出発
※かなり短めです。
「それでは、移動しますか」
ハッタリは準備が終わったらしいな。
「おうおう。とっとと行くべ。……どっちに行けばいいんだ?」
「……え? 道も分からないのですか?」
なんか呆れられた。
……あ、俺が道も分からなくなるようなアホだと思ったのか。
失礼な奴だな。
転移して来たから方向も何も分からないのは仕方がないんだぜ。
詐欺神が教えてくれないのが悪い。
聞かなかった俺も悪いけどさ。
「んなこと言われてもなあ。転移して来たし、方向なんぞさっぱりわからん」
異世界から来たってのは隠すけど、これは言ってもいいだろう。
ファンタジーなんだし、転移ぐらい当たり前だろ。
何より、アホだと思われるのは嫌だしね。
「……てんい? てんいとは、何ですか?」
「……いや、転移は転移だろ。別の場所に一瞬で移動する魔法だろ?」
「魔法? あなた、魔法を使えるのですかっ⁉」
あっ。
やっちまった。
前に読んでたラノベの説明文そのまま使っちゃったよ。
俺、魔法使えないのに。
まあいいや。
フォローしよう。
何とかなるはずだ。
っていうか、何とかなってくれないと困る。
「……何をそんなに驚いているんだ? 魔法ぐらい、誰だって使えるだろう?」
この世界の人は魔法使えるのが当たり前なのか、それとも一部だけ使えるのか。
ハッタリの反応を見る限り後者だろう。
なのに。
なんで魔法ぐらい誰だって使える的な発言しちゃうの、俺⁉
どうしてこういう大事なところで噛むかなあ。
や、混乱してるってのもあるけどさ。
すごい訂正しにくい。
ハッタリがすげー考え込んでるもん。
今更、『間違えちった、てへぺろ』とか恐ろしくてできん。
やったら間違いなく殴られる。
そう思えるぐらいには考え込んでる。
つか、さっきの無表情はどうした。
眉間の皺がひどいことになってるぞ?
まあいいや。
常識を知らないアピールしとけば後で知らないことがあってもフォローしやすいし。
そう。
これは計算してやったのですよ。
俺は策士だかんね。
と、ひとしきり自分で自分をかばってみたら、想像以上に痛々しかった。
そしてウザかった。
もう二度としない。
したくない。
……ハッタリの奴、復帰が遅いな。
まだ考え込んでる。
「ハッタリー、まだかー?」
頭をぺしぺし叩いてみる。
が、反応なし。
頭を撫でてみる。
が、これも反応なし。
頭に頭突きをしてみる。
が、なんとこれも効果ーー
「ーー痛っ! いきなり何をするんですか! 返答によっては殴りますよ!」
ーー流石にあったわ。
つか、もう殴ってるし。
脛蹴るなよなー。
痛いジャマイカ。
……余裕ぶってるけど、本当に痛い。
「いやー、反応が無かったからねー。それにハッタリの頭なんかすげー叩きやすかったし。まあ、とりあえずさっさと移動するぜよ。移動開始宣言してからまだ一歩も動いてないよ?」
痛っ。
殴られた。
それも鳩尾を一発。
めちゃくちゃ痛いっす。
けど、オイラは男だから我慢するべ。
「……聞きたいことがたくさんありますが、それは後回しにしておきます。まずはこの森を出ましょう」
「アイアイサ〜。……んで、森から出る方法は分かるのかいな?」
「わかるに決まっているでしょう。あなたと一緒にしないでください。」
「さっきからさりげなく俺がディスられてる感じがするんだけど、俺の気のせい? 俺なんかしたっけか?」
「特に何もしてませんよ。あとこれはいじめじゃありません。気のせいです。」
気のせいならいいや。
んじゃ、森から出ますかね。
まあ、ハッタリに着いて行くだけだけどな!
……それにしても、こいつのキャラが全くつかめない。
俺をからかったくせにそのあと急に真面目な雰囲気になったし。
かと思えば今度は刺々しい、近寄りにくいオーラだし始めたし。
ま、いっか。
そもそも俺の分析なんて塵ほども役に立ったことがないしな!
問題ナッシング。
……だといいなっていうのは俺の希望。