第4話 力の核
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それでは、楽しんで下さい。
罠を潜り抜け休憩していた彼は鞄を漁りついでと言わんばかりに昼食を取る事にした。鞄から取り出したのは…カロ○ーメイトだ。それを口に入れ父親の手帳を開きながらさっきまでの状況を分析し始めた。
「それにしてもホントギリギリだった。一瞬何かに引っ掛かって動きが止まったから避けられたけど、あれが無かったら今頃…」
そう言いながら白骨達の方を見て身震いした。
「しかし、何に引っ掛かったんだ?」
そう思い周りを見渡すと、近くに小さな丸い石が落ちていた。それを拾いライトで照らすと光を反射した。どうやら水晶の様なもので作られている様だ。
「どうやらこれが引っ掛かって罠が止まったみたいだな…」
罠の稼働部分をライトで照らしながら見た。すると、稼働部分に丁度掌の上にある石が填まりそうな窪みがあった。
「どうしてあんな所にこんなものが?」
誰かが填めたのか?、それとも偶然か?、推測を立ててみたが、いくら考えても情報が少なすぎて分かる訳が無いのだ。しかし、この石に命を助けられたのは事実、そう思い胸のポケットにその石をしまったのだ。
「さて、飯も食ったしそろそろ行くか!」
そう言って手帳を閉じ立ち上がり荷物を担いだ。
そして再び遺跡の奥へと歩き出したのだ。
遺跡の奥へと歩き出してから一時間位経っただろうか。目の前に通路の終わりが見えてきた。と言うより通路が終わっていた。
「おいおいおい…嘘だろ?行き止まり?、ここまで来て何もありませんてっ、冗談じゃない。何処かで別れ道を見逃したか?」
罠のあった場所から一時間以上、この場所に至るまで周囲を観察しながら歩いたが、別れ道や細い通路など一つも存在しなかった。
「とっなると…どっかに隠し通路でもあるのか?今の所、一番可能性が高いのがこの行き止まりだが…」
そうしてライトで照らしながら観察して視ると壁には文字が彫られていた。
「また、ルーン文字か、…えっと、この文字がイでこれがミだろ・・・」
再び手帳を取りだしそうやって解読して視るとこう書かれていた。
「…イ ミスティキ ポルタ?確かギリシャ語で[秘密の扉]・[神秘的なドア]だったか?となると…やっぱり隠し通路があるのか?」
そう考え行き止まりの壁を詳しく調べると一ヶ所だけ不自然な部分があった。
「?ここだけおかしい…ただの壁の筈なのに風を感じる…」
そう感じて先ほどの壁に彫られていた文字を思い出す。
(イ ミスティキ ポルタ[秘密の扉]・[神秘的なドア]…扉ってのは向こう側とこっち側を隔てる物、となるとここが隠し扉なのは間違いない。しかし…[神秘的なドア]?)
