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蒼媛一刀流武神傳  作者: 榮織タスク
大陸の章~邪神の右腕編
85/122

結果報告と帝国のこれから

「…そうですか。媛様、御足労をお掛けいたしました。立場に応じての御礼は改めて申し上げるとして、まずは帝国に住む者の一人として心よりの感謝を述べさせていただきます」


帝都オブエゼンの宿にて、テト・ナ・イルチを連れたダイクはまずは汀に向けて頭を下げた。

お忍びとは言え、立場の事も考えれば驚くべき事ではある。


「火群様の顔に泥を塗らなくてよくなり、私もほっとしております。何よりダイク様の決断なくば、この大陸が沈んでいたかもしれないのは確かでした」

「ああ、それもです。私の勘働きも捨てたものではありませんでしたね!」


本当かどうかは最早確認の術もないが、連合城砦に居た崇拝者の幹部の話を鵜呑みにするなら、今動かなければ大惨事になっていた恐れは強かった。


「やれやれ、これでひと段落です。私も大手を振って城下に出られるというものですよ」


正式な報告は明日、登城して行う事になる。その前に打ち合わせも兼ねてと城を抜け出して来たダイクが、宿を訪れたのは宿についてすぐだった。

到着はあまりにも早かった。口では殊勝な事を言いつつも、どうせ街中をふらついていたのだろう。テト・ナ・イルチの方に視線をやれば、こちらを見て頷いてきた。案の定だ。城の重臣達も匙を投げているのか。


