6.ヒバリの行き先
道中、ムクは何度となく話し掛けるチャンスを窺っていたが結局回ってこず、無言のまま歩みを進めるしかなかった。そして、目的の場所に到着する。
その場所は町一番の大きさを誇る総合病院。ベッド数五百を完備し、高度な医療を受けられる施設を有しているため、大病や重傷を負った際はここに来る人が多い。
(何故病院なんだ……?)
訝しんで見るムクに対し、ヒバリは躊躇なく入っていく。行動の大胆さに驚きつつも、ムクはそれに従った。
受け付けを済ませ、許可が出るまで病院の待合所で待つ。無言で通そうかと思っていたムクだが、そのような雰囲気が苦手のため思わず口を開く。
「ヒ、ヒバリもこの街に住んでいるの?」
その問い掛けにヒバリは無言で首を横に振る。
「じゃあ、一体なんで……?」
「現野様、面会の許可が下りました。こちらまでお越しください」
その時ちょうど看護師の声が聞こえ、ヒバリが立ち上がる。疑問が頭の中を渦巻くが焦らず聞くことを決め、ヒバリについていった。
案内された病室に着いた時、ムクはそこに書いてある名前に目を細めた。
ヒバリがそれに構うことなく、ノックを二回して呼びかける。
「失礼します。昨日お会いいたしました、現野雲雀です」
すると中からどうぞ、という女性の声が聞こえた。ムクはある疑問を抱えつつもヒバリに続いて部屋へと入った。
無機質な彩りもない白い個室。その個室のカーテン越しに座っている姿が一つと、ベッドに寝ている姿が一つ浮かび上がっている。すると座っていた影が立ち上がり、カーテンを開けて二人の姿を確認するように覗く。歳の程は十代後半から二十代くらいの女性だった。
ムクはその顔を数秒眺め、記憶を辿り、一つの記憶に到達した瞬間、心臓が飛び跳ねた。ムクはその人物を知っていた。しかし、前にあった時よりも顔立ちや容姿が幾分大人びているため、一瞬分からなかったようである。
すると女性もムクに気が付き、困惑したような顔で少し目を伏せ、一秒ほど目を瞑った後ヒバリに目を向けた。
「雲雀ちゃん、昨日はお見舞いに来てくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ。突然押しかけてしまって、申し訳ありませんでした。容態の方はどうですか?」
そう言って話を進めだしたヒバリと女性を横目に、ムクはベッドに寝ている人物が気になり覗き込もうとした。ヒバリは目敏くそれを見ており、腕を思いっ切り掴み行動を制する。
「何すんだよ!」
「大きな声出さないで。ここは病院なのよ。それに、勝手な行動は慎んでちょうだい」
怪訝な顔をするムクだが、ヒバリの目力に少し圧倒され今は大人しく引き下がることを選択した。
それにほっとし、ヒバリは女性に向き直ってまた話を進めた。
「すみませんお姉さん。ここから先は少し私達だけで話したいので、お部屋の外で待機していただいてよろしいですか?」
「ほ、本当に大丈夫なの……? 何もしない?」
「何もしません、大丈夫です」
ヒバリは無理矢理女性を納得させ、部屋の外へと――端的に言えば追いやった。それを見届けたヒバリは目線をムクに向ける。
「心の準備はできた? ムク」
どういう意味だ、といった表情で返答すると、ヒバリはさっきまでの憂いた表情を一変させ、厳しく鋭い目つきで睨みつけた。
「あなたには知っていて欲しいの。向こうの世界――クリム界で起こした事件がこの世界に及ぼす影響を。そして、それが取り返しのつかないことをしてしまう可能性があることを」
「一体どういうこと……?」
「百聞は一見に如かず。こっちに来て」
そう言ってヒバリはムクの腕を引き、カーテンの前に立たせた。されるがままのムクは、未だ状況把握ができないでいる。しかし、覚悟を決め彼はそのカーテンを見つめた。
準備ができたと確信し、ヒバリはベールとなったカーテンを一気に引く。
そこには予想していた人物が確かにいた。
しかし、その姿は予想していたものをはるかに凌駕していた。




