2.悔しさをにじませて
ヒバリは後ろから監視する形で彼らを案内させた。更に坊主頭へお見舞いの品を買って来させ、いよいよ目的の場所へと到着。
連れて来られた場所は桜村市で一番大きい病院であった。そこでヒバリは彼らの案内を受け、似顔絵の主――神代の病室へと案内される。そこで初めてヒバリは、神代の現実の名を知った。
(へぇ、黒田文和、って名前なんだ)
着いてすぐ、ヒバリは少しの謝礼(一人1万円)を案内してくれた三人に渡し、
「ここまでありがとう。少しだけど、まぁお礼だと思って受け取って」
そう言って三人とはここで別れることにした。チンピラ達はそれを恐る恐る受け取り、逃げるようにそそくさとその場から立ち去った。
三人がいなくなってからヒバリは深呼吸をし、病室の戸を開ける。
すると、病床の横にいる女性に気が付いた。
年の程は二十歳になるかならないか位。黒く艶のある長い髪を後ろで一纏めにして、肩甲骨より下まで垂らしていた。顔はほんの少しだが焼けており、屋外での仕事を生業にしていると一目で見て分かった。目は大きかったが眦は少し上がり、眼つきがいいとは言えない。しかし、鋭い眼光は見受けられず、寧ろ悲しげな気持ちを湛えていた。鼻は小さく、口もそれほど大きくはないものの、顔立ちは整っていた。
美人ではないが、かわいい部類に入るだろうと、ヒバリは彼女の印象をそう総括した。
「初めまして。私は隣町の諫元市に住んでいる現野雲雀と申します」
自己紹介をしつつヒバリが頭を下げる。
座っていた女性も立ち上がり、ヒバリが顔を上げてから腰を折った。
「私は黒田文和の姉の文野と申します」
ヒバリはやっぱりと思った。母にしては若すぎる彼女は恐らく姉か、最悪彼女だろうという予測であったため、当たって少しほっとする。
「ですが、一体どのような用事なのでしょう? 初対面のあなたが、文和を知っていたというのが不思議なのですが……」
「私は以前にですねこの町に来まして、道中迷っていたところを黒田くんから助けていただいたことがあります。その時の恩返しにと思ってやってきたのですが、彼の友達から入院していると聞いて、今回はお見舞いにやってまいりました」
絶対に聞かれる質問であるため、ヒバリは考えてきた――というより道中考えた――理由をすらすらと澱みなく答えた。
「そのような話を文和からは聞いてないのだけれど、分かりました。この子は普段からそういった話をしたがらないから、良い話が聞けて嬉しいです」
というか、そういうことがあったんなら言えば褒めるのに……、と病床の人物に向かって文野は話しかけた。疑われてもしょうがない作り話であるが、文野はあっさりとそれを受け入れた。表情から信用されたことが分かったため、ヒバリはほっと胸を撫で下ろす。
「私のことは雲雀と呼んでください。あと、ため語で大丈夫ですよ。それと、これはお見舞いの品です」
そう言ってヒバリは、カバンの中からリンゴが三つ入った袋を取り出した。
「わざわざごめんね。来てくれただけでもありがたいのに、こんなものまで買ってきてくれるなんて。本当にありがとう」
坊主頭に買って来させた急ごしらえの品だったものの、文野は喜んでいるようだ。
疑われることはなくなったと感じ、改めてヒバリは病床にいる黒田を観察する。
「!!」
その姿を見てヒバリは思わず目を逸らしたくなった。しかしほんの一瞬目を強く瞑り、その衝動を抑え込んだ。
「い、一体どうしたんですか……?」
その言葉を聞いた文野は、この世の絶望を見たような顔になった。
「まぁ、落ち着いてそこの椅子にかけて」
そう促されてヒバリは、はやる気持ちを抑えつつ、手近な椅子に腰を下ろした。文野は目を逸らし、数秒思案していたが、覚悟を決めたのか溜まっていたものを吐き出すかのようにして、経緯を話し始める。
「一週間くらい前の話になるけど、私が朝目を覚まして文和を呼びに行ったの。眠っている感じだったから起こそうと思って体を揺さぶってみたんだけど、反応がなくって。抓ってみたり頬を叩いたりしたんだけど、全く目を覚まさなかったの。
おかしいと思って医者に連れて行っても、原因が分からないって言われて……。一応、こうやって命を繋ぎ止めてくれたけど、いつ亡くなってもおかしくない状態だって……」
今まで我慢していたのか、文野の言葉が詰まり始めた。
「なんで……私の弟が、って思うと……やるせなくて……。前の日まで……元気に喧嘩……していたのに、なんでかな……」
嗚咽を漏らし、涙を零しながら語る文野に、ヒバリは心の中で謝罪せずにはいられなかった。
一週間前と言えば、ムクがクリム界の地に再び降り立った時だ。この時、最初にムクが出会ったのが黒田、もとい神代である。売られた喧嘩を買った神代は体力を消耗させられただけでなく、ムクの一発でその場に沈められ、意識を失ってしまった。
そしてそれ以降、神代は目を覚ましていない。黒田が目を覚まさなくなった時期とも一致している。
ヒバリは自分自身の行動に後悔した。
止めに入っていれば。
早く気付いていれば。
そうすれば、こんなことにはならなかったんじゃないかと、繰り返し自問自答していた。時すでに遅しだが、自分の怠慢がことを大きくしてしまったのではないか、と考えるヒバリの方もやるせない気持ちなっている。しかし彼女の前では、そのような気持ちを見せる訳にもいかない。ヒバリは自身の体に力を入れ、無言で話を聞くことにした。
「私達はね、小さい時に両親を亡くしたの」
少し気持ちが落ち着いてきたのか、文野は涙を拭ってまた口を開く。




