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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
序章より~イセリウス王国編
9/122

アルガンディア大陸の民族事情

馬車に揺られる事一昼夜。

ショウ達三人の身に、現時点では人からの襲撃はない。



暇に飽かせた訳ではないが、ショウはセシウスから、イセリウス王国をはじめとした大陸の事情について学んでいた。

まずはイセリウス王国の現在である。

アルガンディア大陸南東部に位置するイセリウス王国は、北部を天険の山脈に護られ、西部には南北にわたって建造された巨大な砦『大河の長砦ちょうさい』が頑として侵略者を許さない。

大河ルンカラに沿う形で建築されたそれは、非常に永きに亘って西の大国ムハ・サザム帝国からの侵攻を防いできた。


「イセリウス王国は、亜人との交流が強い国なんです」


国土の南部、およそ三割は森林地帯となっており、東のモス山地へと繋がる。こちらの山は北のクネン山脈ほどの高さもなく、火山帯でもないので樹木が生い茂っており、エルフやウェアビースト族、ドルイドらの里がある。

彼ら森の民は、大陸中央に存在する巨大樹海『けもの絶地ぜっち』から派遣されてきた民が移り住んだもので、本体は獣の絶地にある。

イセリウス王国の立国時には、既にムハ・サザム帝国は在り、獣の絶地を領土とする『獣の王』達と大小の戦を繰り広げていた。

獣の王は、建国初期のイセリウス王家と取引をし、森の南部、戦地近くに住んでいた民をイセリウス王国へと一時的に移住させた。同時に、建造が危ぶまれていた大河の長砦の建設に協力させたという経緯がある。

獣の王は獣人を含めた亜人に顔が利く。


「獣の王か…聞いた事はあるな。単独でも最強と呼ばれる戦士であると」

「寿命以外では不死身だとすら言われていますね。我が国は彼らの力を借りられなければ存続すらできなかったでしょうから、その恩は計り知れません」


北部のクネン山脈のドワーフ族やミノス族を紹介してくれたのも獣の王の伝手つてだという。

王国の肥沃ひよくな大地で産出された農産物との物々交換で、王家は北方の民から強力な武装を手に入れる事が可能となった。ドワーフは酒、ミノス族は野菜類を非常に好む民族性だったので、物々交換の方が元々都合が良かったようだ。

イセリウス王国は、それらの援助を得て、小規模の国家ながらムハ・サザムと局地的には対等に戦える程の強兵を得るに至った。


「この国の農産物は、クネン山脈の中にある坑道を通じて、獣の絶地にも運ばれています。我が国としては、このまま良好な関係を続けたいと願っていますが…」

「フォンクォード伯が即位したら、ややこしい話になりそうですな」


仮にムハ・サザムを後ろ盾にしているのであれば、その敵である獣の王らからの援助を打ち切られるという事だ。内部に亜人の集落が多数あるならば、内乱の火種も同時に多数抱えることになる。


「獣の王が伯の後ろ盾である可能性は」

「それであれば父はドルイドかエルフの呪いで身罷っているでしょう。それ以前に、私の母は獣の絶地からこちらに嫁いできた、あちらのエルフの貴族ですから…」

「ほう、王子は亜人の血も流れておいでか」

「と言うより、我が国の民は大なり小なり亜人の血が流れておりますよ。国家の最初の大事業が大河の長砦建造でしたから、その折に大分混じったようです」


北からはドワーフやミノスが鍛えた大量の鋼材が届き、ドルイドが魔術でそれを組み上げ、人は周囲に農地を作って食物を供給し、ウェアビーストらは昼夜兼行で建築現場を防衛し、エルフらはそれらの補助に動いたという。

不仲とされた亜人達も協力して建てられた不落の要塞は、建造以来、ムハ・サザムの軍勢に攻略された事はない。

獣の絶地とは違う、亜人と人の共存する楽園が、このイセリウス王国であると言える。


「話を聞いていると、ムハ・サザム帝国は亜人を嫌っているように聞こえるが…」

「いや、ムハ・サザム帝国は単純に皇帝による大陸支配を謳っているだけで、そういう事はないかと。完全な実力主義ですから、亜人であれ能力があれば取り立てられます」


何しろ、その側近には獣の王の一族も居るのだとか。


「何代か前の獣の王の弟が王位継承の争いに負け、帝国に亡命したそうです。実力だけなら王に近いという事で、皇帝の護衛役として侍っているらしいですから」

「中々の度量と言えますなあ」

「亜人を認めていないのは、それより更に西の宗教国家アズードですね。あちらには、シグレ様の国のように神性が多数居住するようですから」

「ほほう?」

「アズードの法王は亜人排斥を謳っています。その関係で獣の絶地とムハ・サザム両方を相手に戦争をしています」


アズードの信仰する神性は、国境近くに存在する巨獣『竜』と敵対関係にあるらしく、その関係で竜を支持する亜人『竜人』とも険悪であるとのことだ。

アズードの神性の殆どは既に天上に在るが、その尖兵である『戦乙女』と呼ばれる神性が竜人や竜を牽制している。

また、それでも少なくない数の神性がまだ居住しており、東へと攻め入る時には絶大な戦力として力を振るうだろうと言われている。

また、竜族は例外的に獣の絶地には在住していないが、アズードは亜人そのものへの敵意が存在する為、協力体制にはある訳だ。


「つまり、獣の絶地に住む『獣の王』を中心にした、ほぼ三すくみの状態という事か…」

「ええ。我々は彼らの戦争に対してはほぼ無関係なのですよ」


むしろ、派閥としては大陸最強の『獣の絶地』寄りと言える。寄りというか、完全にそちら側というか。


「この大陸の国家配置はですな、シグレ殿」


と、御者を務めていたザフィオが口を挟んできた。警戒はしてくれているようだが、たまには話に参加もしたいだろう。続きを促す。


「獣の絶地が大陸の中央を東西に三割、ムハ・サザム帝国が南部に三割、宗教国家アズードが西部に二割。そして東部に我が国が一割弱といったところですぞ」

「…残りの一割は?」

「北部ですね。魔人の住む北方大陸と隣接しているので、よく分かりません」


クネン山脈もそうだが、北方は巨大な山脈が並び、人がわざわざ越えるような土地ではないようだ。


「海周りで北に向かった冒険家も居るようですが、あまり良い話は伝わってきませんね」

「ふむ。…魔人、ね」

「彼らの土地に住む魔獣が時々空を越えて来ますが、一体一体が凄まじい力を持っています。魔人はこちらの土地には興味がないようですから現状は問題になっていませんが…」


エルフを凌ぐ魔力、ウェアビーストと同等という身体能力を持つ魔人は、北方大陸に安住していると噂される。

彼らは人口が少なく、大陸を広く活用出来ている為、わざわざ領土意欲がないというのが通説だ。

魔人自体がこちらの大陸には寄り付かないので推測の域を出ないが、もし南方大陸に大挙して侵攻でもしてきた場合、各国が争っている場合ではないだろう、と目されてはいる。

ともあれ、現時点では魔人の存在は王国の浮沈に関係はないだろう。


「ま、大体分かりました。この国は、獣の王から切り離された瞬間、国としては終わりを迎えるということですね」

「むしろあちらの王が我々を属国ではなく、独立した国家と扱ってくれている事の方が驚きなのですけれど」


王子よ、国の代表であるあなたがそれを言うか、と。

ショウが頬を引き攣らせるのに合わせて、御者台のザフィオも大きなため息をついたのだった。

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