その1
冬童話2017参加作品になります。
よろしくお願いします。
あるところに、4人の女王様たちがおりました。
4人は4つ子の美しい姉妹で、ある国の王様に4人とも見初めされました。女王様たちは上から、ハル、ナツ、アキ、フユといいました。女王様たちはその国に自分と同じ名前の季節を運んでくる不思議な力を持っていました。国の中心にある大きな塔に住んでいる間、国にその季節がやってくるのです。
女王様たちによって様々な季節がめぐるその国は、様々な人や物が集まり、大変栄えていました。
ところが、いくら待てども今年の冬は終わりそうにありませんでした。それもそのはず、冬の女王様が塔に入ったままだったのです。
王様はフユ女王様がいる部屋に向かいましたが、扉は固く閉ざされ話を聞いてくれそうにありません。困った王様は、国中にお触れを出しました。
「フユを外に連れ出し、ハルと交替させた者には褒美をとらせよう」
そうして国の中や外からたくさんの人がこの国にやってきましたが、誰も女王様を外に連れ出すことは叶いませんでした。
目の前にはお兄さんネズミがとってきたチーズの山。一番下の弟ネズミ、チュースケは思わず飛びつきます。
「うわーい!」
「こら。全部食べたら駄目だぞ」
お兄さんネズミはチュースケを制し、兄弟たちに均等に分け与えました。けれども、お兄さんネズミの後ろには、兄弟全員のチーズを合わせても足りないくらいの量が余っています。
「やい、兄さん! その後ろのチーズ、全部兄さんが食べるのかい? ボクにももうちょっとおくれよ」
チュースケの声に、周りの兄弟ネズミたちも「そうだそうだ」と口々に言います。
しかし、お兄さんネズミは首を横に振り、チーズを渡そうとはしませんでした。
「これは、食べ物がなくなったときのために、とっておこうと思うんだ。だから、今は食べたら駄目なんだ」
「どういうこと?」
「これは、このチーズを取りに行くときに人間たちがしていた話なんだけど」
そうして、お兄さんネズミは理由を教えてくれました。
なんでも、冬を司る女王様が塔に籠っているせいで、冬が終わらないようなのです。
困った王様は、女王様を連れ出したものに褒美を与えるとお触れを出しました。しかし、誰も連れ出すことは叶いません。そこで国に住む人間たちは、少しでも長生きできるよう屋内に籠り、食事の量を減らして、冬が終わるのをただ願い待つだけになりました。
「それがどうしたっていうのさ? ボクたちはネズミ。ヒトがどうなっても構わないよ」
「冬が終わらないっていうのは、大変なことなんだぞ」
「そうかな? 冬が寒いおかげで暖炉の火が絶やされない。壁の中も暖かくて快適さ。夏のどうしようもない暑さより、ボクはこの冬のほうが好きだね」
「冬が終わらないと、ヒトは食事を控えつづける。つまり、俺達が食べ物をとってくる機会がなくなるかもしれないんだぞ」
「それは、もしかして、チーズも?」
「もちろん」
「うわあ、大変だ!」
兄弟ネズミ達は全員大慌てです。
自分のチーズを急いで頬張ったり、所かまわず走り回ったり、チーズを体で匿ったり、おろおろと辺りを見回したり、反応は様々でした。
お兄さんネズミが落ち着くよう宥めても、誰も聞いている様子はありません。
「ボク」
喧噪の中で、一匹のネズミが声をあげました。
一番年下のチュースケです。
「ボクが冬を終わらせてくる!」
そう叫ぶと、壁の外へ飛び出しました。
女王様がいるだろう塔は見当がついていました。この辺りで塔といったらお城の隣にある大きな塔以外にありません。お城に住み着いているチュースケは、何度も見かけたことがありました。チュースケの小さな足でも容易にたどり着けそうです。
そうして塔前にやってきたチュースケを待ち受けていたのは、がっしりと閉じられた扉でした。
「ひらけ―!」
体全体を使って扉を押しますが、もちろんピクリとも動きません。お兄さんネズミ達が協力したとしても開けることは無理でしょう。残念なことに、この扉はネズミ達のためにはつくられていないのです。
けれども、これくらいで諦めるチュースケではありません。
「そうだ! ボクはネズミさ。ヒトと同じ場所から入ることなんてないぞ!」
塔の外壁を回ってみると小さな穴が開いていました。意図的な穴か自然に出来た穴かはわかりませんが、中に通じているならチュースケにとって違いはありません。
くねくねと体を動かしてその穴を抜けると、ひらけた場所に出ました。ソファや棚があるところを見るに、誰かの部屋のようです。部屋の真ん中には、本を読みながら座っている女の人がいました。あの人が女王様に違いありません。
「女王様、女王様」
チュースケは女王様の足元で声をあげます。
「誰?」
女王様は本から顔を動かさずに返します。
「話を聞いてくれない限り、私は出るつもりはないの。塔からも、この部屋からも」
「それは困るよ」
そこでようやく女王様は顔を上げました。辺りをきょろきょろと見回して、チュースケを見つけます。
「さっきの声はあなた? どこから入ってきたのかしら」
「あそこだよ」
「そう。それで、何の御用?」
「女王様が閉じこもっているせいで、冬が終わらないって聞いたよ」
「そうね」
「冬が終わらないと、ボク達の食べ物がなくなるらしいじゃないか。だから外に出てくれないかい?」
「ごめんなさいね。王様が約束を守ってくれない限り、私は出るつもりはないの」
「約束?」
「……そうね。ネズミさんのところに食べ物が出てくれば、問題ないかしら?」
「そんなことできるの?」
「ええ、給仕に頼んで用意させましょう」
「ありがとう! 約束だよ!」
問題があっさりと解決したことに拍子抜けしました。けれど解決すれば他に問題はありません。チュースケは女王様に手を振って、元来た穴から帰っていきました。