そう疑問に思いながら手をその壁に当てるとあり得ない事が起きた。
壁に当てた手がすり抜けたのだ。
(…ッ!?驚いた、確かにこりゃ[神秘的なドア]だ)
彼の目には確かに壁がある、しかしそれはこの先の通路を隠す只の立体映像なのだ。
その壁がどうやって投影されているのかは解らないが、確かにそれは[神秘的なドア]に偽りはなかった。
そのまま彼は立体映像の壁をすり抜けた。壁の先には細い通路が続いていた。
「立体映像とは…、俺達の文明より進んでいたんだな…、しかし、この先にいったい何があるのやら…」
この先に何かあるそう考えるのは自然である。あれだけの罠を張りその上こんな仕掛けまであるのだ何もないなどとは考えられなかった。
「それにしても、さっき手帳を確認したがあの最後の罠もこんな壁の事も書いて無かった」
そう、手帳には罠の目印やルーン文字の解読方法などは書かれていたが罠の存在、立体映像の壁、そういった事は何一つ書かれていなかった。
「何で書かなかった?・・・いや、書けなかったのか?でも何故?」
そう考えると色々疑問が浮かんでくる。
まずは手帳だ、彼は自分宛に届いた手帳を両親のどちらかが送った物だとばかり思っていた。
もし仮に違ったのならいったいだれが送って来たのかそれが疑問だった。
次に疑問なのが手帳に書いてあった事、目印の事やルーン文字の事、そういったこの遺跡に関係している事柄のみ書かれている事。
まるで意図的にヒントのみ書いてある様だ。
そして最後が罠や壁の事、何故手帳に書いて無かったのか、もし仮に書けなかったのならばその理由はいったい。
そこまで考えて彼は気付いた。
「まさか!?誰かに狙われていた!」
誰かに狙われていたと言うのなら殆どの疑問は解決する。その誰かにこの遺跡の奥に入って欲しくないからだと考えられる。それならば意図的に情報を隠しヒントのみを書いておいた理由に説明がつく。
しかし、まだ謎が残っている。
手帳を誰が送って来たのかだ。
(…仮に、親父達を付け狙っていた誰が送って来たのなら今も・・・)
そう考えていた時、背後に何者かの気配を感じた。
「…ッ!!誰だ!?」
叫びながら後ろを振り返りライトで照らした。しかしそこには誰も居なかった。
(・・・誰も居ない?…警戒し過ぎか?、しかし誰が親父達を狙っていたかもしれないんだ、警戒レベルを最大にしておこう…)
そう考え警戒レベルを最大にしながら先へと進んだ。しかし彼は自分の後についてくる小さな光に気付かなかった。
時折後ろを振り返りながら通路を30分位進んだ。すると通路の終わりが見えてきた。警戒心をそのままに通路を抜けた。左右を確認すると壁は楕円を描いて奥へと続いていた。そこは丸く広い空間だった。
(…まるでゲームの中のボス部屋みたいだな)
そんな風に考えながら彼は空間の中央へと進んだ。すると突然楕円を描く壁に炎が灯った。そして中央に光の粒が集まり一つの形を作り出していた。
「…おいおい、マジでゲームみたいじゃないか」
そんなことを言っている内に光の収束は終わりその形は大きな獣となっていた。その獣は牛の頭を持つ人の姿をしていた。体躯は優に2メートルを越えその手には斧のようなものを握っていた。
「ボス登場ってか…つぅか、ミノタウロスって…また神話かよ…」
呟きが聞こえたのか、そのギラつく瞳で睨み付けて来た。
「ブルォォォォッ!!」
ミノタウロスは吠えながら斧を振り上げその巨体に見合わない速度で迫ってきた。
「…スゥッ!!」
短い呼吸と共に身構え腰に差したナイフを抜いた。
そんな得物がどうしたと言わんばかりに近づいてきたミノタウロスは斧を振り下ろして来た。
左上から振り下ろされた斧を右に受け流しながら左に体を傾けその刃を避ける。
そのままの勢いで右足を蹴り上げて来た。それを屈んで回避しつつ左足を切った。
左の拳で殴りかかってきたミノタウロスを左に回り込み避け、体制の崩れたミノタウロスの左腕をナイフで切る。
一撃でも当たれば即お陀仏の攻撃を全て紙一重で避けその序でにと攻撃とは逆の体をナイフで切り続けた。
