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「そんなこと言ったって、哀れじゃないか!」
里山 武蔵は朝の出がけから妻の沙希代と言い争っていた。
「そのうち、いなくなりますよ!」
「そうは言うがな。毎日、前を横切って通勤する俺の身にもなってみろ! ひもじそうにニャ~ニャ~寄って来る子猫を、無碍にできるかっ!」
「見なきゃいいじゃない、早足で通り過ぎるのよっ!」
「お前ってやつは…」
里山は一瞬、なんて不人情なやつなんだ、離婚だっ! と言いかけ、思わず言葉を飲み込んだ。あとが怖かったからだ。
里山が言った公園は、里山の家のすぐ横にある町公園で古くからあった。毎朝、通勤する里山は、その前を横切り、10分ばかり歩いて駅から電車に乗る毎日だった。たまに近所の人と出会い、挨拶を交わす程度で、毎朝の通勤は、なんとも平凡な日々だった。それが、数日前から一変したのである。
ある朝、公園横を横切っていた里山は、いつもと違う気配を感じ、ふと公園を見た。なんと! 里山の足下に小猫が近づいて来るではないか。里山は動物が嫌いな方ではなかったから、追っ払わずしばらくその場で立ち止まった。すると、ニャ~ニャ~鳴いていた小猫は、この人からは餌を貰えないな…と思ったか思わなかったのかは分からないが、公園のどこかへ姿を消した。そんな日が、数日続いていたのだった。