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夢から紡ぐ未来への系譜  作者: 馬波良 匠狼
七夢 意地の衝突
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1.ムクの悩ましい夜

 ムクは宿題などのやるべきことを終わらせて、布団へと潜り込んだ。しかし、夕方に寝たからか、はたまた様々考えることができたから、なかなか寝付けず困っているようである。

(何だか、一人色々と空回りしている気がするな……)

 小学生の頃に捨てたはず、いや巻き込まれないために切ったはずの友達を、今更心配することになろうとはムクも思っていなかった。だが、六年前に大親友だった黒田のあの姿を見て、ムクはどうしても無関心でいられない。

 そして自分のクリム界での立場。今現在は完璧に犯罪者である。ここで捕まると、最悪は夢残としては抹消され、現実ではヒバリのことを忘れ、クリム界では違う姿で生きていくことになるのだろう。

(ヒバリのことを忘れてしまうのか?)

 それが妙に引っかかり、ムクは背筋に寒気が走るのを感じて、夏だというのに布団を深くかぶった。

(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ……)

 心が、忘れてはいけない、と叫んでいた。

 何故かは分からない。だが、ヒバリを忘れると考えただけで、ヒバリに会えなくなると考えただけで、ムクは自分を保てなくなってしまう気がした。

 もしかしたら、クリム界で存在が消されてもヒバリは会いに来てくれるかもしれない。だけど、その時にヒバリのことを覚えていない自分を想像するだけで、胸が締め付けられた。

 ムクはいよいよこの状況に追い込まれ、どうするべきか更に分からなくなっていた。

(散々悩んでこの結果とは……。情けないな)

 一回出した答えを変えるつもりはない。しかし、その先に未来があるのかどうか、ムクはクリム界から戻ってそれをずっと考えていた。

(仮にヒバリに勝ったとしても、自分は追われる身に間違いない。ヒバリが手を引くだけで、他の連中には関係ないしな)

 理解しているからこそ、ムクは悩んでいるのだ。

「はぁ、眠れん」

 そうして布団をはぎ、二階にある自身の部屋を出る。夏に近づいてはいるが夜は涼しく、まだ長めの服が手放せない時季だ。

 階下へと降りてリビングに入り、体を温めるために、心を落ち着けるために、ホット牛乳を作って飲もうと冷蔵庫を開けた。その時、

「兄貴、何してんの?」

 後ろから声をかけられ、ムクは驚き振り返る。

「なんだ、夢喜(ゆめき)か」

 そこにいたのはムクの弟である“名守夢喜 ”。

 ムクより三つも年下だが、少し小生意気な性格で、兄であるムクに対しても強気に意見を言ったり、文句を言ったりする。自尊心が強いのも相まって、ムクと話すときは常にけんか腰に近い。

「もう十二時過ぎてるのに夜更かしか? 兄貴は最近、悪くなってきたなぁ。中学生デビューってやつ?」

「うるさい。お前には関係ないだろ。というよりも、どこでそんな言葉覚えてきたんだよ。それに、お前もなんで起きてんだ?」

「はん。所詮俺より弱い兄貴に教える必要あるのかよ。気の弱いお子ちゃまは早く寝るんだな」

 馬鹿にしたような目つきでムクを睨みつけてくるが、ムクも負けじと夢喜に対して視線を鋭くぶつける。その様子を見て、夢喜は驚いた。

「へぇ、兄貴がキレるなんて珍しい。いったい何があったんだか」

 物珍しいものを見たような顔つきで見つめてくる。その表情には、どこか面白いおもちゃを掘り当てたかのような無邪気な子供の心が見えた。

 かと思うと、夢喜はくるりと後ろを向いてドアへと向かう。それからムクの方を振り返って言葉をかけた。

「珍しいものが見れたからいいか。じゃあ、また明日ぁ」

 そんな気の抜けたような声を残し、夢喜はリビングを離れた。

 どっちが年下なんだよ、と心で悪態をつき、当初の目的である牛乳を自分のコップに入れ、レンジで温めると、それをもって自室に戻る。

 ドアを開けて机を見ると、そこにはさっきまで読んでいた本があった。

 その物語は異世界と関わりを持った女の子が、自らの力を振るって命を守り助けていくストーリーである。

 出てくる主人公は最初、ただのいじめられっ子で、これから先の人生に絶望していた。しかし、たまたま出会った皇女に連れ去られた異世界で、彼女は自分の中に眠っていた力に目覚めた。が、この世界も結局は弱者をいたぶるような者たちが存在し、特に事件を解決する時の関係ない第三者や被害者をも巻き添えにしている光景を目の当たりにした。それから世界を変えるために奮闘する物語だ。

 ムクはいつしかこの物語の主人公に感情移入するようになった。それは必然ともいえるだろう。何せ、同じような境遇だからだ。しかし――

 それから抜け出した主人公。

 一方で、抜け出せないままでいる自分。

 そう考えると、ムクは悔しさで下唇を強く噛み締めた。

 ムクにとってはこの状況を何とかしたいと考えているが、どうすればいいのか分からない。彼女のようなきっかけがあればいいが、自分にはそれがない――と思っているようだ。

 持ってきたホットミルクを一口すする。胸の中で固まっていた心が解けていく気がしたが、芯までは溶かしてくれないようだ。

(六年も同じ状況が続くと、永久凍土並みに固まってしまうのかもしれないな)

 そんなことを思いながら、ムクは本を読み進めた。そして、一時を過ぎるまで彼はその世界へと埋没。そのまま机に突っ伏して眠ることとなった。



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