4.思わぬ提案
まだ少し遠いが確実にこちらへと近づいてくる。忍ぶつもりは微塵もない様だ。
そっと扉を開けて確認する。姿は見えないが真正面から来ているのは間違いなかった。目の前には落とし穴を掘ってあるため、もし気づかなければ足止めにはなるだろう。ムクは右手に力を集中させていつでも攻撃できる態勢を整える。
足音の主が現れた。少し薄暗く、ぼやけた輪郭のみが女であると告げていた。そして、頭頂部より右寄りに結ばれた特徴的な髪飾りが、彼女の正体を知らせている。
彼女――ヒバリは何の躊躇いもなく小屋に近づいている。罠が張ってあるとも待ち伏せされているとも思わず、ただひたすら真っ直ぐこちらへと歩みを進める。自信があるのか、はたまた単なる馬鹿なのか、ムクは彼女の意図を図りかねた。
「きゃっ!!」
そして案の定、彼女はムク達の掘った穴に落ちてしまう。あまりにも切羽詰まった悲鳴を上げられてしまったため、一瞬攻撃しようか迷ったが、ムクは考えを振り払いドアを開け放ち、右手に溜めておいた炎を穴に投げ入れた。炎は致命傷にならない程度にしており、死ぬことはないだろうと予測はつけている。一時でも足止めできればいい位のものだったのだろう。
しかしそれは甘い予想だった。
内部を確認しようとした途端、とてつもない風圧がムクを襲い、身動きが取れなくなった。思わず両腕で顔を庇い隙間から景色を覗くと、穴の中から人影が飛び出し、ムクに目掛けて風を纏った拳を振りかざす。
避け切れないと判断したムクは、庇っていた両腕を前に突き出し、炎の薄い膜を張ってこの攻撃をしのいだ。しかし、風の勢いに乗ったヒバリの攻撃の方が圧倒的に強く、抑えきれないと悟り、後ろに倒れるようにしてこの攻撃をいなす。
すかさずヒバリは、倒れたムク目掛けて踵落としを繰り出した。間一髪のところで右へと転がり、この攻撃を避ける。
ムクも負けじと、転がった先で素早く起き上がり、右手を横薙ぎに払って炎の弾を飛ばした。しかし弾は、ヒバリを避けて飛んでいく。その後、もう二、三発を放ったが全て当たらず避けていってしまった。ムクの顔に驚きと悔しさが滲み出る。
(飛ばし技がダメなら、物理で勝負!)
拳を握り低い体制のまま、ヒバリの懐へパンチを放った。受け止めても下に手を置き支点とし、回し蹴りを食らわせる算段で攻撃する。
ところがヒバリは直前で右方向に避け、脚を差し出した。勢い余ったムクは自身の身体を止められず、その脚に足元をすくわれ、前方に転がってしまう。
五mほど転がったところで体を起こした。そして振り返ると――
そこに彼女はいなかった。
呆気に囚われていると、彼女が立っていた草むらに落ちている一枚の紙に気が付く。拾い上げると、そこにはこんな文が書かれてあった。
『今回来たのはあなたを捕まえるためじゃなく
あなたに知ってもらいたい事実があり
その話をするために来ました
しかし、あなたが邪魔してくるのであれば、
この紙を置いて行きます
明日の昼十一時 海のみえる丘公園で待ってます
現実世界でまたお会いしましょう
現野雲雀 』
(どういうことだ?)
自分の実名を晒してまで――知っているからいいのだろうが――何故このような紙を寄越したのか、ムクには理解ができなかった。
ただ分かることは、この公園の場所は現実世界で、自分の住んでいる街にある公園だということと、そこに現実のヒバリが来るということであった。
(胡散臭いな……)
そう思うのは当然であろう。誰でもそうだが、こんなものを突然渡されて、信用できるはずがない。疑りの目を持って見るのが当然のことと言えよう。
ムクはヒバリからもらった紙を折り畳み、そして未だ火の残る穴の中に放り込んだ。