そんな攻防を何度も行い続けた結果、ミノタウロスは全身から血を流し瀕死の重体。
逆にミノタウロスの攻撃を避け続けた彼は無傷だった。
どうして全ての攻撃を避け続ける事が出来たのか。
その理由は単純、彼の家系には代々受け継がれてきた武術があり彼も叔母の家でそれを習得していたからだ。
「…ブモォォォ!!」
ミノタウロスが最後力を振り絞るかの如く鳴き両手を地面に突きクラウチングスタートの姿勢になり両足に力を込めた。
「最後の勝負ってかぁ、良いぜ受けてやる」
その意味を理解したのかミノタウロスは吠えながらその巨体を武器に突っ込んできた。
その速度は彼の予想よりも早くこれまで全ての攻撃を回避してきた彼でさえ完全には避け切れなかった。
何とか後ろに飛びその衝撃を緩和したがその勢いは殺し切れず壁にまで飛ばされてしまった。
彼は壁を背に立ちミノタウロスを見た。
ミノタウロスはもう一度両手を突き地面を蹴った。
そして彼はミノタウロスの突進を壁を蹴り上に飛び上がって避けた。
そのまま彼はナイフを逆手にミノタウロスの首を切り裂いた。
彼は地面に降りナイフを構えながら振り返りミノタウロスを見た。
ミノタウロスは体の向きを変え彼を見てそのままの姿勢で倒れた。
「…はぁ、…はぁ、…はぁ」
荒い呼吸のまま暫くその場でミノタウロスを警戒した。
そうしているとミノタウロスの体は徐々に光の粒になって空中へと溶けるように消えていった。
「・・・はぁぁぁ、な、何とか倒せた…」
疲労を隠しもせずにその場で仰向けに倒れた。
ふとポケットに入れた石を取り出した。
「あぁ、割れちまったか…。まっ、あれだけの衝撃じゃ仕方ないか」
胸ポケットに入れていたため、ミノタウロスの突進を受けたときの衝撃で割れてしまった様だ。
残念だ、そんな風に思いながら眺めていると視界の端にミノタウロスが現れた時の様な光の粒が見えた。
新たな敵か!?そう思い跳ね起き光を追ってみた。
しかし光の粒は一つだけで他には飛んでいなかった。
暫くの間その光を眺めていると近寄ってきて彼の周りを飛んだり離れたりを繰り返した。
まるで彼を何処かに導こうとしているかの様だ。
そしてこの場所の入り口と反対方向に飛びそこにある別の通路の前で動きを止めた。
「…こっちへ来いってことか?」
彼は立ち上がりその光の後についていった。
通路を進みはじめて5分程歩くと新たな部屋に出た。
そこは中央に一際大きな水晶が置かれた部屋だった。
光はそのまま進み中央の水晶まで飛んだ。
彼もその後に続き水晶の前までやって来た。
「…随分と大きいな」
思わずそう呟く程、その水晶は大きかった。
横幅は約2メートル高さはおよそ4メートル位ありその先端は天井にまで届く程なのだ。
その水晶に見入られたかの様に眺めていたのだが気付くと彼は水晶に触れていた。
すると突然ビキッと音が鳴り水晶に大きなヒビが入り慌てて後ろに下がろうとした瞬間、水晶は崩れた。
そして水晶の中に光でも溜め込んでいたかの様に水晶から光が弾け彼の視界は光で満たされ音すらも消えた。
咄嗟に目を瞑っていたのだが。
突如ざわざわと周りが騒がしくなって目を開けてみると…
目の前に拡がっていたのは観たこともない光景だった。
そして彼は周囲を観察していたら。
突然、彼女に声をかけられ。
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(そして今に至る…と)
遺跡の事を思い出し彼女の言っていた事を吟味した。
(この自称女神が言っていた神殿ってのが遺跡の事だとしたら、力の核ってのがあの水晶なのか?)
「えっと…」
(しかしこうやって思い出してみるとほんとゲームや小説みたいだな)
「あのぉ…」
(それに…ミノタウロスってドラ○エか?ドラ○エなのか?)
「…うぅ、グスッ」
(いやぁ…、これがゲームだって言うなら俺はその主人公か…、だとすると可愛い女の子が現れて…、そうするとヒロインは・・・いやいや(笑)、この残念系自称女神がヒロイン…あり得ねぇ(笑)・・・ん?)