「何ですか、一体」

「いえね、日々屋敷を抜け出す中年が居る家では、使用人の人達が頭を痛めていないかと」

「それは迷惑な中年ですなあ。ですがその家を継いだ者は皆、不思議と屋敷を抜け出す生活を送るそうですよ」

「…それは事実か」


愕然とした顔を見せたのはダインだった。自分は父のような行動はすまいと心に決めていたのか、或いは素行不良は父だけだと信じていたのか。


「そうだよ?そして残念な話だが、その中年も若い時分は父親のそういう素行を内心苦々しく思っていたものさ」

「なんてことだ…」

「大体テト・ナ・イルチが私を強く止めないのだから、その辺りはもう国是として臣下にも言い含められているのだよ」


知らないのは子供達だけじゃないのかな、と悪びれずに笑顔を見せるダイク。

これは意図的に隠されているのだろう。恐らくはダイクもそれを知らされて今のダインと同じ思いを抱いたのだと思わせる笑顔だった。

敢えてぼかしたのに、最後は私と言ってしまっている辺りが特に。


「ま、まあいいさ。俺がその悪癖を止めてしまえば良いのだ、うん」

「それはそうと、今回の功績は帝国どころか大陸に鳴り響く事になる。正式な内示は明日になるが、俺の跡はお前に任せる事になるから」

「…それは、今回の功績をショウやテリウスには渡せないという事か?」


まるでどうという事でもないかのように話す父に、それ自体はどうという事でもないかのように受け入れつつも、違う点で苦言を呈する息子。

反応に満足したらしく、ダイクは首を左右に振って答えた。


「シグレ殿には人の世の褒賞など意味はないだろう。銭や権威よりもむしろ国内のあらゆる宿に無料で泊まれる方が喜ばれるのではないかね?」

「あと、汀どのと一緒に回る際には街の案内をつけてもらえると嬉しいな。景色の良い所や名産品が楽しめるとなお良し」

「…あのなぁ」


言外に認めるショウに苦笑を漏らしながらも、そういう事ではないとダインは父に鋭い視線を向けた。


「その辺り、詳しくは明日話すよ。流石にここでは話せないからな」

「ない訳ではないんだな?」

「私の名に懸けて誓うよ」

「ならばいいさ。取り敢えずもう帰ったらどうだ?明日の準備があるのならば、長時間城を空けるのは良くないだろ」

「むう。今回に限ってはその通りだな。と言うか、今日はテト・ナ・イルチの方からもシグレ殿に話があるという事なのだよ。私ばかりが責められるのも―」

「俺、明日で、良かった」

「あ!そういう事を言うかぁ!」


にやりと口許を緩めて言うテト・ナ・イルチに、裏切られた!と子供のように憤慨するダイク。

ほぼ四六時中一緒に居る関係か、やはり非常に気安い関係であるようだ。


「ショウ=シグレ。邪神、討った。魔人、戦った。格、上がったか?」

「どうかな…。邪神は汀どのの手伝いをしただけだしな。魔人と戦った分は上がったかもしれないが、胸を張れる程ではないと思う」

「そんな事はありませんよ」


ショウの自己評価を否定したのは汀だった。

汀がショウの発言を否定するのは珍しかったのか、会話に入っていなかったサンカが目を見開いていた。


「蒼媛様。ショウ=シグレ、格、上がったか」

「ええ。上がりました。あと少し、何かきっかけがあれば神性に至る辺りまでは来ています」

「おぉ!砂の精霊、正しかった!」

「業剣を振るうばかりでなく、術の為に長い期間鬼気を練った事が良かったのでしょう。後は、邪神の砂漠で私の為に怒りを抱いて下さった辺りですか。その時から旦那様の鬼気は既に人の領分を超えておられます」


怒りが限界を振り切った結果、限界以上に鬼気を吹き上げた事が良い方向に転がったらしい。

だが、冷静になってからそれを振り返られると、非常に恥ずかしい。

こちらの表情で察したのだろう、汀は花咲くような笑みを浮かべた。


「もう少しです。楽しみにしておりますね、旦那様」

「…はい」


照れながらも頷くと、汀がそっと寄り添ってくる。

と、テト・ナ・イルチは今度は汀の方に顔を向けて頭を下げた。


「媛様。砂の精霊、喜んでる。瘴気、砂漠、蝕んだ。精霊、沢山、食われた。感謝、伝えて、頼まれた」

「承りました、テト・ナ・イルチ様。私からも精霊の皆様に感謝を。皆様が頑張って下さったおかげで、瘴気に蝕まれた場所は最小限で済みました。そして今は、私の作った湖を残してくれていますね?」

「砂漠、感謝、受けた。でも、穢れなき、水、新たな精霊、産む。砂の精霊、違っても、仲間。感謝、要らない、言っている」

「そうですか。再び多くの精霊がこの地を富ませる事を願っておりますよ」

「俺も、願う。媛様、ありがとう」


テト・ナ・イルチはもう一度汀に頭を下げると、ダイクに向かって軽く頷いてみせた。


「では、皆さん。明日お会いしましょう。ダイン、お前も今日は屋敷に戻らなくて良いよ」





「…大儀であった、ダイン。そして闘神様の名代であらせられる汀様、期待以上の結果を齎してくださった事にダイク・ジェイ・ムハ・サザム、心より感謝申し上げる」


翌日、謁見の間。

あくまで皇帝として、頭は下げずに。

感謝の意を述べるダイクに、ショウと汀は少しだけ頷いて答えた。


「そしてダイン。今回の功を以て、お前を余の次の皇帝とする」

「…承りました。陛下」

「皆も異存はないな」


応じる声が上がる。

ショウにとって意外だったのは、最初にここを訪れた時には吹っかけてきたロヴェリ達が素直に頷いていた事だ。

根回しは完璧、という事か。

見回して反対を示す者が居ない事を確認したダイクは、話は終わりとばかりにショウ達の方に視線を向けた。


「汀様、シグレ殿。御二方はこれより後、幾久しく余の賓客として遇させていただきます。国民全てのとこしえの感謝を以て、御二方への謝礼としたい」

「有難くお受けさせていただきます」

「同じく」


ここでわざわざ追加の条件を出す程、ショウも世間知らずではない。

素直に受け入れる。


「さて、そして。テリウス・ヴォルハート殿、ディフィ・アルボ殿、サンカ=キリノ殿」

「は」

「そなたらが汀様とシグレ殿をよく補佐してくれた事がこの望外の結果につながったと理解している。そなたらには人の世の褒賞は喜ばれようから、それを以て感謝としたい」

「謹んで」

「うむ。それと、だな」


ダイクは一呼吸置いてから、三名ではなくてテリウスに声をかけた。


「テリウス殿に一つ、願いがある」

「…何でしょう?」

「ムハ・サザム帝国はこの度、イセリウス王国との戦争状態を解除し、恒久的な友好関係を結びたいと考えている。その仲立ちを頼みたいのだ」

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