闇の中
僕は紅葉に説明したけれど、とりあえず入れ替わることは伏せておいた。だってさっきも入れ替わってたことがばれたら、今以上に頭にこぶができちゃうからね。
すでに軽くでこぼこした頭を紅葉に優しく撫でられた。あれ?以外に好反応!?やっぱり人助けが認められて、
「旅人大丈夫?頭を打ったの?それとも日頃のストレスのせいでついに」
ですよね~、こんな話誰が信じてくれるのだろう?
「空から神の子が降ってきて、ぶつかって、服とか体が汚れちゃったから家のシャワーを貸してあげた」
なんて―――
あー、もっと語彙力欲しいな、いやでもこれ語彙力の問題じゃないか、僕は入れ替わりって現象とさっきの映像などを見てルセラってほんとに人間じゃないんだなって理解できたけど、第三者から見れば、見た目はメチャクチャな美人だとしても人の形をしているし、特別なことがあまりない。信じろって方が難しいだろう。
「でもとりあえず、ほ・ん・と・に、なんにもしてないんだよね?」
紅葉の顔はまだ恐い笑顔だったけれど、ある程度は僕のことを信じ始めてくれているようだった。これが幼なじみ特権というやつだろうか。
「断じて!神に誓ってなにもしてないです!困っていたので、紅葉様に来ていただいて助かったと思うくらいです!」
神に誓うなんてなんて簡単なことなのだろう。だってすぐそこに神に近しい存在がいるわけだし。
「はぁーあ、まだなにかしら隠してそうだけど、一応は信じてあげる。まあふつうに考えて旅人が女子を家に連れ込むなんてあり得ないもんね‼」
紅葉の笑顔がいつも僕をからかってくるものに戻っていた。やっぱり紅葉は笑顔で人のことを罵倒してなきゃな!
決して声には出さないけれど、そう感じた。もちろん声に出さないのは死にたくないからである。
「さて、これからどうしましょう?」
ルセラが首をかしげながら考え込み始めた。
そうだ、ルセラは帰る場所がない状態だった!この後はどうするのだろう?
「ん?これからって?家に帰るんじゃないの?」
紅羽がよくわかってないような顔になる。
せっかく紅羽をいつも通りの状態に戻したというのにまた新たな爆弾が投下された。選択肢を間違えればきっと核爆弾並みの威力を発揮するだろう。
「天界から落とされてしまいましてね、帰らせてもらえないんですよ。」
「えっ、家を追い出されちゃったってこと?大変じゃん!」
うまいこといい解釈をしてくれているようだ。間違ってはいないのか、な?
「そうなんですよ。なのでとりあえずは知り合いにあたっていくしかないですね。」
「知り合いなんかい、」
「そっか、知り合いがいるならよかった。勢いで旅人の家に泊まるとかだったらちょっっっと許せなかったかもしれないから。」
絶対ちょっとじゃ済まさなれないような顔をして紅羽が僕の声をさえぎる。
「それではそろそろ日も落ちてしまいますし、失礼させていただきますね」
ルセラは少し不安そうだった顔を振り払うように軽く微笑んだ。
そんな彼女の小さな表情の変化に気づいてしまったから、
「よかったら僕のいぇ」
「旅人!!」
紅葉の怒鳴り声が響き渡った。
「もうあの事忘れたの?」
歯を食いしばりながらこちらを見上げてくる。その表情には怒りと心配が込められていることは明白だった。
「大丈夫、もう2度とあんなことは起こさないよ、紅葉。」
「ごめんね、なんでもない、気を付けてね」
紅葉とルセラにそれぞれ声をかけた。
「それでは失礼します」
ルセラとはここで別れることになった。
なんだかんだで騒がしかった時間が長かったので、いざルセラがいなくなると静けさが寂しさを感じさせる。
「じゃあ私も帰るね、もう勝手に人を家にあげちゃダメだよ!」
ルセラがいなくなってから10分ほどして紅葉も僕の家から出ていく。
別に家に一人になることはよくあることである。親が帰ってこない日なんて、週3、4回ほどある。
一人のため、自分で家事をすることにはなれ、女子力がどんどん上がっている。
それでもわいわいした空気を感じたあとの虚しさ、そしてルセラを帰してしまったことへの罪悪感がチクチクと胸にささってくる。変なやつではあったけれど、悪いやつではなかった?と思うし、天界へ帰れない以上彼女はどこに向かっているのか不安でしかなかった。
けれどどんなに考えを巡らせたところでもう行動にはうつせなかった。
ふと窓の外を見ると、もうすでに日は完全におち、真っ暗闇が広がっていた。家の近くには外灯もあまりないため、本当に真っ暗である。
いつのまにかルセラが出てから二時間ほどたってしまったようだった。
こんなに考え込んだのはひさびさだったが、こう割り切れないところが損なとこだなって自分でもわかってるが、今更直せない。
その時だった、急に辺りが真っ暗闇に包まれた。目がうまくはたらいてくれずにしっかりとは見ることができなかったが、ふと目にはいった看板は見たことがあるものだった。
そして僕の頬には小さな水滴が流れていた。
気がついたら再び家のソファーに腰かけていた。
ようやくこの現象にも要領を得てきた。
この現象が起きるとき必ずだ。僕も彼女も。
それが理解できたときには、僕は家を飛びだしていた。




