妖怪とはなんぞや
タイトルの通り、説明回です。
さて。
今俺はハッタリと一緒に歩いているわけだが。
気まずい。
いや、別にケンカとかをしたわけじゃない。
お互いに、無言なんだ。
ハッタリは無表情だし。
何考えてんのか、さっぱりわからん!
……少なくとも俺と同じようなことは考えてないだろうなあ。
と、フラグを建てておけばハッタリも同じことを考えてくれるかもしれない。
まあ、それはともかく。
こういうのって大したことないように思えるけど、実際になってみるととんでもなく気まずい。
どうしよう。
話題がない。
あ、でも。
色々、この世界について聞いた方がいいよなあ。
物知らずだと思われるかもしれないけど、田舎者っていう設定で行こう。
そうしよう。
「……ハッタリ。さっきお前が言っていた、妖怪というのはなんなんだ? 襲われるとか言っていたし、何と無く予想はつくけど」
まずは知らない単語の意味から聞いて、そこから話題を広げる。
まさに完璧パーぺきパーフェクトな計画。
名付けて作戦なし作戦。
臨機応変な行動が出来るが、判断力が低いと全く意味のない作戦だ。
要するに、俺には扱えない作戦ってことです、ハイ。
……ダメじゃん。
つーか、ハッタリ返事遅いな。
ーーあれ?
今、ハッタリの方に目を向けたら、なんかすげー呆れた目線向けられてたんだけど、どゆこと?
あ、田舎者っていう設定つけんの忘れてた。
さっさとフォローしよ。
「……いやー、ほら、あれだ。俺って田舎者なんだよー。だから知らないことだらけなんだよなー。教えてくれるとありがたいなー」
棒読みになった。
フォロー失敗。
「むしろ田舎者だからこそ知っておくべきだと思いますが。先程からバカだバカだとは思っていましたがここまでバカだとは思っていませんでした。あなたを舐めていましたね」
どうやら妖怪ってのは常識らしい。
選択ミスったわ。
もっと何かの専門分野の用語だと思ってた。
しっかし、 常識となると一気に聞きにくくなるな。
自分は非常識人です、って言ってるようなもんだし。
……いや、実際そうなんだけど。
……まあいいや、もう聞いてしまえ!
「あ、あははは……。それで、妖怪って何なんですか?」
「……その様子だと、本当に知らないようですね。てっきりからかってるのかと思いました。まあ、別にいいですよ」
うっし、ハッタリがデレた!
プライドを投げ捨てて聞いた甲斐があったぜ!
って、痛っ!
なんかハッタリに殴られた。
「……何故かはわかりませんが、不愉快になったので殴りました。どうせ原因はあなたでしょう? まあそれはそれとして、常識を教える代わりにそちらの情報も幾つか渡してもらいます。それで良いですか?」
女の勘すげー。
つか、悪びれもなくイラっときたから殴ったって言っちゃったよ、この人。
何て奴だ。
変なこと考えた俺も悪いんだけどね。
そんなことはどうでもいいんだけど。
俺から渡せる情報なんてそんな多くないぜ?
精々が、異世界転移したこと、神様のこと、あとは……前世の知識とか?
……意外とあったわ。
まあでも、異世界転移のことは話さない方がいいよなあ。
もしかしたら話したらいけないことなのかもしれないし。
神様の話題とかね。
宗教の地雷とか絶対踏みたくない。
ま、話す必要もないし、話さないことにしよう。
多分、ハッタリが聞きたいのは転移とか魔法のことだろうし。
……あれ?
転移のこと話すってことは、異世界転移のこと話すってことだよな?
やっべ。
墓穴掘っちまった。
まあいいや。
ラノベから設定借りてきて誤魔化そう。
何とかなるだろう。
「おう。いいぜいいぜ。その代わり、常識の他にも色々教えてくれよ」
「……交渉成立です。では、まずは私から質問させて頂きます。……あなたは、この森へは転移してきたと言っていましたが、転移について詳しく教えてください」
俺も知らんわ、そんなもん。
やったの俺じゃなくて詐欺神だし。
ええい、魔法ってことで通してしまえ!
さっき転移は魔法だって説明しちゃったしな!
……はあ。
作戦なし作戦、やっぱり俺にはハードルが高いな。
「さっきも言ったと思うけど、別の場所に一瞬で移動する魔法だぜ。まあ、魔力消費が多くてそうポンポン使えるもんじゃないから今は無理だけどな」
やってみせてくださいとか言われても困るから予防線を張っておく。
「……そうですか。では次の質問です。あなたは一体、どこから来たのですか?」
うわあ。
難問きたー。
だから俺も知らないって。
何処だったんだ、あれ?
詐欺神がいたんだし、神界?
あの世?
外なる世界?