「…うぅ、ひっく、無視しないで下さいよ~…グス」
・・・色々考えている内に何だか泣きそうになっていた。
「…ッ!!す、すまない無視していた訳じゃ…」
「…うぅ、…やっと見てくれましたぁ~グス」
目の端に泪を貯めて笑い掛けてきた。
「…ッ!!…か、可愛い」
「…か、可愛いだなんて…エヘヘ」
さっきまでの泣き顔が嘘の様に今はだらしない位満面の笑顔だった。
「…うわぁ、キモッ…ここまで変わり身激しいと正直引くわぁ…」
「はぅっ…!あ、いや、その、これは…」
「・・・はぁ、…まぁ、それはどうでもいいとして…そんなことより」
「…そんなことよりって、そんなぁ~…」
「お前の言ってた神殿ってのはあの遺跡の事だよな」
ちょっと強めに言ってさっきまでの雰囲気を無理やり真面目な物に変えた。
「…えっと、あ!、はい、そうです」
どうやら、この残念系自称女神は自分で言っていた事を忘れていた様だ。
取り敢えず忘れていた事に気付かなかった振りをして話の続きをした。
「…んで、力の核ってのはその遺跡の奥にあったあの大きな水晶か?」
「はい、そのとうりです!」
やはり予想した通り遺跡が神殿で、水晶が力の核らしい。
「…つーかっ、あの水晶に関しては触れただけなんだが?」
「その触れた事がきっかけで壊れたんです」
「・・・マジで?」
「・・・マジです」
(どうやらマジな様だ。・・・つーか、どんだけ柔なんだ?あの水晶…)
「普通は触った程度で壊れる程弱いものではないのです。けれど…長い間誰も手入れをして貰えなかった為に凄く壊れやすくなっていました」
「そんなときに俺が触れてしまったと…そう言う事か?」
「はい、そうです」
本当に女神なのかの証明はまだされてないが水晶を壊してしまったのは事実なのだ。
「それで…あの…えっと…」
何だかいきなり歯切れが悪い…。
「私の力が戻るまで面倒を見てください!」
いきなりヒモ宣言された。
「…あ!、…えっと!、…その!面倒をと言うか…力を貸して欲しいんです」
(面倒を見てと、力を貸してではかなり違いがあるんだが・・・)
「えっと…力を取り戻すには戦いの中で経験を積んで強くなっていくのが一番何です」
(…詰まりRPGゲームで言うところのレベル上げを手伝って欲しいと言う事か・・・。
現代のゲームに置き換えると水晶…彼女が言うところの力の核がセーブデータを記録していたメモリーでそれを俺が壊してしまったから彼女のレベルが初期化されてしまい、現在レベル1の状態だから少しでも早く元のレベルにまで戻りたいから責任をとって手伝えと言う事らしい)
「…えっと、…だから、お願いします力を貸して下さい!!」
そう言って深々と頭を下げた。
(しょうがない、事故とはいえ水晶を壊してしまったのは事実、手伝ってやるか)
「…わかった、手伝うよ」
何となく照れくさくて頭を掻きながらそう言った。
「…あ、ありがどうございまずぅ~」
彼からの返事があるまでよほど不安だったのだろう。
手伝って貰えると分かってよほど安心したのか、はたまたそんなにも嬉しかったのかは分からないが、笑顔のまま泣き出した。
「取り敢えず…これからよろしく」
「ばいぃ、こちらごそよろじぐお願いじます」
「それで…、今さら何だが俺の名前は神代一樹・・・君のなまえは?」
「グスッ、そう言えば名乗っていませんでしたね…。それでは改めまして、私の名前はアテナと言います。これからよろしくお願いします。一樹さん」
こうして神代一樹と自称女神アテナの共同生活が始まったのである。
色々と書いている内に長くなってしまいました。
今回は遂に自称女神の名前が出てきました。
と言っても前回をお読み頂いたのなら伏線回収をされていたと思います。
次回からいよいよ異世界での生活を書いていきたいと思います。
次の更新を楽しみにしていて下さい。