第3話 遺跡
壁画を見つけてから長く蛇の様に右に左にと折れ曲がった通路を進んでいた。
「又か…、後何回繰り返す気だよ…」
そんな風に呟いて仕舞うほど繰り返し曲がっていた。
最初の10回位までは数えていたのだが何度も何度も繰り返すたびに段々数えるのが面倒になり今では数えるのを止めてしまったほどだ。
しかも、曲がる度に少しずつ下へと降りているのだ。
「確か…、30回?…いや、40回位だったか?…、あぁっもうっ、いい加減そろそろ何かしらの変化が有っても可笑しくないはずなんだが…」
そんな悪態を付きながら曲がり続けた先にようやく変化があった。
「おいおいおい、変化が欲しいとは言ったがこんな変化は要らねぇよ…」
彼の目の前に現れたのは沢山の白骨だった。
その白骨達は矢が刺さっていたり骨が砕けていたりと様々だがどうやら罠によって死んだのは確実の様だ。
「横から矢が刺さっているのは解るが、骨が砕けているのはなぜだ?天井が落ちて来て潰されたのか?しかしそれだと矢が刺さっている白骨が砕けていないのがおかしい…」
砕けた白骨以外は矢が刺さっていたり槍の様なもので突かれたと思われるものしかないのだ。
しかも、その二種類の白骨には傷以外の場所の骨が砕けた形跡がないのだ。
砕かれている白骨を良く観察して視るとどれも正面から強い力が掛けられて砕かれている様だ。
(とにかく、慎重に進もう)
そう思って慎重に最初の一歩目を踏み出したのだが…。
ガコンッ、そんな嫌な音と一緒に踏んだ床が沈むのを感じた。
「…ッ!!」
短い呼吸と共に罠に対して警戒していたのだが、暫くしても何も起きなかった。
どうやら、白骨達の誰かが先に発動させた罠を踏んだらしい。
「・・・ふぅ、た、…助かっ~た」
本当に運が良かった。
もし、白骨達の誰かがこの罠を踏んだいなかったら今頃彼は白骨達の仲間入りを果たしていた所だ。
しかし、一歩目でこれなのだ油断は出来ないと白骨達を見て思った。
そこで、ふと気がついた。
白骨達は矢や槍で死んでいる者は少なく、骨が砕かれている者のほうが圧倒的に多いのだ。
(どの床が罠なのか判別したのか?、それとも矢や槍が出てくる前に走り抜けたのか?)
恐らくは前者だろうと思いもう一度床を注意深く観察した。
すると、床には目印がしてあった。
どの床が罠でどの床が違うのか分かりやすくしてあったのだ。
そして、その目印とは。
「これ、親父の手帳に書いてあった目印だ」
注意して視て初めて分かる程度だが。
ソコには確かに、父親である神代信也が使っていた手帳に記されていた物と同じだった。
「お袋のためか?・・・それとも、他の誰かのために…?」
まさかとは思うが自分の為に残したのか?と思い、その考えを否定した。
「そんな訳ないな、俺が親父達のあとを追うなんて分からないはずだしな…」
そう否定してはいたが完全に否定した訳ではない。
なぜなら、彼の持つ手帳は両親が失踪して数年後に彼のもとへ父親の名前で彼に送られて来た物なのだ。
しかも、手帳に書かれた内容はこの遺跡の事ばかりなのだ。
遺跡の場所しかり、ルーン文字しかり、床の目印しかり。
「まっ、誰のためでも助かるのだからそれで良いや」
ソコまで考えてふと、疑問が浮かんだ。
(しかし目印があって、罠の場所が分かっているのに?、どうしてこんなに遺体が多いいんだ?)
そして気づいた。
(・・・っ!!、まさかっ!、親父が見落とした罠がこの先にあるのかっ!?)
そう考えるとこの白骨の数や砕かれていたのにも合点がいく。
(そうなると厄介だな…、目印のある場所までは良いとしてもその先には…)
あの白骨達を砕いた罠が待ち構えているのだ。
(親父達がその罠で死んだとは考えにくい。
そうなると、わざと目印を付けなかったのか?。
それとも、元々書いてあったのか?)
そんな風に疑問に思うが今は…。
(とにかく、先へ進むにはここを越えないと)
そう覚悟を決めて先ずは一歩を踏み出し目印のついた床を踏んだ。
すると今度は先ほどとは違い罠は作動しなかった。
やはりあの目印は罠のない床を差し示していたのだ。
そして、最後の目印の所まで来た。
(ここまでは、無事にこれた…。けど問題はここからだ。)
最後の目印の上に立ちその先の床を眺めた。
目の前には正四角形の床が5枚並んでいる。
そして、4枚、3枚、2枚と床板は減っていた。
恐らくだがその床はそれぞれ罠のスイッチが存在し罠の起動するスイッチが1/5、1/4、1/3、1/2と減り侵入者の運と勇気を試す為の仕掛けになっているのだ。
(さてまずは確率1/5…どの床がスイッチだ?・・・)
注意深く床を観察したが、どの床にもこれといった違いは無く、どれがスイッチかは分からなかった。
(踏んでみなけりゃ分からないってか、仮にスイッチの確率が1/5じゃなく4/5だったら…。くそっ、いくら何でも難し過ぎるだろ!!)
