂と仕打ちを受けて、それで自殺も考えるほどに追い詰められていたんだぞ! それを今更いけしゃあしゃあと……。どの口が言ってんだよ!!!」


「悪いとは思っている。あの時の俺は、お前の気持ちを汲めなかったガキだったからな」


 言い訳しない黒田の誠実な謝罪。それは本当に、心の底から申し訳ないと思っての行動だ。しかし――。


「お前の謝罪なんか聞きたくねぇよ!! 俺の苦しみがお前に分かるか? 誰とも会話すらできないあの状況がお前に分かるか!?」


 頭に血が上ってしまったムクにはなかなか届かない。


「お前に親友から裏切られた悲しみ、苦しみが分かるのか!!」


 そしてムクは、言ってはならぬ一言を黒田にぶつけてしまった。


「……分かるよ……!」


 耳に届いた黒田の声音は、暗く、低く、変化した。


「お前の苦しみ、それだけは分かるよ……。俺だって、お前に裏切られたようなもんだからな……!!」


「はぁっ? 黒田お前何言って……」


「折角差し伸べた手を払われたら、誰だって裏切られたって思うだろうがぁ!!!!」


 投地していた体を引き起こし、真っ直ぐに目を合わせ、叫ぶように反論した。


「俺の心配はどうなるんだよ!? お前が段々孤立していく状況を、俺は見ていられなかったんだよ! それなのにお前は俺の助けを拒んで『ほっとけよ』って言ったんだぞ!!」


 その言葉にムクはハッとした。それから表情が曇り、声が小さくなる。


「あ、あれはお前まで巻き込まれることはないと思って……」


「今は分かってんだよ! お前が迷惑をかけないように、俺と距離を取るために掛けた言葉だって!」


 ムクは怒りの形相をした黒田にたじろぐ。今まで責めていたのが嘘の様に……。

 黒田はもう、自分の気持ちを抑えきれなくなっていた。


「それでも助けたいと思ったんだよ、お前を! だけど、お前は俺の手を払ったんだ! それが裏切りと思わない訳ないだろ!! 大事な親友が悩んでいるのに、助けたいと思って手を差し伸べたのに、それを無下に扱われたらよ!!!」


 初めてムクを目の前に出した気持ち。黒田にとってそれほどの存在だったことに、ムクはここで初めて気づかされた。


(も、もしかして、俺は何か勘違いをしていたんじゃ……)


 ただ、ここまで来て許すのも癪に触り、このまま怒り任せに黒田を殴ろうかと血迷っていた。

 その時――。

 二人の怒りに空回りした思考回路を、一瞬にして通常状態に戻すほどの強い風が吹きつけた。


「二人とも落ち着いて!!」


 その風の主はヒバリであった。

 あと少しでこの章は終わると思いますが、しかし、長くなってしまった……。

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