5.募る想いのぶつける先
「ムク本気なの? 私だってこの6年間、何もしていない訳じゃなんだよ。それなりに戦いはこなしてきたし、あなたに勝つ自信だってあるんだよ?」
「そんなことはどうでもいいし、もしできなかったら君に止める手段はなくなるはずだ。何度だって返り討ちに合わせられると分かるからね。だから経験値は関係ないよ」
その言葉にヒバリは思わず息が詰まる。しかしそれを起こさせないためにも、ヒバリは気を引き締めてまたムクを見る。
「じゃあ、私が勝ったらこっちの言うことを聞いて」
ヒバリはここで一呼吸を置いた。
「もし約束できなかったら、決闘は無しで、今周囲にいる仲間たちにあなたを……、こ、殺してでもいいから捕まえてと指示を出す」
ヒバリの言葉にムクは頷く。
「いいぜ。それなら、俺だって条件がある」
一瞬の間を置き、それからゆっくりとはっきりと、ムクは発する。
「俺が勝ったら二度と俺の計画の邪魔をするな。良いな?」
ムクの言葉にヒバリは顔をしかめて頷く。
(仕方ない。対等条件ならこれぐらいだろうからね……)
「分かった……。その代わり異論は認めないからね」
「それぐらいの覚悟を持って戦うんだ。当然だろ?」
「そうだね……。じゃあ、3秒間をおいてから、それからは手加減なしね」
「了解だ」
それから互いに目を瞑り、3秒数える。
1……、
2……、
3……、
そして、互いの目線が交錯した瞬間。
「はぁっ!」
「ふんっ!」
互いにLDMのこもった蹴りを繰り出した。
途端、周囲に熱気を伴った暴風が吹き荒ぶ。その蹴りには互いに殺意があり、この決闘が本気であることが窺えた。
「流石に、一発じゃ仕留めさせてくれないよね!」
「そらそうだ! そう簡単にほいほいとやられてたまるかよ!」
一旦二人は距離を取り、相手の様子を観察し、次にどうするかを考える。
この1週間とは違う、互いが互いを思いやらない戦い。
しかし、互いに思うところがあって傷つけあう戦い。
だからこそ、負けることができない状況なのだ。
一瞬の静寂が二人の間に流れる。
(先に仕掛けてみよう!)
「風の加護よ! 我が拳から唸る暴風を繰り出せ!」
ヒバリの拳から風の渦が一直線にムクへ向かって飛んでいく。
「ヒバリの得意攻撃かな? 確かにそれはいいけど、芸がなさすぎだな!!」
それをムクは直前まで引き付け、当たると思われた瞬間、左の方向へと飛ぶ。風は直線状の地面を少しえぐり消えただけとなった。
(もうっ! 動体視力良すぎ!)
ヒバリは少しだけ嫉妬してしまうが、そんなことを考えている暇はない。
「今度はこっちから行くぞ!」
強気の声が飛んできたからだ。
「えぇっと……、ひ、火の加護よ! 我の体を包み……た、給え!」
(えっ!?)
ムクが詠唱をしたことにヒバリは驚く。そして詠唱は成功し、ムクの周りを赤い炎が包む。
「おぉっ!! 成功した!!!」
そして飛び跳ねるようにしてこちらへと迫り、拳を繰り出してきた。
(ちょっと! いつの間に詠唱を……)
「余り驚いていると、ボコボコにするぞ!!」
「わ、分かってるよ!!」
慌てて意識をムクの攻撃に戻したヒバリは、寸でのところでムクの攻撃をいなす。炎を纏ったその攻撃を、無詠唱の風の加護で体を包みながら打ち終わるまで躱し切った。
「まさか、詠唱を覚えているとは……、ムク、やるねぇ」
「はんっ。褒められたところで、今は嬉しくないな」
今の言葉にヒバリは少し違和感を覚えた。
「”今は”ってことは、もしかして違ったら嬉しいの?」
そう少し茶化してみると、ムクの顔が朱を帯びた。
「う、ううっ、うるさい!! そんなことないよ!!! 馬鹿っ……!」
怒りなのか、恥ずかしさなのか、はたまた両方なのか。それらを誤魔化すように一直線に飛び込んでくるムク。
(ムクの本心が少し見えたかも!)
ヒバリの心臓は戦いの高揚感と共に、ムクの心の内が分かったことで飛び跳ねる。
「あまり調子に乗るんじゃねえ! そんな余裕かましていると痛い目見るぞ! 火の加護よ! 我の望みに応え、この右腕から炎の一撃を撃て!」
(はっ、今は戦いの真っ最中だった!)
喜び跳ねた心を静め、再びムクの動きへと心と共に目を向ける。
「風の加護よ! 我の右腕に目の前にある障害を薙ぎ払う風を起こせ!」
詠唱を終え一瞬で迫ってきた炎の塊を右へ薙ぎ払う。
(危ない危ない……、集中しなきゃ……)
しかし、ヒバリはなかなか集中力が続かずに苦労している。本気では戦っているのだが、いまいち攻撃が上手く決まらない。
理由は簡単。
――話し合いで終わりたい……。できることなら、戦いたくない――
その気持ちが根底にあるからだ。無意識だが、それがヒバリの攻撃に迷いを生じさせている。
「はん! この世界でも指折りの強さを誇るバードでも、俺相手だと腰が抜けて戦えないか? 所詮、治安統括局も俺の相手ではなさそうだな!!」
突如として、ムクがヒバリを煽り始めた。
「何ですって!」
「そりゃそうも思うだろうよ!」
ムクのその言葉には怒気が混じっていた。そして目が吊り上がる。
「ヒバリ! お前もっと集中しろ!! 本気でないお前に勝ったって、俺はちっとも嬉しくねぇんだからよ!!!」
まるで願望のような声でムクはヒバリを叱責した。
「ムク……」
そして、その言葉がヒバリの戦闘スイッチをしっかりとONへと押し上げた。
(そうだ! 私はムクに戻って欲しいんだ!! こんなところで負けるわけにはいかないよね!!!)
そこにある瞳には、すでに迷いが消え去っていた。




