その2
女王様の塔から兄弟たちの元に帰ってきたチュースケは、すぐにみんなに囲まれてしまいます。兄弟たちに叱られたり心配されたりしましたが、チュースケには聞こえません。チュースケは自分が成し遂げたことを言いたくて仕方ありませんでした。
兄弟たちの声が止んでから、チュースケは胸を張って自分の偉業を伝えました。
手放しで褒められるかと思いましたが、お兄さんネズミの表情はあまりうれしそうではありません。
「ありがとうチュースケ。よくやってくれた。女王様はいいヒトだろうから、本当にその通りにしてくれるんだろう。でも、それじゃあ冬が終わらないんだ」
「冬が終わらなくてもいいじゃないか。食べ物がもらえるならそれで」
「よくないよ。冬が終わらないと、食べる機会だけでなく、食べ物そのものがなくなってしまうんだ」
「うそ!」
それからようやくネズミ達はどうやって解決するかを話し始めました。その結果、お兄さんネズミ達数匹が女王様の元へ話に向かうことになりました。だけれども、女王様の部屋につながる穴は見事にふさがれていて、話し合うことは叶いませんでした。
女王様と話せなかったネズミ達は、王様と話してみることにしました。
「なんだ、この汚らわしいけものたちは! 即刻排除せよ!」
「待ってくれよ王様! ボク達は話し合いに来たんだ」
チュースケと数匹のネズミ達は王室内で王様と向かい合っていました。
「話だと?」
「そうさ。王様に女王様をあの塔から出してもらうためにどうすればいいかを聞きに来たんだ」
「その方法がわかっていたら、既にやっている! わからないから褒美を出すというお触れまで出したのだ!」
「王様が約束を守ればいい話なんじゃないかい?」
「約束だと?」
「そうさ。女王様が言っていたよ。出て行かないのは、約束が守られないからだって!」
「まだあの戯言を言っていたのか。そんなことできるはずがなかろうに」
「そんなこと?」
「あいつは他の女王に、姉妹に会いたいと。そんなことできるはずがないのだ!」
「会わせてしまえばいいじゃないか」
「それはならん」
切り捨てた王様に向かって、お兄さんネズミは吠えました。
「兄弟なのに会えないなんて!」
「季節の移り変わりの時に、一瞬会えるから十分だろう! 冬の女王はアキとハル、二人に会えるのだから、これ以上どうしようというのだ」
「それだけなんて、ひどい! 夏の女王様にも、4人一緒に合わせてあげてよ!」
「これだから頭の単純なけものは。この国が他の国と対等なのは、四季があるからだ。鮮やかに季節が巡る国はこの大陸中探してもこの国だけなのだ。観光の国としてどうにか成り立っている。あの女王の申し出を受けたら、この国は終わってしまう!」
チュースケは声をあげて王様に訴えます。
「ボク達はヒトと違って小さいから、そんな大きな世界の話はわからない。でも、兄弟と会いたい、家族と一緒に過ごしたいって気持ちはわかる。人間も同じじゃないの?」
「国とたかが数人の姉妹が比べられるものか。お前たちに国の何がわかるというのだ」
「わからないよ! でもそれだと冬が終わらないよ! それでもいいの?」
「いいわけがあるまい。だからあいつが諦めるまで待つか、誰かが出してくれるのを待っているのさ」
王様はひたすら待つことしかしないようです。
ネズミ達と王様はいくら話しても進展はなさそうでした。
「もういいよ!」
そう言い残してネズミ達は王様の元を去りました。
自分たちの住処に戻り、彼らは口々に言い合います。
「どうする?」
「ボク達でなんとかするんだ」
「なんとかって?」
「ボク達には兄弟がいるじゃない」
「そうだな。国にいる同胞たちにも、手伝ってもらおう」
「それで、何をやるの?」
「簡単なことさ。誰も彼も、家族と過ごしたいって想いは同じはずさ。だから――」
数日後、王様は頭を抱えていました。
「ネズミどもめ。なんていうことをしてくれたんだ」
「お言葉ですが、王様。国民達は城前から一向に引く気配がありません。このままでは」
「わかっておる! 国民達も女王達のことは既に知っていたはずだ。それが今になってネズミ達に感化されるとは。……いや、これはただのきっかけに過ぎぬかもしれん」
玉座から立ち上がり、王は部下に向かって言い放ちます。
「女王の言葉を受け入れよう。ただし、会えるのは一年の内、数回だけだ。季節の移り変わりは守ってもらう。民も許したことだ、四季通りに暑さや寒さが来ぬ日が来ても構わぬだろう」
「褒美はいかがします?」
「褒美だと?」
「ネズミ達に、お触れにあった通りに褒美を」
「ただのけものにやることはなかろう。ネズミ供がやったという証拠もない。女王の申し出が女王を連れ出したのだ。4人の女王が集まったときに褒美として豪華な食事を振る舞えばよい」
「しかし」
「くどいぞ。それより、ようやく国に四季が戻るのだ! 国民に冬の終わりを告げよ! そして、国を上げての祭りの準備を!」
そうして春が訪れ、国に季節が巡るようになりました。
けれども、昔と全く同じではなく、時々夏なのに寒くなったり、冬なのに暖かくなったりするようになりました。
壁の中のネズミ達はそれを感じ取ると一斉に盛り上がりました。
「お城で美味しいものが作られるぞ!」と喜んで女王様たちの所へ向かうようになりましたとさ。