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『よろしくお願いします! それじゃ、早くお帰り下さい』
「腹、減ってないの?」
『えっ? そりゃ、もちろん減ってますよ。でも、じっと我慢の子です。合格するまでは…』
「ははは…合格か」
『笑いごとじゃないですよご主人、僕には…』
「ああ、そうだね…」
『小次郎です』
「そうそう、小次郎君だったね、失礼!」
『謝ってもらうと、かえって恐縮します』
「帰ったら、なにか持ってくるよ。じゃあ、また…」
里山は早足で公園から去った。
「あら! 今日は早かったわね」
沙希代は里山の姿を見るなり開口一番、いい迷惑だわ…みたいな顔でそう言った。
「ははは…、俺だって、たまにゃ早く帰るさ」
ここ数年、里山の帰宅は九時以降だったのだ。沙希代の渋面を見るのが嫌だったからではないが、飲んで憂さを晴らす日々が続いていたのだった。それが、今日に限って俄かのご帰還なのだから、そう言われるのも当然か…と里山には思えた。
機嫌良く返した里山は冷蔵庫へ直行した。