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夢から紡ぐ未来への系譜  作者: 馬波良 匠狼
四夢 その代償
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7.目にした現実

 そこに寝ていたのは、中学の同級生でありムクをいじめる中心人物、黒田文和。ただし、頬は痩せ細り、肌は見るからに青く血の気が失せ、瀕死の状態であった。辛うじて呼吸を続け点滴を受けることにより、何とか命の火を灯し続けている感じだ。

 唐突に見せられた知人の姿があまりにも痛ましすぎたのか、ムクはたじろぎ一歩後ろに下がる。だがそれを許さないヒバリは、ムクの腕をがっちりと捕まえて離そうとしない。

「ムク、何故彼がこの状況に陥っているか分かる?」

「ま、まさか、冗談だよね? だって、現実世界じゃないんだから、そんなことで意識を失う訳じゃ……」

 最後の言葉は尻すぼみとなり、ムクは二の句が継げなかった。

「言っておくけどこれは夢じゃない。夢の世界の話でもない。現に黒田くんは、あなたに殴られた日からずっと目を覚まさないんだってお姉さんが言ってた。勿論、現実世界での話じゃないよ。クリム界での話だから」

 厳しい眼差しで睨むヒバリが説明をしていく。

 現実世界とクリム界の意識や肉体は隠れた部分で共有されており、どちらか一方に何らかの問題が生じると、もう一方の身体にも何らかの影響があること。今回の場合、ムクが黒田をクリム界で意識不明の重体にさせてしまったことにより、現実世界の黒田も同様の状態か、それ以上に深刻な事態に陥っていることを話した。

 ムクも理解はしている。ただ、受け入れられないでいるだけだ。自分の起こしたことに、それが現実の自分に突き付けられている事実に、ムクは困惑していた。

「あなたは先日私にこう言ったね。『俺はこの世界の王となる』と。でもそれは、あまりにも傲慢すぎる夢物語。あなたがそういう行動を取ることで、一体どれだけの人が今の黒田くんのようになってしまうか、想像できる?

 たかが夢だと思わないでちょうだい。クリム界は現実世界とリンクしている。あなたがクリム界で起こした行動はいずれ、現実世界にも悪い影響を与えるのよ。現に、黒田くんがこの状態なんだから」

 更に鋭くナイフのような眼光でムクを睨みつけるヒバリに、ムクは恐れ戦いた。その恐れには自分の犯した重大な過ちも含まれており、ムクはヒバリを見ることができなくなってしまう。

「ムク、あなたはそれでいいの? 自分さえ良ければいいの?」

 ヒバリが問い質す。その言葉にムクは、心臓を握られている息苦しさを感じた。

「恐らく根本は変わっていない。なんだかんだ言って他人思いなんだもの。昨日の攻撃だって、普通の犯罪者なら殺しにかかるところを、足止めになる程度の力に抑えていた事は分かっているんだから」

 だからと言って、ヒバリが追求の手を緩めることはない。そして、昨日の攻撃の本質も見抜いているようだった。

「だ、だったら今度から殺す気で技を使ってやる。そうすれば問題ないだろう」

 何とか絞り出したムクからの反論にヒバリは溜息をつくしかなかった。

「あなたにそんなことができるとは思わない。だって、私の説明を聞いている間、顔から血の気が失せているのがよく分かったもの」

 ヒバリが一歩ムクに詰め寄る。

「お父さん達を襲った時もそう。後ろから思いっ切り殴ればかたが付くようなものだったのに、わざわざ縛るだけで終わるところがあなたの優しさであり隙でもある」

 更にもう一歩詰め寄り、ムクの顔に向けて指を指した。

「だから私は思ったの。表面上は変わったかもしれないけど、奥底にある気持ちは一個も変わっていないってね」

 最後に言葉を言い放つと、ヒバリはさっきの憂いた表情に戻す。その瞳には失望と希望の両方が刻まれていた。

 その非難の目があまりにも痛かった。自分が思っている以上に自分の行っていることは非道と知り、ムクは吐き気と目眩がしてよろめいた。

(じゃあ、ま、まさか、俺は、知らず知らずのうちにひ、人を……)

