表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/66

7.それぞれの覚悟

 ムクが御礼を口にすると突然、何かが目の前を通りすぎ、次の瞬間には二人の体が絞め上げられ、そのまま動くことができなくなった。下を見ると何重にも巻かれたロープが自分達と椅子とを固定していた。後ろを振り向くと、見知らぬ二人が自分達を見降ろしている。

 ムクの方を見やると左の口角をしっかりと釣り上げ、満足気な顔で頷いている。

「色々と教えていただいて。聴きたかったことは以上ですので、後は二人とも用済みです。あぁ、会計だけは払っておきますので、ではまたの機会に。現野誠うつつのまことさん、濱砂琴美はますなことみさん」

 そう言って伝票を取り、ムクは店を後にする。

 残された二人は、驚愕と悲壮感、そして恐怖心に囚われた表情で、去っていくムクとその仲間を見つめることしかできなかった。


               * * *


 ムクはたいそう満足していた。一番聴きたい情報は得られなかったが、それ以外の必要情報を手に入れることができたため、結果的に収穫高は高い。

 ムクの計画はこうだ。

 まず、菱川が彼ら二人の横を通り抜け、路地に潜んでいたムクに二人がもうすぐ来ることを知らせる。次に、さりげなさを装いつつ近づき、どこかで座って話ができるところに連れていってもらい、二人の後ろに席がある席へと座る。ここが一番の難所であったが意外とすんなりいったため、ムクは心の中で安堵していた。そして、聴きたい情報を聞き出した後は、後ろに座らせていた菱川ともう一人に二人を拘束してもらい、現実世界での真名を告げて立ち去る。こうすることで、現実世界でもあなた方を見つけられますよと脅しをかけることができるため、下手な手出しはしてこないだろうという算段だ。

 一番危険だった濱砂琴美――鱗には終始疑念の目を向けられていたが、先輩の面子を立てるために言動は控えていくだろうという予想の元、話を進めた。結果的にそれは的中し、必要な情報を獲得し、二人をその場に留め置くことができた。

(いやぁ、人が良いというのも悩ませどころだよな)

 計画は成功を納めた。それを実感したのか再び口元が緩み始め、ムクの野望はより現実味を帯び始めたかに見えた。しかし、

「ムク‼」

 聞き覚えのある声にムクの表情は硬くなった。他の二人も理解したのか怯えた表情を見せている。ゆっくりと声のした後ろを振り返る。すぐ後ろにはいつの間にか、いるはずのない人物が仁王立ちで立っていた。

「バードさん、さっき君の親父さんから謹慎中という話を聞かされたんだけど……」

 声に驚きつつも、しっかり相手を牽制する。

 ヒバリがムクを見つけた時には既にフォックス、鱗組と話をしている途中であった。謹慎中の身であるため、二人の前に出るに出られず待っていると、後ろにいた連中に捕まってしまったため、唖然としてその場に立っていた。しかし、ムク達が店を出る際にはそのショックから立ち直り、止めるのは自分の責務だと思い込ませてムクの前に出てきた次第である。

「あなた、一体何を企んでいるの? 現実世界で何があったの⁉」

 ヒバリの叫びにも似た問い詰めに、

「現実世界で何があったか、については教えられないけど、企みについては教えておこうかな」

 ムクは表情を歪め答えた。そして、両サイドにいた二人もいつの間にか振り向き、確信に満ちた表情を浮かべヒバリを見た。

「俺はこの世界の王となる。誰にも邪魔させない、誰も俺に逆らわない、そんな世界を作るつもりだよ」

 ヒバリは絶望した。六年前はあれ程に明るく朗らかで、勇気を持った行動ができる少年が、今ではクリム界を征服する意欲に燃え、歪んだ自信を持った少年へと変貌を遂げてしまった事実に。

 自分の信じていた彼の良心は、自分の知っていた彼の様相は、もうそこにはなかった。

 悔しさのあまり思わず握り締めていた拳からは、赤いものが滴り落ちる。

「何もないなら、俺はもう行くよ。ここにいられる時間も少ないし、ある程度情報は集めきれたから、動くことにするわ。じゃあね」

 ムクはくるりと身を翻し、この場を去ろうとする。

 その言葉にヒバリは反射的に、握り締めていた拳をムクの顔面に放っていた。隣にいた二人は反応ができず驚いていたが、ムクは難なくその拳を受け止めていた。

「私は……」

 絞り出すようにヒバリは言葉を紡ぐ。

「私は、あなたを絶対に止める。私はあなたを危険人物とみなし、あなたの悪事を絶対に止めて見せる! 抵抗するようなら……容赦はしない‼」

 強く宿った決意の瞳に対し、ムクも真剣な眼差しをヒバリに向け、その言葉に不気味な低い声で返答する。

「俺は絶対に君たちに屈しない。何をしかけてきても良いけど、そっちも覚悟して置いた方が良いだろうね」

 敵対することを誓った二人は、どちらともなく離れていった。菱川達は慌ててムクに着いていく。

 そしてヒバリは、今書いている始末書にムクの名前を載せることと、第一級要注意人物として彼を治安統括局に報告することを胸に刻み、この場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