確かに、スイッチの確率が1/5ではなく4/5だった場合危険度は恐ろしく跳ね上がる。
しかし、4/5の確率だった場合は先に進めば罠の起動確率はどんどん減り、危険度は低くなっていく。
次の床は3/4、次は2/3、最後に1/2となる。
しかし、この罠の怖い所は他にある。
罠の起動確率への不安。
どの床がスイッチなのか分からないことへの恐怖。
その二つを乗り越えてもまだ、スイッチの数が減る事での安心感から来る罠への警戒心の緩み。
この三つの段階的な罠のせいで危険度は飛躍的に高くなっている。
(どうする・・・?どうすればいい・・・?。
いったい親父達はどうやってこの罠を抜けたんだ?。目の前の床が、この砕かれた白骨達に関係してるのなら…何で床の上じゃなくてこっちにあるんだ?。それに、何でこんなにあっちこっちにあるんだ?)
そこまで考えてから周りにある砕かれた白骨達をもう一度注意深く観察し直した。
良く視ると砕かれたもは彼の近くだけでなく。
彼が立っている場所から後ろの方。
それも、かなり離れた場所にもある。
まるで強い力で吹き飛ばされた様に。
(・・・あれ?もしかして?)
砕かれた白骨達を見てそこに気づいた。
(あの白骨のある場所が予想道りなら罠の無い床は…あそこと…あそこ…それとあそこか…)
白骨達のある場所に注意すれば安全な床がどれなのかは簡単なことだった。
(確率2/3までの床は白骨達のおかげで安全な床が分かった。後は最後の二つだが…。そこまで行ければ後は触って確かめれば良い)
最後の二つの床、その攻略は単純だ。
目の前の床に触って罠が動かない程度で押してみれば良い。
もし、スイッチのある床なら沈み混む感覚がある筈だ。
安全な床ならばそのまま進み、
スイッチのある床でも罠が動かなければ、残った床の方に進み。
もし罠が動いた場合は、後ろの安全な床に退避すれば良い。
なぜ、最初からこの方法を使わないのは、単純に罠を回避するスペースが無かったからだ。
目印のある床はサイズが小さく、飛び飛びにあるため回避には向かなかった。
対して、目の前の床は四角形の為、サイズはそれなりにあり、安全な床も離れていない、その為安全な場所は見た目よりも広い。
最初の床で同じ方法を使った場合、罠を避けきれず最悪の場合は別の罠を動かしてしまう可能性があるのだ。
最初から同じ方法を使わなかったのはその為である。
「これで先に進める。よし、行くか!」
気合いを入れ直した彼はまず目の前にある五つの床を見て右から二番目の床へと一歩を踏み出した。
次に四つの床の前に立ち、左から二番目の床へと跳んだ。
そのままの足取りで三つの床の前に立った。
「ここまでは、予想道りだな次は・・・左だな」
三つの床の左の床を踏みしめた。
残りは目の前の二つの床だ。
「さてと…目の前の床が安全だと良いんだが…」
床の前にしゃがみながら呟き床に手をついた。
一呼吸置き覚悟を決めて罠が動いても直ぐに動ける姿勢を作り左側の床を押した。
そして、床は微動だにせず硬い感触を彼に返した。
「・・・ふぅ、どうやら此方が正解みたいだな」
そして、彼は二つの床の内左の床を選択ししっかりと床を踏みしめた。
最後の罠を回避して床を踏みしめ若干緊張を和らげて一歩を踏み出した。
ガコンッ
踏み出した瞬間その音が確かに聞こえた。
「…ッ!!」
咄嗟に彼は右前に跳んだ。
その瞬間天井から何が出てくるのを感じた。
そして、物凄い風切り音と共に何かが横を通り過ぎた。
跳んだ先で受け身を取り振り返った彼が視たものは。
天井から吊るされた大きなハンマーがさっきまで自分が居た場所を通り過ぎる様子だった。
「・・・あ、…危なかった。
罠を見つけてからすでに二回目かよ…」
そして、天井に吸い込まれて行く巨大ハンマーを彼は見ていた。
「・・・そりゃぁ、何度も罠が起動する訳だ」
そう呟きながら彼はその場に座り込んだ。
彼が生きているのは紙一重の奇跡だった。
やっとのことであれだけの罠を潜り抜け、気が緩んだ所への天井からの巨大ハンマーである。
「…少し休んでから、先に進もう」
彼は思わずそう呟いて仕舞うほど彼は疲労していたのだった。
第3話書き上がりました。
以下がでしたか?
今回はサブタイトル道り遺跡の中の出来事を書きました。
父親の足跡を見つけたと思ったらソコには、危険な罠、罠、罠、そんな彼の苦労を書いて見ました。
楽しんで頂けたのなら幸いです。
次はいよいよ自称女神のお話です。
楽しみにして待っていて下さい。
それではまた次回。