7.思わぬ行動
久々にあの方の登場となりますね。
分かられない方は第3章あたりを読み返してください!(すみません、宣伝です……)
静けさが支配する。
昼間なのに夜が訪れたような静寂。
固唾すら聞こえてこない。
それが数秒続いた。
ようやく出てきた音は、藪に放り込まれたムクが這い出てくる音だけだった。
「くっ、くそぉ……。もう少しだったのに……」
憎まれ口と共に膝と両手をついた状態は、ムクがそれ以上動けないことを証明させる。
勝者の杯を手にしたのは、ヒバリだ。
だが周りにいた夢残たちは喜ぶことはしなかった。
彼らはヒバリのみならず、ムクの圧倒的な強さに言葉が出てこなくなっていたからだ。
少し経ってようやくしゃべりだすも、出てくる言葉は勝ったことよりもムクの話題であった。
――あいつ、あんなに強かったのか?
――俺らじゃかなわない訳だ……。
――これで仲間になるのか?
――いや、あれだけのことをしたんだから、記憶抹消だろうよ。
そう近くの人と話していると、ヒバリがムクのそばに行く。
再び周囲はその行動に注目した。
「ムク、私の勝ちでいい?」
まずヒバリは確認から入る。
「あぁ……、不本意だが君の勝ちだよ」
ムクは首を項垂れ、苦々しい声で答えた。相当悔しいのだろう。ムクは顔を上げようとしない。
「それじゃあ、私の言うことを聞いてくれるね?」
次の確認を取ると、ムクは無言で頷いた。
「じゃあ……」
ヒバリは右手を差し伸べる。その行動に周囲は少しの期待を持った。
と――
「ごめんね、ちょっと恥ずかしいかもだけど!」
「はっ? って、おい待てぇ……!!」
あまりに素早い行動に、その場にいた夢残たちは唖然としてしまった。
ヒバリは伸ばした手でムクを肩に担ぎ、そのままどこかへと連れ去ったのだ。
「「「えぇ……」」」
全員からその言葉が漏れる。
ちょっとした間抜けな空気が流れ、それぞれが己の意識に戻ろうとした瞬間。
全員がLDMを感じた。
そして次の瞬間、その戦いを見ていた全員が意識をなくしたように次々と倒れていった。
「ふぅ……。全くLDMの消費が本当に半端じゃなんだから」
ただ一人、竜の体を持った者を除いて。
「私の個雑技は本当に使い勝手が悪いよね……。一部を完全に消し去るなんて、使う場面が限られて仕方ないんだけど」
クリム界で竜の姿をしている少女:鱗の力はその時に起こった事象の記憶を一部消去するものだ。当人はこれを「流れ去る記憶」と呼んでいる。
今回は「ムクとヒバリの戦い」に関する記憶を消去するということでヒバリから依頼され、ヒバリとムクの戦いに皆が夢中になっているさなか、ずっと力を溜め続け、二人がこの場所からいなくなった瞬間に力を解放し、そこにいた夢残たちから「ムクとヒバリが戦った」という記憶を消したのだ。
そして、非常に燃費が悪いため、その日1日動けなくなるのはヒバリの力と一緒であった。
(全く、バードは何を考えているのやら……。あんな不謹慎な野郎、さっさとこの世界から追放してしまえばいいのに、わざわざ記憶を消すなんて……)
思わず溜息をついてしまうが、
「まぁでも、あの子が信用しているなら、悪い子じゃないんでしょうね」
だからといってヒバリと組んで3年の身だ。鱗にとっては大事なパートナーであり、信頼できる人物の一人となっている。
だから、ムクのことも信じてみようと鱗は思ったのだ。
鱗は事の顛末を良い方に捉えながら、今回の任を終えるのであった。




