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夢から紡ぐ未来への系譜  作者: 馬波良 匠狼
五夢 護りたいモノ
36/66

6.叶った願いと失望の中で

 公園へ向かう道中、ヒバリはウキウキした気持ちで歩いていた。理由はというと、

(やっと本物のムクに出会えるんだ……。長かったぁ)

 とのことだ。

 念願だった相手なだけあって、ヒバリの心の浮つき度合いが半端ではない。現に、顔はこれ以上ないほどに綻んでおり、ましてや止める者もおらず、誰の手に負えない状況である。電車の中でも浮いていたが、本人は全く気にしていなかったようである。

 かといって、彼女もただ浮つくだけの少女ではない。クリム界では一端の夢残である。自分に課された――課したといった方が合っているかもしれないが――使命を忘れるほど子供でもない……はずだ。

 そのうちに目的の公園へと辿り着く。

(風が気持ちいい……。夏にしては涼しいし、眺めもいいから待ち合わせるにはいいね)

 ヒバリはそう感じた。

 開けている視界に絶景の海のパノラマと海から吹く少し強めの風が心地よく、子供たちの格好の遊び場であり、恋人たちの憩いの場でもある。

 小さい頃に来たときは遊ぶのに夢中で気づかなかったが、この場所が好まれる理由を何となくヒバリは理解した。

 そして、ヒバリは公園の中央にある神社を目指す。この地域の人にとってこの公園の待ち合わせはここで、ムクもやって来るだろうと確信してのことだ。

(う~ん、二十分も早く着いちゃった。まぁ、いっか)

 時計を確認するとまだ午前十時四十分。予想以上に早足になったのだろう、ヒバリは予定よりも十分早く着いてしまった。しかし、遅く着くよりは、とも思い、このまま木の下で待つことにした。

 五分が経過。

 十分が経過。

(……。やっぱり、あれは嘘だったのかなぁ……)

 待ち合わせの時間には程遠いが、ヒバリは不安に駆られた。

 自身が持つ力は、色が見えるだけで名前までは見ることができない。そのため、クリム界では名前が分かっていても現実では名前が分からず、動向を見守ることができずにいた。立証は今回が初めてになる。そういう意味でも貴重な機会だと、ヒバリは考えていた。

(しまった。別に、ムクを実験体として利用しようとしているわけじゃないのに……)

 そんな考えに至ってしまい、ヒバリは思わず顔をしかめる。だが試してみたいと思う気持ちもどこかにあるため、何となくムクに心の中で謝罪した。

 そんなことを考えていると、約束の時間まで五分と迫っていた。しかし、当のムク本人が来ない。いよいよもってこの力が使えないんじゃないか、と思ってしまうヒバリは、大きく息を吸い込み、

「「はぁ……」」

 と巨木の裏にいる誰かと一緒に溜息をついた。

(えっ!?)

 それに驚き裏側へ回ると、同じように反応したのかそこにいた彼もまたこちらへ回ろうとしていた。

 その顔はクリム界と何も変わっていない。少しだけ顔が丸く、二重瞼の目は細く吊り上がり、鼻は大きく口も大きい。髪は薄い茶髪でストレートの耳の穴までしかないショート。身長もヒバリよりほんの少し高い程度で、体つきは少年らしく華奢な印象を受けた。

「君が、ヒバリかい?」

「じゃあ、あなたがムク?」

 ヒバリは自分の力を確証したのと同時に、目の前の少年――ムクに会えた喜びで心がいっぱいとなった。


 話は前章の終わりに戻る。

 出会った当初は浮かれていたヒバリも、病室に着く頃にはだいぶ落ち着いていた。しかし、ムクを追い詰めるうちに昔に戻って欲しいという気持ちが沸き起こり、ムクの表情が彼女の心にある愛おしさという気持ちを激しく揺さぶる。

 自分の情動的な行動にヒバリは戸惑った。

 だが彼女は奥底にある気持ちを、自身に誤魔化すことができなくなった。

 ムクはそれを受け止めきれなかったのか、逃げるようにして病室を飛び出してしまう。ヒバリは自身の早まった行動に頭を抱えてしまった。

「雲雀ちゃん、大丈夫!?」

 すると、病室の外から文野が心配そうな顔をして声をかけてくる。

 しかし、ヒバリは動かない。

 正確に言うと、言葉が届いておらず動くことができない。

 その様子に文野は困惑し、思わず駆け寄った。

「雲雀ちゃん、しっかりして」

 少し肩を揺するとヒバリの目の焦点が合う。ただ、その目はまだどこか遠くを見ていた。

「どうしたの? 夢久君がいきなり飛び出していったけど……」

 その一言にヒバリの目から再び涙が溢れ出す。文野さん……、と呟くと、

「どうしよう……。ムクに……、ムクにあんなこと言っちゃった……」

 ヒバリは自分の顔を両手で隠すと、そのまま地面に伏し、

「き、嫌われたかもしれない…………」

 そう言葉を吐き出したと同時にうわああと咽び泣き、涙が止まらなくなってしまった。

 引き攣るように泣くヒバリの背を文野は優しく撫でる。

「ごめんね、あなたに辛いことをさせちゃって……。本当は私が連れてこなければならなかったのに」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

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