「人を殺していたのか……?」

 心で思ったことが無意識のうちに言葉として飛び出し、それがまた心の中で反芻される。本来であれば自分には関係のない、現実味のないその言葉が今はやけに心に残り、蝕んでいく。

「ううん。まだ人は殺していないよ。だけど、このまま続けていくなら、いずれはそういうことも絶対に起きてくるのは間違いない。だからこそ、ムクは気付かなきゃいけない。自分のやっていることの愚かさにね」

 ヒバリはもう一度、ムクを問い詰める。

 何が間違っているかを問い質す。

 その為なら多少強引に脅迫してもいいというくらいの勢いだ。

 ムクは精神的に追い詰められた。

「ねぇムク。もうやめにしない。あなたに世界征服なんてものは似合わない。明るくて、元気で、優しくて……。六年前に出会った時と同じようなその姿でいて欲しいの」

 ヒバリはいつの間にか目に涙を溜めていた。言葉の端々から見え隠れするのは願い、願望……いや、彼女の懇願であった。

「この六年、ムクの生活を知ることは出来ないけど、きっと辛い目にあってきたんだと思う。たぶんだけど、今やっていることもそれの復讐なんだと思っているの」

 ヒバリは距離を更に近づけた。もう既にその間隔は五十cmもない。

「でもね、あなたは復讐を止めるべきなのよ。そんなことをしても、あなたの心は晴れないだろうし、どこかで罪悪感を抱くはず」

 一旦言葉を区切り、涙を拭うと、強い意志を湛えた瞳でムクを真っ直ぐ見つめた。

「私の知っているあなたなら」

 その言葉にムクは虚を突かれ、図星を突かれた。表情から動揺を隠すことができないでいると、ヒバリが不意に近づく。何かされると思いムクが身構えると――

 腰に手を回しムクに抱き着いた。

 あまりに突然の出来事で、そのような経験のないムクの顔は茹で上がってしまっていた。

「えっ、あっ、あの……、ヒ……バリ?」

 思わずヒバリの肩を押しやると、彼女もまた勢い余った行動をしてしまったからだろうか、顔が赤い。しかしその目にはまたもや涙が溢れ、今にも泣きわめいてしまいそうな表情だった。

 ヒバリが恥ずかしさのあまりに顔を押し付ける。ムクは思わず抱きしめたい衝動に駆られたが、寸前のところで思い留まった。

「お願いムク……。もうこんなことはやめよう……。昔のムクに戻って……」

 あまりにも必死なその表情、その声にムクの心は揺らぐ。

 確かに、ムクもこのクリム界征服計画に行き詰まり、自分の心とは裏腹な行動に頭を悩ましていた。躊躇っているのは、クリム界で仲間にした連中を裏切ってしまっていいのかという葛藤があるからだ。

(ここでやめてしまうのは申し訳ない)

(だけど、ヒバリの泣く姿は見たくない)

 ムクの中で寝ぼけ眼となっていた優しい感情は、いつの間にかはっきりと目を覚ましていた。

(どうすれば……、どうすればいいんだよ……!)

 追い詰められたムクは、回されていたヒバリの腕を思いっ切りはがす。

「ご、ごめん!」

「ムク、待って!!」

 そして、その場の雰囲気と自分の気持ちに耐えることができず、病室を勢いよく飛び出していった。


                * * *


「ムク……」

 病室に取り残されたヒバリは放心状態にあった。その場に思わずへたり込む。

(どうしよう。ムクに迷惑なことをしちゃった……)

 思い詰めていたのかもしれないのに、予想以上に追い込んでしまったと、ヒバリは自分の行動を猛省した。

(ムクを、助けきれなかった……)

 終わったことを今更引きずっても仕方ないが、思い込むと思考の深みにはまってしまう質のため、ヒバリは悩んでしまうのであった。

 どういった経緯でこのようになったのか。


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