俺の方が聞きたい。
適当にでっち上げるにしても、この世界のこと知らないしなー。
ついでにいえば俺は田舎者とも言っちゃったし。
あ。
辺境で魔法の師匠に拾われたってことにしとこう。
で、ある程度戦えるようになったから転移で放り出されたと。
そういう設定でいこう。
……魔法は使えないけど。
「実を言うとな、俺にもそれは分からないんだ。物心ついたときからずっと師匠に魔法を教えてもらってたからな」
……にしても、まだ異世界にきて間もないのにどんどん俺に関する嘘設定が増えていくな。
ボロが出ないといいけど。
……無理か。
根掘り葉掘り聞かれたら多分ボロが出る。
「そうですか。……全く役に立たない情報ばかりでしたね。交渉成立です、なんて言って損しました」
あれ、もっと色々聞かれるもんだと思ってたんだけど、もう終わりなの?
まあいいや。
今は助かったことを良しとしよう。
「今更後悔しても遅いぜよ。……じゃ、次は俺の質問だな。もうすでに何度か聞いたけど、妖怪ってのはなんなんだ?」
やっと妖怪の正体がわかる。
魔物的な何かだとは思うけど、詳細は分からないからなー。
ハッタリに聞くのが一番手っ取り早い。
「……妖怪について私が知っていることはそう多くありませんから、教えられるのはごくごく基本的なことだけですが。妖怪というのは、得体のしれない不気味な力を使う者達のことです。私達を狩って食べるものもいますね」
者達ってことは……まさかの超能力者?
超能力者は迫害されるとか、そんな感じ?
「もっとも、妖怪は辛うじて人型を保っている様な者が大半で、完全に人の姿をした者は私は見たことがありません。……私の友人は見たことがある、と言っていましたが」
妖怪見たことあったんかい。
よく無事だったな。
ま、何とかしたんだろう。
「ハッタリさんハッタリさん。それって人が人の姿を捨てて妖怪になるってこと?」
「なんですか、それ。妖怪と人は全く別の存在ですよ」
人ではないらしい。
じゃ、魔物扱いでオッケーなのか。
「んー、まあそれは分かったけど。得体の知れない不気味な力って何なの? 教えて! ハッタリせんせー!」
あ、ハッタリせんせー!
って言った瞬間に顔が不機嫌になった。
デリケートだなあ。
ま、無表情よっかマシか。
「……それは、各妖怪ごとによって違いますから、何とも言えません」
「いやーほら、この種族はこんな能力、とかさ。代表的な種族だけでいいからさ」
「……? ああ、そういうことですか」
いや、勝手に納得されても困るんだが。
「基本、妖怪に種族はありませんよ。あっても人間の様に群れたりはしませんし、種族が同じでも、個体によって能力だってまるで違います」
人のことを人間って言う人、始めて見たわ。
つか、それどうやって対策すんの?
対策のしようがない気がするんだけど?
「ですから、妖怪は危険なのです。いつ、どんな時にどうやって襲われるのかが全くわかりませんからね」
「ええっと、さっきここは妖怪が出る、とか言ってたけどさ。知らず知らずのうちに襲われてるとか、ないよね?」
「ありませんよ。もしそうだったらさっさと倒しています。……これでも、陰陽師なんですよ?」
また新しい単語きたー。
もうやだ。
これ以上情報を伝えられたら頭がパンクする。
…… けど、聞かないわけにはいかないのが嫌なところだ。
「……あの、ハッ」
「そろそろ森を抜けますよ。質問なら、どこか村でも探して、そこで落ち着いてしてください」
もう森を抜けるぐらいに歩いたのか。
……いや、俺がいたところがそんなに深い場所じゃなかったのか?
どっちでもいいや。
つーか、ハッタリさん。
村を探すって。
今から?
「はい、今からです」
心読んだっ⁉
すげー。
「……顔に書いてあります。まあ、村が見つからなければそのときは野宿するだけですから、大丈夫ですよ」
ハッタリさん……万能過ぎない?
常識知ってて、人の感情に敏感で、ちょっとちんまいけど、美人。
トドメに陰陽師やってるときやがった。
陰陽師がなんなのかは知らんが。
まあ、すごいんだろうな。
「ぼさっとしてないで歩いてください。夕方までに野宿の場所を決めるか、村を探すかをしないといけないんですから」
「へーい」
そう言って、俺はハッタリの後についていく。
……やっぱり背低いな。
「うるさいです」
また殴られた。
「……なんだか、締まらないなあ」
ボソリと呟いてみたが、まあそれでもいいや。
自覚はないけど、どーせ一回既に死んでんだ。
前世とは違う、のんびりした締まりのない人生を送るのも悪くない。
登場人物の性格を安定させきれない……。もっと上手く書ければ良いのですが。