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夢から紡ぐ未来への系譜  作者: 馬波良 匠狼
二夢 邂逅と後悔
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4.更なる高みへ

 話を戻そう。

 ヒバリはすっかりムクを見失ってしまっていた。周りを見渡してもそれらしき人物の陰すらない。

「はぁ、やっちゃった……。探すのに一苦労しそう」

(このままだとムクがどうなるか分からない。早く探して説得しないと……)

 思わず落胆してしまう。ここまで見張っておいてこれでは、自分自身が浮かばれない。あの時立てた誓いはなんだったのかと、そう考えてしまうヒバリであった。

 ただ、ヒバリも黙ってここに立っている訳ではない。きちんと探すための案は既に出ている。それは至極単純なものだ。

 ヒバリはもう一度樹上へと向かい、そこからまずはムクの方向を探ることにした。ムクは元来た方向を目指していたため街の方向を確認し、木々を伝って上から捜索する算段だ。しかし、上に出てヒバリは驚愕した。

(嘘! こんなに遠くまで来ちゃってたの⁉)

 ムクを追うことに夢中になっていたためか、状況や距離を把握するのを忘れてしまっていた。そのせいか、自分が今どこにいるのか全く気付かなかったのである。初歩の初歩をミスしたヒバリは、自分の不甲斐なさに頭を抱えた。

(いつまでもこんな状態じゃダメだ。とにかく追いかけよう)

 そうしてもう一度気持ちを引き締めると、街を目指して、そしてムクの行く末を追うために木から木へと跳び移っていった。


               * * *


 ムクは既に街へと戻り、そしてこの世界の王となるための計画を練ることにした。

(手始めに仲間を集めたいんだけど、どうするべきか……)

 仲間がいればあちこちを見張らせることができる上に、多勢相手にも多少なりの戦力にはなるだろうというのが理由だ。しかし、そこら辺の一般人(現生人)が、この世界を壊すために協力してくれとムクが言っても、協力するはずがないことは重々承知している。

 そんな折、ムクはあることを思いついた。

(そうか、この力を使って復讐したい奴を探しだして、そいつらを仲間に加えていけばいいのか……)

 非道な方法ではあるが、ムクの頭はそんな考えなどとうの昔に破棄してしまっていた。そしてやはり、ムクはニヤリと口をゆがめて自分のプランの実行を決意した。

 ムクは物陰に身を潜め、右手で作った輪から通行人たちをつぶさに観察する。行き交う人の群れは多種多様で荷物を運ぶ人、友達と談笑しながら歩く人、追いかけっこをする子供たちと、本当に様々である。

 そんな中、ムクが目を引く名前が目の前を横切った。

 容姿は男のようであるが、その人物の頭の上には《中村このみ》と女子の名前が書いてあった。

 中村はムクの扱いが女子の中で一番酷い人物であり、女子のヒエラルキートップである。仲良くなった相手とはとことん仲良くするが、一度嫌った相手には容赦がなく、特にムクに対してはこんなことをする。

 ――ちょっと、嘘つきが触らないでよ! 嘘つきがうつるじゃない!

 ――あんたが触ったものなんか気持ち悪くて触れたくもない!

 ――早く帰りなよ! ここの空気が悪くなるんですけど!!

 罵詈雑言から行動まで黒田並に酷い有様であった。ただ、黒田程の強い思念は持っていないため、この世界でのムクとは初対面である。

 しかし、ムクには関係のない話だ。所詮は中村も、彼にとっては単なる復讐相手に過ぎない。そういうことでムクは彼女の後をつけることにした(ストーカーじゃないかという突っ込みは、この際置いておく)。

 つけること数分。

「おい、そこのお前」

 中村が裏路地へと入ったタイミングでムクは作戦を決行する。振り返った中村は疑いの目を持ってムクを見つめる。

「すまないけど、誰か知らないんだ。俺になんか要かい?」

 その言葉遣いにムクは思わず吹き出す。

「なんで嗤った! 俺の言葉がそんなにおかしいか!」

「いや、本当に現実と違うんだなと思ってさ」

 ムク自身は姿を変えられることは知っていたものの、まさか性別や言動も変えられるとは思わなかったため笑ってしまったのである。それは相手からすると挑発でしかないのだが、ムクは単純にそう思っただけのため本人に煽ったという気持ちはない。

 だが中村はそうは思わない。

「てめぇ、俺に喧嘩を売って、ただじゃすまないことを教えてやるよ!」

 それが解答となり、同時に中村はムクに殴りかかった。

 しかしムクは動くことなく、その拳を右手の平で受け止めた。あまりにあっけなく止められてしまい、中村は驚愕に満ちた顔をしている。

「終わりかい? なら、こっちも正当防衛成立ということで、殴らせていただこうか!」

 そう言うと、ムクは左拳で中村の鳩尾を強打する。逃げようとしたが間に合わず、中村は直撃を受けてしまった。

「ぐわぁっ!」

 黒田よりも強く打たれなかったが、それでも相当なダメージを受けている。中村も現実と同じように不良面子の頭を張っているため、自分よりも強い相手を知らない。それも相まって彼は(彼女は?)一撃で沈んだ事実を受け入れきれなかった。

 中村がふと見上げると、目だけで脅しに掛かるムクの姿が目に入る。そのせいで足が竦み、立ち上がれずにいるとムクが口を開いた。

「おい、ここで死にたくなかったら、今後俺の計画に協力しろ。良いな?」

 更に目で脅すと中村はこくこくと頷く。

「因みに逆らったら、この世界から消すからな。覚悟しとけよ……」

 ムクがどすの効いた声でそう釘を刺すと、はったりではないと分かり大人しく頷いた。

(なんだ、案外と楽だな。この調子で行けば、この界隈を縄張りにすることも可能だな。それを足掛かりにすれば……)

 自分の野望が意外と簡単に叶いそうだと分かったムクは、これからの計画が楽しみで仕方なかった。にやけが止まらない。

「そういえばお前、名前はなんていうんだ?」

 ふと思い出したかのようにそう尋ねると、

「あっ、ひ、菱川と言います」

 中村――この世界では菱川は自然と敬語で答えた。

(やっぱりこいつも違う名前を使ってるんだな)

「じゃあ、お前とその仲間もひっくるめて今日から俺と共に行動しろ。因みに俺の名前はムクでいい。分かったか?」

「わっ、分かりました!!」

 そう威勢よく応えた菱川を、ムクは満足したように笑顔で返す。しかし、当の菱川はその笑顔に畏怖と畏敬の念を覚え、絶対に逆らわないと心に固く誓ったのであった。

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