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3.護るために

「やぁ、お嬢ちゃんたち。こんなところで何してんの?」


 容姿は現代風だが顔は様々で、左から鼻が高くつり目の金髪、牛の角を生やした角顔、銀色の剛毛を生やした狼の顔、肌が浅黒く八重歯が見える顔、そして二人に話しかけてきた緑と黄色と赤が入り混じった鱗を持つ竜の顔を持った男となっている。


「ねぇ、お二人さん。今暇してる? 良かったらお兄ちゃんたちが遊んであげようか?」

「最も俺達が遊びたいのは、そっちの女の子だけなんだけどね」


 ムクは恐怖心にすっかり呑まれてしまっていた。無理もない。ただでさえ身長が二回りほど違うのに、更に顔が人間の顔をしていないのである。蛇に睨まれた蛙とはこのことだろう。

 しかし、ヒバリはこの状況に慣れているのか想像以上に落ち着いていた。しっかりと相手の目を見つめ、こう返す。


「すみません。私達は別にあなた達と遊びたいと思っていないので」


 口から出た言葉は辛辣だった。それを聞いたムクは体をビクッと震わせ、驚きと恐怖が入り混じった表情でヒバリを見つめる。


「はぁん、生意気なお嬢ちゃんだな。まっ、そういうところも素敵だと思うけどね」


 にたっと笑ったのは狼だった。その顔には邪な考えしか浮かんでいない。その顔を見てムクはますます恐怖を募らせるが、ヒバリはむしろ強情になる。


「こんなところで油売ってていいんですか? 遊んでいる暇があったら、さっさと両親の元に帰って孝行したらどうなんです?」


(ヒバリ……、どうしてこんなに強気なの……)


 ムクはヒバリの言動に、もう頭を抱えるしかなかった(ただし、言葉の意味は分かっていない様子)。ヒバリはそんなムクを一瞥したのみで、しっかりと相手を睨みつける。

 さすがに頭に来たのか、五人が少し顔をしかめた。すると、金髪の男が一歩近づきヒバリを脅す。


「お嬢さん。君は年功序列という言葉を知らないのかな? 君がけんかを売っているのは、君よりもちょ~~年上のお兄さんなんだけど」


 近づいたためか少しヒバリが後ろに体を(精神的にも)引く。


「だからどうしたって言うんですか。これは立派な声かけで脅し、犯罪じゃないですか! いいからどっか言って下さい……。どっかいって!!」


 だが生来の負けん気が(まさ)ったか、言葉と共に目も逸らさず相手を見据えている。ここら辺は彼女の精神を評価するべきだろう。ただし、行動を評価するかは別であるが。


「いい加減にしろよ……。君は有無を言わず、僕らと遊ぶしかないんだからな!」


「きゃあっ!!」


 そう言って角持ちがヒバリの右手を掴んだ。ヒバリはすぐに離そうとするが、左手も狼にきっちり掴まれてしまい、そのまま無理矢理立たされる。


「このロリコン野郎共! あんた達なんか、お父さんが来れば怖くないのよ!!」


 ヒバリが精一杯の強がりを見せる。しかし浅黒の男がその言葉を嘲るがごとく、薄ら寒い笑みを浮かべこう放つ。


「来・れ・ば、の話だろう? 来なければ意味ないじゃ~~~~ん!」


 ぎゃはははははは、と他の連中も一緒になって笑い出した。確かにヒバリの身体的な力では彼らの腕を離れることはない。ただ秘策もないことはないのだが。


(力を使うとお父さんに色々と迷惑が掛かっちゃう……)


 ヒバリは葛藤をし続けた。その間にも彼女は連れ去られまいと必死に抵抗しているが、抜け出せるチャンスは訪れなかった。


 徐々にベンチから離れていく。このまま連れて行かれるかにみえた。


「そ、その子の手を離せえええええええええ!!」


 その時、街中に声がこだまする。

 通行人達が声のした方向に目をやると、そこには勢いよく立ち上がったムクがいた。連れ去ろうとしていた五人も振り返ってムクを凝視する。


「その子、とっても嫌がっているじゃないか! そんな子を無理矢理連れて行って、何が面白いんだよ! い、いいから、手を離せよ!!」


 恐怖心を押し殺せるはずもなく、声は体と共に震え、絞り出すように発していたが、その瞳は真っ直ぐ五人組を見つめ、目には怒りをしっかりと湛えていた。ヒバリもこの状況に唖然としている。


「はんっ、そんなビクついた体で俺らがビビると思ったのか? 甘いんだよ僕! 君の愛しいこの()は、もう俺達のモノなんだからよ!」


 狼顔がそう言ってムクの顔面へと拳を飛ばす。


(殴られるのはイヤだ!)


 殴られたくない一心でムクは何とか拳をかわすが、勢い余って倒れてしまう。


「ちっ、あの娘は後回しだ! このガキをさっさとやっちまおうぜ!」


 それをチャンスといわんばかりに、すかさず他の奴らも一斉に攻撃を始める。ムクは囲まれる前にその場から這って逃げ出し、後退しながら間一髪のところで攻撃を避けている。


 それを見ていたヒバリは不思議に感じていた。


(普通は怖くて逃げだすのに……)


 恐怖した人間は逃げるか、一矢報いるために戦うかするのがセオリーというものであろう。しかしムクは無意識のうちに、攻撃を受けたくない気持ちとヒバリを助けたい気持ちがリンクし、「攻撃を避ける」という一手を選んでいた。


 無論であるがムクの意識下にそんな考えは一切ない。腰が引けて逃げようにも逃げられず、かといって圧倒的な力量差の前に攻撃をしようなどとは本人も思っていない。ただひたすらに、避けることだけで精一杯なだけなのである。


(あんなに怖がっていたはず……。それなのに私なんかのために)


 しかしヒバリから見れば結果的に、五人が自分の元から離れている。そして、それを引き受けているのが紛れもなくムクなのだ。そう考えても不思議ではないことはここであげておこう。

 ただし、ヒバリも何も考えずに見ているわけではない。


(何とかしないと、このままじゃいずれムクはやられる)


 身体を張って自分を守ってくれている――と感じている――ムクに、ヒバリは意を決した。


(この後どうなろうとどうでもいい。目の前の友達を助けられなくて、何が夢残よ!!)


 自らの力を行使することを選択し、手の方に意識を集中させ、ヒバリは詠唱を始めた。


「風の加護よ、汝の友である我にその恩恵を授け……」


 しかしそれは形を成す前に崩れた。目の前で急にチンピラ全員が意識を失ったように倒れたからである。


 ムクも突然のことに唖然としている。ヒバリも一瞬戸惑いを見せたが、慌てて意識を自分の元に戻し、目の前で起こった現象を考察する。そして気づいた。


(この力って、確か……)


「大丈夫か!?」


 野太い声で不意に呼びかけられた二人が、一斉に声のした方向へと顔を向ける。遠くからしか見えていないためぼうっと輪郭のみが分かる程度だ。しかし、ヒバリにはその声を聞いただけで誰だか分かった。


「お、お父さん」


「お父さん?」


 人影が段々と近づいてくる。近づくにつれて、ムクは頭の上に疑問符が並ぶのを感じ、思わず疑問をヒバリにぶつけた。


「ねぇ、あれって狐じゃない?」


 明らかに人間の等身をした狐顔なのである。

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