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駅を降りると、里山の足は自然と早まった。そして・・ついに、家が眼前に迫ったのである。必然的にそれは、公園が迫っていることを意味した。
公園にさしかかったとき、里山はなぜか少し緊張していた。里山に気づいたのか、公園の木々の茂みに隠れていた子猫の小次郎が細やかに速く歩いて里山に近づいた。チョコチョコと近づく小次郎に里山は一瞬で気づいた。
「今、帰ったよ…」
矢も盾もたまらず、里山は小次郎に声を投げかけていた。可愛さもあったが、会社で考え続けた今朝の現実離れした出来事を確認したい気持も多々あった。里山の心中の小次郎がふたたび話す期待感は五分五分だった。小次郎は止まると、すぐ近くに立つ里山を見上げた。だが、じっと見つめるだけで、里山に話しかけようとはしなかった。里山は、やはり今朝の俺はどうかしていたんだ…と、鬱積した気疲れによる体調不良のせいにし、諦めて歩き出した。瞬間、ははは…猫が話す・・馬鹿げてる! と、自分が変人に思えた。しかし、里山が歩き始めて数歩したときである。
『あっ! ご主人、お待ち下さい!!』
里山の背後に、朝よりはやや大きめの聞きなれた声がした。里山は、思わず振り返った。
『ええ、ええ…。僕は話しますよ。このことは二人だけの秘密です。それよりか僕を飼ってくれるよう、奥さんによろしくお願いします』
「ああ、それはもう…。近々、必ずなんとかするよ」
里山は子猫が話すという不可解な現実を確認し、認めざるを得なかった。