5.現実的初対面
そして、次の日。ムクは海のみえる丘公園に来ていた。ムクの服装は足元に黒いスニーカーを履き、少し足にフィットする青のジーパン、上は深緑一色のポロシャツを着ていた。少し地味で目立たない服装である。
時刻は約束の時刻よりも十分前の十時五十分。空は夏の空模様らしく太陽が照りつけ、遠くの海の彼方には入道雲が雄々しくそびえていた。夏が好きなムクにとっては素晴らしい景色である。
この公園は海岸近くの丘の上に設置されており、文字通り、海が良く見える。広さは東京ドーム二つ分ほど。両サイドには少し突き出した半島があり、目の前全てが海とはならないが、入江を照らし、街を照らし、山々を照らす太陽が沈む様は、いつ見ても絶景であった。また遊具は少なく、主にボール遊びや走り回ったりするのに適している。そのためこの日も、子供たちが朝から元気に駆け回っていた。
そしてこの公園は、本を読むのには絶景ポイントのため、昔は良くここへと来ていた。今となっては中学の連中に見つかりたくないため、家で過ごすことが多くなっていたが、来ると気持ちの良さは実感できるようである。
中央には巨木と小さな神社があり、待ち合わせの場所としてはうってつけの場所で、地元民にも愛される公園である。ムクはその巨木の下にてヒバリを待っていた。
(ヤクザの娘とかだったらどうしようか……。いや、男という可能性もあるか?)
持ってきたラノベを読みながら、そんなことを邪推する。実際、中村このみの例があるため否定できるものでもないのは確かだ。だが無駄な考えは余計であることはムクにも分かっているため、今は待つしかない状況にある。
約束の時間まで五分と迫り、ムクは持っていた本を閉じ、いつでも挨拶できる――いや、反撃できる態勢を取った(と言っても本を閉じただけだが)。例え何が来ても、誰が来ても油断しないように緊張の糸を緩めず木に寄りかかる。そして、静かにその時を待った。
一分が過ぎ、二分が過ぎ、三分が過ぎた。
(……やっぱり騙されたか。くそっ)
少しは会えることを期待していた自分が馬鹿馬鹿しくなり、ムクは心の中で悪態をつく。
「「はぁ……」」
思わず大きな溜息をつくと、木の反対側からも同じような溜息が聞こえた。巨木から離れて周囲を確認する。すると木の後ろから、何者かが現れた。
短髪の少し茶色がかった癖っ毛に、頭頂部の右よりには水色の二つの玉が付いた髪飾りをつけている。顔立ちは比較的整っており、肌は少し焼けていたが美人の定義に収まる顔立ち。服は半袖の白いワンピースを着こなし、鞄は薄い黄色のトートバッグを持っている。足元にはこれまたかわいい薄桃色のサンダルを履いていた。
クリム界の時の顔とは少しだけ違うが、ムクが見間違うはずもない。
「君が、ヒバリかい?」
「じゃあ、あなたがムク?」
二人は初めて会った知り合い(?)に対し、驚きを隠せずにいた。ムクは目の前にいる少女に目を奪われ、敵対している者同士だということを忘れてしまっていた。一方のヒバリも同様である。
十秒くらいが過ぎたところで、二人はどちらからともなく目線を外した。見惚れてしまった恥ずかしさと、これまでの経緯を思い出した気分の悪さから、互いに無言の時間を流してしまう。
「あ、あの、は、話って何?」
先に口を開いたのは、ムクであった。所々言葉が突っ掛かってしまっているのは、女子と話さないことから来る緊張である。
「えっ? あっ、うん。あのね、書置きでも書いた通り、あなたに見せたいものがあってね」
かく言うヒバリも、中々同年代の異性と話す機会はないため、声音が少々震えていた。
「それでね。一緒に来て欲しい所があるんだけど、これから時間はある?」
「時間? 大丈夫だけど」
じゃあついて来て、とムクに声を掛け、ヒバリは歩き出す。未だ半信半疑のムクも、ここまで来たら従うしかないと悟り、その後ろを追い掛ける。
ヒバリの両耳が朱を帯びていることにムクは気が付いたが、何も言わずにいた。




