第26話 緊急事態1
side:???
あたし達は今森の中を走っている。
どうして!何で!?そんな風に叫び出したい位に苦しみながら王都に向かって走っている。
「はぁ、はぁ、はぁ、っ!」
もう10分以上全力で走っていた。
その所為であたしは少し出っ張っていた根に足を取られて転びそうになった。
それでも何とか踏み留まり転ぶのを回避した。
「おい!大丈夫か!?」
「は、はい!それよりも!」
「あぁ、王都まではもう直ぐだ!きついだろうが………」
「えぇ、死んでもたどり着きます………」
「おい!今はそんな事立ち止まって話してる場合じゃないだろうが!」
えぇ、分かっています。
このままでは王都が大変な事になる事も………だから。
「分かっている!行くっ!?エリル!?」
その叫びと共にリーダーはあたしの身体をリーダーの後ろへと押してあたしの前に立ってあたしを何かから隠す様にしていた。
そんなリーダーにあたしは声を掛けられなかった………何故ならそこには身体中に矢が刺さっているリーダーがいたから。
「リーダー!?」
「ゴフッ!……くそ………しくじっ……たぜ」
「そんな!リーダー!?」
あたしは思わずリーダーに駆け寄ろうとしたのだが。
「来るんじゃねぇ!」
「でも!」
「………俺は……もう………助からねぇ。………だから………最後の………リーダー命令……だ。最後の……1人に…なっても……ゴフッ!……王都に……危機を伝えろ!……たのん…だ……ぞ………………………」
「リーダーぁぁぁぁ!?」
「クソ!行くぞエリル!」
「でも!」
「でもじゃねぇ!………それが、リーダーの最後の望みだ!」
「………っ!?分かり…ました」
あたしは、悔しさと不甲斐なさで泣きながらそう返事をしてリーダーの亡骸を置いて先輩の後に続いて走りながら。
必ず迎えに戻ります………。
そう心で決意を固めて王都へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side:一樹
「カズキ様、最初はどちらに向かいますか?」
宿屋から暫く歩いた所でそう、アリエスが聞いてきた。
「取り敢えず最初は組合だな。貰える家の情報がなけりゃ何を用意して良いか分かんないしな」
どれ位の距離に在ってそこまでの移動に何日掛かるのか等聞かないと分からない事が多いのだ。
もし、ここから遠い場所だった場合そこに行くまでの道具や食料、途中に立ち寄る村や街、安全な道等色々調べなければならない。
ましてやここは異世界、こないだのキマイラの様な魔物が居る世界だ。
どんな危険が有るか分からない………少しでも安全を手に入れるには妥協してはならないのだ。
「………成る程納得です。しかし、私達姉妹が居ますので例えどんなに危険でも安全に行く事が出来るとお約束致します」
そんな風にアリエスは言っていた。
………何て言うか頼りになるよ。
その後も旅に必要そうな物や何かを話ながら歩き気が付けば組合の前に着いていた。
さて、家の場合は何処になるのかね?。
そんな期待と共に俺達は中に入ってた。
「さて、誰に聞こう………」
って言っても恐らく………。
「カズキさ~ん!」
何て考えてる内にヤッパリ向こうから声を掛けてきた。
昨日までのラナの様子を知っていればこうなるのは予想出来る。
こちらとしては助かるのだが………。
「ちくしょう!あんな奴がラナちゃんに声を掛けて貰うなんて許せん!」
「羨まし過ぎる!俺等なんか依頼の達成とかそう言う時にしか話せないのによ!」
「所でよ、あの男見ろよあいつ線が細いぜあんなんじゃ狩人が勤まる筈がねぇぜ」
「まったくだ!あんな男より俺の方が良い男なのに………」
「「「「「それはない!」」」」」
「ちょっ!?お前等!?」
何か俺の悪口を言ってるんだけど………漫才にしか見えない。
しかし、これが従妹が良く言っていたテンプレってやつなのか………。
昔………と言っても10年位前だが俺は両親の事を忘れようと無理をしていた時期が有った。
その時従妹に影響を受けてゲームとかをやっていたのだが小説等はたまにしか読んで無かった。
従妹はそっち方面が好きで毎日の様に読み漁りその都度俺にその内容を教えて来ていた。
その中には今回の様な絡み方をする内容が多かった気がする。
………しかし、アイツ等あんな風に俺の事言ってるって事はこの間のキマイラの時には居なかったんだな。
あの時居て知ってればあんな事は言わない。
そんな風に昔の事とかを考えて居たのだが………ラナの顔を見た瞬間俺は思わず身体をビクッとさせた。
………そこには何の感情も伺えない程の無表情が有った。
人とはこんな顔が出来るのか……何てバカな事を考えてしまう程に何も感情が………いや、怒りだけしか感じられない。
絶対この後何かが起こる………そう思わせる表情だ。
このままでは厄介事になる!。
俺はそう感じてラナを止める為に声を掛けようとした………しかし、それは出来なかった。
突然俺は後ろから何にぶつかられてその何かと一緒に倒れた。
「ぐっ!?」
俺にぶつかった何がそのまま上に乗っかり余りの衝撃に思わず呻いてしまった。
周りもいきなりの事で驚き静まり返っていた。
一体何が?そう思って身体を起こそうとしたが上に何が乗っかっていて上手く動けない。
その上何か背中が塗るっとした暖かいなにかで濡れて気持ち悪い………そしてこの暖かみの有る塗めり気には覚えが有った。
これは恐らく………。
とにかく退いて貰わないと。
「………アリエス、動け無いから退かしてくれ」
「………はっ!す、スミマセン只今!っ!?」
アリエスが息を呑んだのが分かった………どうやらそれ程の怪我の様だ。
背中の濡れた感触からもそんな感じが伺える。
これは何が起こったな………はぁ、この世界って思ってたのよりもかなり危険なのかも知れないな。