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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
大陸の章~獣の絶地訪問編
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闘技場のある都市を歩く

交易都市とユンが胸を張っただけあって、ビゼフの街の商店街は中々の品揃えだった。

文化や嗜好の違いを痛感するというか。

巨大な生物の骨を削って作った飾りであるとか、何かしらの呪術的細工を施された食器であるとか。

獣の剥製なども飾られているが、どんな獣なのかが判別出来ないものもあった。


「とはいえ…」

「ええ…」


見て回る分には楽しいのだが、よく考えてみると通貨を所持していないショウと汀である。

今まではセシウスやダインの膝元であった事もあり、その辺りに不自由はしなかったのだが、このビゼフはセシウスの国の中と言っても彼の支配下にあるとは必ずしも言えない。


「どちらかと言うと、土産物が多いですねえ」

「獣の絶地の珍しい品が分限者に好まれるのでしょう。こういう品は国に戻る時には仕入れてもいいのでしょうが…」


土産物などを手にしてもかさばるだけで旅の邪魔にしかならない。

自然、見回る対象は土地の美味しいものなどに限定される訳なのだが、逆にそういう店は多くなかった。


「闘技場が見物には一番いいのでしょうか」

「行ってみましょうか?」


ユンに聞いた話では、獣の絶地の元将軍やそれに準じる立場の者が闘技場でその腕前を競っているようだ。

獣の絶地の亜人の強さとは果たしてどれ程のものか。

密かに興味のあるショウだった。



取り敢えず少し自由な時間が出来た事で、ショウは汀とビゼフの街の散策に出かけた。

サンカはダインの護衛として残っている。この顔ぶれの中で戦力として最も弱いのが彼だからだ。

セシウスはショウの弟子となって以来鍛錬を欠かしておらず、業剣の効力もあって今ならハンジの一撃も防げるだろうとお墨付きを貰っている。

ヴィントは当初の足踏みが響いている。馬上での槍捌きに定評のある彼は、精神の未熟が原因でセシウス程には腕が向上していない。護衛の方が主君より弱くては恥ずかしいようで、修行に打ち込む姿は必死だ。

業剣は折れれば死ぬ諸刃の技術ではあるが、それ以上の恩恵を与えてくれるものでもある。

獣の王の系譜なので常人には不可能な身体能力を持ってはいるが、今回に至ってはダインは比較の相手が悪すぎた。



「…入場料…!?」


そして入口で頓挫していた。

賭け自体で儲けてはいるようだが、人件費や施設の維持費などに充てる為に入場料は取っているらしい。

職員から丁寧な説明を受けたショウは、幾らなんでも押し通る訳にも行かず、一旦入口から離れる。


「どうされました?旦那様」

「ここも入場料とやらが必要なようです。参りましたね。よく考えたらこちらに渡って来てからあれこれ巻き込まれたりはしましたが、その分銭が必要な事になりませんでしたから」

「蒼媛国のお金では駄目…なのでしょうね?」

「互いの港町なら何とかなるのでしょうが。…そう言えばこちらに来た当初は商家の護衛や用心棒で身銭を稼ごうと思っていたのを忘れていましたよ」


到着してすぐセシウスを助けたので、そう言えばこの国の通貨事情もよく知らない事に気付く。

セシウスに小遣いをもらってもいいのだろうが、それよりは正当な対価を得たいのも確かだ。

ともあれ、今回は諦めざるを得ないだろう。

そう思って首を振った、刹那。

闘技場から一際大きな歓声と、いくつかの呻くような悲鳴が響いた。

だが、ショウが反応したのはそちらではない。汀も感じたらしく、硬い表情となっている。


「今のは…鬼気ですね」

「やはりそうですか。…このような街で鬼気を感じるとは思いませんでしたが…」


だが、表情が硬くなるのには理由がある。

正式な国交が結ばれていない事もあり、列島国家群から大陸へ向かう者は決して多くない。

その中で鬼気を使える者となれば、更に少ない。

そして、近寄らなければ気付かない程度の鬼気しか感じないのは、その程度の力しかないのか、あるいは全力を使う必要を感じていないか。

どちらにしても、この時点でショウは相手が鬼神ではない事を理解していた。最初はもしや濤かとも思ったものの、鬼気の量が鬼神と比べれば明らかに少ないのと、質が悪かったからだ。


「随分と濁った鬼気ですね。果たしてこの使い手は何者なのか、実際に見ておきたい所ですが…」


列島国家群では、狂れるのは鬼神ばかりではない。業剣士もまた狂れる事がある。

これは浄化らしい浄化や、瞑想によって業剣の刃を修復し、相手の血を洗い流す。戦と血に酔わないようにする為の方法だ。

だからこそショウやセシウス、ヴィントの業剣は美しさを保っていられるし、衝動的な狂気に身を任せたりはせずに居られる。

その作業を怠っているとなれば、鬼気だけではなく最早魂まで濁っている事だろう。


「さて…どうしたものか…あ」

「え?」


闘技場内にどう入るかを思案した挙句、やはり強行突破しかないか、などと不穏当な考えを固めているところのショウの目に、留まった一人の人物。


「セシウス!いい所に」

「はい?あ、師匠」


ヴィントを背後に連れて、笑顔で歩いてくるセシウスに、ショウは。


「悪いんだけれど、ここの入場料、どうにか出来ないだろうか」


負けないほどの笑顔で聞いてみた。

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