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夢から紡ぐ未来への系譜  作者: 馬波良 匠狼
二夢 邂逅と後悔
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2.ムクの追跡調査

 話は章の冒頭に戻り、ムクの話をしよう。

 少し歩いてムクはあることに気付いた。あれだけ動いたにもかかわらず身体が疲れていないのだ。

(こっちの世界と現実の体力は別々なんだな。ということは……)

 周りを見渡し人気のない路地を探す。そして、少し後ろの方に見つけると、そこに向かって歩き出す。路地に入ると人目を気にして周りに誰もいないことを確認し、屋上に目をやる。

(もし、現実よりも筋力が高まっているのならば)

 実際のところクリム界の体力等は現実世界の基礎能力に起因し、更に夢残はプラスアルファで力が上昇するのである。

 ムクは準備運動がてら屈伸をして、体をほぐす。そのついでにタイミングを見計らい、膝をしっかりと曲げ助走をつけてから――

 屋上に向けて、一気に跳び上がる!

(おぉっ! すごい勢い!)

 驚いたのも束の間、すぐに屋上の地面が迫ってくる。

(大丈夫かこれ? 痛そうだけど……。うぉっ!)

 そう思いつつ着地した。案の定、足に痺れはきたものの懸念したほどの痛みはなかったため、ムクは一安心する。

 まだ高いビルは存在するが、それでも景色を眺めるのに十分な高さはあった。周りは山に囲まれており、さながら盆地を彷彿とさせる環境であったが、肝心の欲しい情報は何もなかった。

 思い立って屋上の縁にしゃがみ込み、眼下に広がる表通りを眺めた。

(何というか、有象無象が闊歩している様子を眺めるのは、意外と面白いもんだ)

 何となく無意識に右手で輪っかを作り、人波を観察する。と、ムクは奇妙な現象に気付いた。思わず右手を見つめて目を丸くする。

(? なんだこれは?)

 確認のためにもう一度輪っかを作り、すぐに解く。そして、再度輪を作り人混みを見た。そこには――

 全員の頭に文字が浮かんでいたのだ。

 それは小さく読むことまでは出来ないが、確かに文字であった。

 右手から目を逸らしてみる。文字は見えない。もう一度かざしてみると、また浮かび上がった。

(詳しく見ないと分からないな)

 この奇妙な力の確認をするために、ムクは屋上から降りることにした。そして、上ってきた方向とは反対の路地を見下ろし、人がいないことを確認して近くの外階段に飛び移ると、下へと降りていった。

 表通りに戻り、再び右手に輪を作って人混みを見渡す。

 書かれてある文字は、名前であった。

 しかし、ムクはこの情報を鵜呑みにしない。何故なら、現実世界での本名とこの世界での名前は違う可能性があるからだ。

 そこでムクは確実に分かる方法を思いつく。

 表通りを来た道に向かって下り、ある人物に狙いを定めた。その人物は現在、気を失っているところを仲間に担架で運ばれている所であった。

 それは神代、もとい黒田文和。

 ムクは黒田から十m程の地点で立ち止まり、右手の輪から黒田を見つめる。そして、頭の上には――《黒田文和》と書かれてあった。

 その確信にムクは思わず表情を綻ばせる。

(これは面白い! この力があれば、普段俺をゴミ扱いしてくる連中に復讐できる……。夢だけになってしまうけど、鬱憤晴らしにはちょうどいい)

 ムクにとってはただ単に笑っただけだったのかもしれない。しかし、傍から見るとその表情からは黒い闇を感じざるを得ない笑顔だった。

(ありがとよクソムシ。お前でも結構役に立つことがあるんだな)

 そう心の中で嘲笑を呟き、ムクは黒田から離れていった。

 歩きながらムクは、自分の力がどのようなものか、どの位使えるのかを知るために、道中も頻繁に右手をかざして周囲を見て回る。

 そこで分かったことは、文字の大きさは変わらないため、読むことができる距離はせいぜい十から十五m位ということ。人の顔が見えない時は名前が浮かび上がらないということ。そして、左手、左目では何も分からないということだった。

 つまりこの力はこの右にのみ宿るもので、なんでこんな力を持つことになったのかまでは分からなかった。しかし、この力の使い方次第では自分の野望を遂行できると、ムクは自信と確信を持って行動を起こす。

 それとは別にムクはもう一つ確認したいことがあった。

(後は身体能力の方だけど、どうしようかな……)

 ムクにとってはこっちの方が悩ましいようである。流石に見ず知らずの人を安易に殴るのは得策ではない。かといって、一人で確認するのは少し大変な作業になることも承知していた。

(ダメだ、考えがまとまらない。もっと分かりやすい方法はないのかなぁ)

 思考回路を右往左往させながら歩き続ける。足取りは自然とゆっくりになり、ついには止まろうかという時に、大通りが終わり丁字路へと差し掛かった。ふと顔を上げると目の前に森が近づいているのに気づく。

(人目に付くのは嫌だから、森の中に入るか)

 ムクは人目を気にしつつもやぶは気にせず森へと入った。別に目的があるわけではなく、早く確認しなければならないと焦っていたからだ。もし、このタイミングで現実の自分が目覚めようと意識を起こし始めたら、一日待たなければならない。自分の性格上、苛立ちを見せることは確実で、そのイライラを黒田含むいじめの関係者に悟られたら何をされるか分からない。それだけは避けるべきと考え、何としても今日中に解決したいというのが理由である。

 そうは言ったものの、思い通りに行かないのは現実世界もクリム界も一緒である。中々に確認できる場所や物が見つからない。ムクの焦りが最高潮を迎えていた。

 ふと、急に視界が開けた。どうやら森林にぽっかり空いた広場へと辿り着いたらしい。

(ここなら色々できそうだけど)

 しかしそこは何もないただの広場、体を動かすのは簡単だが、肝心の攻撃や防御などの戦闘系の確認は難しかった。今日は難しいか、とムクが考え始めた時、

(ん? 今なんか動いたな)

 ムクの左側の奥で藪が揺れる。そうして動いた方向を確認すると、巨体がのそのそと歩いているのが分かった。それが何かは考えず、ムクはそれを目掛けて走り出し、そうして出会ってしまった。


 そう、熊に。

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