第8話 試験2
アテナは狼を倒して笑顔を浮かべたままこちらへとやって来た。
「やりましたよ。一樹さん!私、勝ちました♪」
先程、一撃で狼の首を切り落とした人物と同なじとは思えない位、雰囲気が変わっていた。
戦っていた時の雰囲気は、美しく鋭い触れれば何もかもを切り裂く抜き身の刃そんな雰囲気だった。
しかし、今目の前に居る彼女からはそんな雰囲気を微塵も感じず、それどころか大切な人に只嬉しくて報告した。
そんな風にしか感じられなかった。
「えっと…そろそろ次の試験を初めても宜しいですか?」
職員の女性に言われて気付いた。
結構長い間アテナを見つめていた事に。
その当人は照れ笑いしながら嬉しそうにしていた。
その姿に再度見つめてしまった。
「ゴホン!!」
女性は呆れた目を向けながら咳払いをしていた。
(何をやっているんだ、俺は…)
そう自分を叱責し試験へと気持ちを切り替えた。
「すまない、頼む」
そう短く良いながら試験場の中央へ向かった。
「一樹さん、頑張って下さい!」
中央に向かう彼の背にアテナが応援した。
それを聞き片手を返事がわりに挙げた。
そして、アテナの時と同様に周囲に安全対策の結界が張られ中央に魔方陣が輝き出した。
しかし、その魔方陣は先程と違い二回りも大きかった。
「え!?、嘘!!これウルフの魔方陣じゃない!!?」
職員の女性が発生した魔方陣を見て驚いた。
一樹も危険性を感じとり腰の刀に手を掛け構えていた。
そして、現れた魔物を見て女性は青ざめ恐怖した。
「そんな!!キマイラ!!試験用の魔物じゃない!!今すぐ逃げてください!」
逃げろと言われても、試験場は結界に覆われていて逃げはなど無く。
その上既にキマイラは低い唸り声を挙げながら一樹を見て構えていた。
少しでも動いたり目を反らしたりすれば襲い掛かってくる。
其れが分かっているため動けなかった。
「グルッォォォォォ!!」
突然、キマイラが威嚇の砲口をあげた。
「…ッ!!助けを呼んできます!」
そう言って彼女はその場を離れ助けを呼びに走った。
そして、一樹はその声を聞きながら、鞘から刀を抜き中段に構えた。
それを待っていたかの様にキマイラが襲い掛かって来た。
真っ直ぐ突っ込んでくるキマイラを左に飛び、躱しながら蛇の牙を刀身で受け尻尾に鞘を叩き入れて弾く。
振り向き刀を左下に構えキマイラに向かい走り出した。
そして近づいたが尻尾を大きく横凪ぎに降ってきた。
それをしゃがみ込み回避し立ち上がりながら左切り上げに切った。
しかし、左回りに振り返ったキマイラが右腕を振り上げその勢いのまま凪ぎはらってきた。
それを回避するため鞘を盾替わりに使い勢いを殺すため右に翔んだ。
「くっ!」
しかし、威力を殺し切れず左腕に痺れを感じながら地面を滑った。
キマイラに向かい構え直そうとした時。
「一樹さん!!」
その叫び声が聞こえ嗟に後ろに飛びキマイラの攻撃を回避した。
しかし、遂に背中に結界の壁が当たった。
(!!しまった!)
キマイラが正面から襲い掛かって来た。
右の爪を左の鞘で受け流し、左の爪を右の刀で受け、正面の牙をしゃがんで躱し、足への蛇尾の攻撃を上に飛び、右翼による斜め上からの凪ぎ払いを傾いて交わし、左翼による凪ぎ払いを刀でカチ上げる。
一打一殺その攻撃を尽く回避し続けている。
しかし、一樹は避けるしか出来ていない。
キマイラの攻撃は一撃で命を奪う威力なのだ。
その上、手数が多い為に攻撃に移る隙がないのだ。
回避出来ているのは、一樹の技量がそれだけ高いからなのだ。
しかし、その技量を持ってしてもキマイラの攻撃を完全には回避仕切れていなかった。
少しずつではあるが擦り、かすり、打たれ、当たり、そうやって少しずつではあるがダメージを負っていた。
結界を背にしてしまった為、後ろに下がり攻撃を避ける事が出来ず、結果無理な姿勢で回避しなければいけない攻撃が出てきてしまうのだ。
いずれ回避が出来ない攻撃を受け、彼は命を落とすだろう。
(このままじゃ不味い…。仕方ない、あれをやるしかないか…)
そう思い彼は決断し、そしてキマイラの右翼を避け前に出る。
そして、蛇尾が下から突き上げてきた。
避ける事が出来ずその一撃で一樹は鮮血を撒き散らしながら宙を舞った。
「一樹さぁぁぁぁん!!」
アテナが悲鳴を上げた。
一樹が受けた一撃は誰が見ても致命傷だった。
そして、一樹は地面に降り立った。
次の瞬間、その獅子の頭を無くしたキマイラが倒れた。
「・・・え?」
一体何が起きたのか判らずにアテナは自分の目を疑った。
そして、それはアテナだけでは無かった。
「・・・一体何が起こった?」
「…な、…何でキマイラが倒れているんだよ?」
「彼は、確かにキマイラの攻撃を受けた。なのにナゼ?」
いつの間にかハンター達を連れて職員の女性が戻っていた。
彼らも何が起きたのか判らずに一樹を見て騒いでいた。
「一樹さん…一体何をされたんですか?」
いつの間にかアテナが近くに来て聞きたそうにしていた。
キマイラを倒した事により結界が解除された様だ。
同様に他の人達も彼の周りに集まってきた。
「何をって見たまんまだが?」
そう言って首を切り落とされたキマイラを見た。
「いえ…、私達が聞きたいのは一樹さんがどうやって生き残ったのかの方です」
「ああ、そっちか。俺はただ攻撃を受け流しただけだ。簡単に説明すると、先ず俺の剣が届く距離まで近付いて待ち構え、攻撃が下から来たらその攻撃を剣と鞘を盾替わりにしながら上に跳び受け流しそのまま攻撃の勢いに利用しながら首を切り落としたんだ」
[流刃川華]神代流の技の一つ相手の攻撃を鞘又は刀身で受けその勢いを利用し攻撃する技いわゆるカウンター攻撃なのだ。
「えっと…簡単に言ってますけどそれって凄く難しいのですが…」
そんな風に言われてしまったが別に簡単だった訳ではない。
神代流の中で[流刃川華]は奥義の一つなのだ。
一歩間違えれば死ぬ様な技なのだ(出来れば二度と使いたくない)そう思うほど危険な技なのだから。
(それにしても、どうしてキマイラが?ギルドが狙いか?あるいは…)
そう考えてこの世界でのこれからに不安を覚えた。
こうして、一樹の試験はキマイラの乱入と言う事件のせいでうやむやの内に終わってしまったのだった。